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難病・慢性疾患からみた障害者基本計画

伊藤たてお

 難病患者にも「身体障害者並みの福祉がほしい」との声は大きい。その意味は、身体障害者福祉法の対象に内部障害が認められ、HIV(後天性免疫不全症候群として)までもがいわゆる身体障害として認められるまでにはなったが、さらに、もう一歩踏み込んで、難病・慢性疾患も身障福祉法の対象にしてほしいという切実な願いがある。
 しかし、身障福祉法や障害年金がその対象を症状や障害の固定を概念としている限り、病気によって最も苦しい時に福祉の制度は使えないのが現状である。「難病」が“医療と福祉の谷間”にあると言われる所以(ゆえん)である。
 しかし、1993年の障害者基本法の成立にあたって、参議院が、いずれ難病も対象とするべきとした付帯決議は、それなりの効果を発揮しており、難病対策においても身障福祉法に横並びすべくいくつかの対策が盛り込まれている。
 だが、それはあくまでも擬似的なものでしかなく、とりわけ就労支援や障害年金のように直接的に経済的な問題に結びつく場面では、いわゆる「病気」はまだまだ福祉の手の届くところとはなっていない。
 私たちは、難病や慢性疾患は、障害の原因の最も大きな部分としてとらえることを主張してきた。そのことが今回の基本計画に表現されていることに注目したい。とりわけ「重点施策実施5か年計画」では「1の1の(1)」として、「障害の原因となる疾病の予防及び治療・医学的リハビリテーション」とし、その最初の項で「難治性疾患に関し、病因・病態の解明、治療法の開発及び生活の質につながる研究開発を推進する」という表現に大きな期待を抱いている。
 「基本計画」ではそれが「2の1の(1)」となっており、ほかに「3分野別施策の基本的方向」で、「2生活支援(2)1.ア」として「難病患者及びその家族の療養上又は生活上の悩み、不安等の解消を図るため、難病に関する専門的な相談支援体制の充実に努める」と表現されており、平成15年度予算において、難病相談・支援センター(仮称)を3年計画で全国47都道府県に整備することとなって具体化されている。
 ほかにも「6保健医療」でも3項目に分けて具体的な方向が示されている。私はこれらのことは長年難病の立場から福祉施策の拡充を訴えてきた者として画期的な方向性であると評価したい。
 しかし、それ以外の障害別個別施策に関しては旧態依然とした分類が目立つように思う。旧三障害(肢体、視覚、聴覚)を中心としてつくられていた施策の枠組から「障害者」というものを見る習慣は根強い。社会の支援を必要とする人は「症状・障害の固定した」いわゆる「障害者」だけではないことを、早く認めてもらいたいものだ。
 今回の基本計画が大きな成果をもたらすものとなるのか、それとも単なるスローガンと若干の数値目標の達成のみで終わるのかについては、保健・医療や雇用、年金、介護といった、患者・障害者・高齢者をとりまく社会全体にかかわる問題としての有機的な結合にかかっている。
 差別や人権の問題を含めてこの計画が、一人の障害をもつ国民、難病に苦しむ一人の国民の問題としてとらえていただけることを切に願う。
 行政の各窓口に分類された機能にふりまわされて、統合的な一人の人間の問題として理解されずに、エアポケットに落ちこんでいる患者の悩み・苦しみに触れるたびに、法律、制度とは何のために、だれのためにあるのかとの怒りさえ感じている者にとっては、何か、まだ物足りない、あるいは浮遊感を感じさせるように思うのは私だけではないだろう。何か今少し、毅然としたものが感じられない。その原因の一つには、相変わらずの堅苦しい役所用語が並び、視覚にも胸にも響いてこない、簡単に読み飛ばしてしまいそうな表現にもあるのではないだろうか。一方で、カタカナ用語、それも難しくてよく分からないものも多いのに驚く。逆に全く聞き慣れない日本語にも笑えるが、「障害者用便所」というのはいかがなものか。今の時代に「便所」では、というだけではなく、せっかくユニバーサルデザインとかバリアフリーと言っているのに、ことさら「障害者用」とするのはいかがかということである。
 「鉄軌道駅」の乗降が1日平均5,000人というのも、どうか。北海道では、そのような駅は多分札幌といくつかの駅だけだと思われる。数値目標は、数値そのものを硬直的に把握するのではなく、その地域にとっての必要な要素が考慮されてもいいのではないかと思う。障害者の存在そのものが人口比で単なる数字としてしかとらえられていないような気がして、寂しいような気がしてならない。たとえその地域に住む障害者が10万人のうちのたった1人であっても、大切な一個の人間として見てはもらえないのだろうか。
 最後にもう一つ指摘しておきたい。この計画の達成に向けては、行政だけでやろうとしているのではなかろうか。多くの国民、住民と共に障害者本人も達成に向けて共に力を合わせるべきものとして位置づけられる視点を取り入れてもらえないだろうか。
 「難病」にも発言の機会をいただけたことについて感謝申し上げたい。

(いとうたてお 財団法人北海道難病連、日本患者・家族団体協議会)