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理念倒れの新障害者プラン

石川満

 昨年12月に発表された「新障害者プラン」は、極めて厳しい財政状況を反映し、理念は高く掲げられてはいるが、実際の目標水準や予算が不十分である。
 たとえば「住まいや働く場ないし活動の場の確保」を見ても、グループホームの目標(2007年度)は精神障害者分1万2,000人を含んで3万400人、福祉ホームは精神障害者分4,000人分を含んで5,200人である。現在、精神障害者のうち7万2,000人は住む場所さえ確保できれば、退院可能である。知的障害者の入所施設には約10万人が入所している。これらの脱施設化を進めるためには、その分の新たな「住まい」が必要なのである。これら入院・入所している高齢者も一般的に高齢化が進み、このままでは人生の最後を入院・入所したままで終えることとなりそうである。さらに、入所施設をできるだけ生活の場に近づけるような個室化・地域化等も求められているが、そのことにも触れられていない。一方、宮城県や長野県では知的障害者の入所施設の脱施設化などが報じられている。ぜひ全国でこのような動きが活発化することを期待したい。それにしては、国の目標数値や予算は極めて不十分である。
  障害者の総合的な相談に応じる「市町村障害者生活支援事業」や主に知的障害児者を対象とした「障害児(者)地域療育等支援事業」の一般財源化についても、新プランでは問題がある。それぞれの地域で障害をもった方々の生活障害やさまざまな生活問題に総合的な相談に応じるのは、本来市町村の責務であるはずである。それが行財政改革などで十分に対応できていないために、これらの事業を障害者プランとして目標を定め、補助金の予算を確保してきたのである。これらの目標が達成されないにもかかわらず、市町村が行うべき事務ということで新たなプランでは一般財源化されたのである。地方交付税を受けていない市町村では単純に補助金が消え、地方交付税を受けている財政力が弱い市町村の場合、地方交付税上で算定するというものである。しかし、地方財政の危機、地方交付税の減額、行財政改革の強化などの影響もあり、積極的にこれらの事業が展開されないことが危惧される。それでは一体だれが障害者のさまざまな相談に応じてくれるのか。
 また、2002年度から精神障害者の相談・援助事務についても、市町村で実施されているにもかかわらず、市町村を支援するための方策が明示されていないことも指摘したい。精神障害者地域生活支援センターについても、新プラン目標数値470が掲げられたが、これも不十分である。
 このような障害者の相談・支援については、支援費制度との関連もあるので、本来は市町村単位で実施すべきものである。さまざまな障害をもった方が電車やバスを乗り継いで隣の市町村の支援センターなどに出向くのも、おかしな話である。
 本年4月から始まった支援費制度との関連を考えてみよう。2003年度の支援費関係の国の予算額は、3,212億円(これは11か月分の予算)、そのうち施設関係が2,697億円(84.0%)、在宅関係が516億円(16.0%)と、在宅関係の予算額が極めて少ないことをまず指摘しなければならない。またその中の重要なホームヘルプ事業については291億円(通年ベースで前年度より14.5%増)だが、介護保険制度でも制度が開始後ホームヘルプサービスが大きく伸びているが(2002年11月段階で52%増、2003年10月段階で110%増)、この予算額では障害者のホームヘルプが十分なものとならないと考える。
 現在のわが国におけるホームヘルプサービスを考えてみよう。身体障害者で障害レベルの軽い群でも必要に応じ利用できることとなっているが、実際はほとんど利用されていない。知的障害者の利用も全国的には進んでいないうえ、視力障害者・知的障害者などへのガイドヘルプも一部の都市を除けば不十分なうえ、精神障害者への展開も全く不十分である。1月中旬から下旬の厚生労働省前座り込みや交渉により、支援費制度開始後も従来のサービス水準は確保することとなったが、新たな申請者が生じれば、予算はたちどころに枯渇するし、市町村単独で実施するほど財政的な余裕もない。現在でも介護保険の要介護度が5で、毎日3時間程度のサービスを介護保険で、そのうえに全身性障害者ホームヘルプを毎日8時間、さらに必要に応じ、障害者制度のホームヘルプサービスを上乗せしている事例が東京都などではある。
 このように、新障害者プランではノーマライゼーションの理念が改めて強調されているが、障害をもった方々の地域生活を支えるためには極めて不十分であるので、当事者・関係者をはじめ、住民・国民それぞれの立場で主体者として市町村・都道府県・国へ向けての予算拡充などの取り組みを欠かすことができない。

(いしかわみつる 日本福祉大学教授)