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列島縦断ネットワーキング

北海道
コロポックル記念講演会

「談話障害とは?~話せてもわかりあえない」

木原洋征

 脳外傷友の会“コロポックル”創立5周年記念講演会「談話障害とは?~話せてもわかりあえない」が、去る2月2日(日)、札幌市の北海道大学学術交流会館において、国際医療福祉大学言語聴覚障害学科教授、日本言語聴覚士協会会長の藤田郁代氏をお招きして開催しましたので、その概要をご報告します。
 参加者は、コロポックルの会員、医師や言語聴覚士などの医療関係者、福祉施設の関係者、大学や専門学校で学んでいる学生など200人を超えました。

1 コロポックルの活動

 はじめに、コロポックルの活動を簡単に紹介します。脳外傷友の会“コロポックル”は、交通事故によって高次脳機能障害となってしまった当事者や家族が中心となって、1999年2月に家族会を立ち上げたことが始まりです。現在では、道東・道央・道南の3支部を持ち、会員は約200人です。毎月第2金曜日に例会を開いて、医師や医療関係者を招いた講演会で勉強したり、お互いの悩みや苦労話を語り合いながら脳外傷に対する理解を深め、当事者や家族の相談にのったり、各地の交通安全講習会で脳外傷のことを訴えて広く知ってもらう活動をしています。
 また、当事者のための小規模作業所を運営しています。作業所は、札幌市の助成を受けていますが、平成13年度からは厚生労働省の高次脳機能障害モデル事業も請け負っています。現在、3人の常勤指導員が中心となって、月曜から金曜までの午前10時から午後4時まで、バザーで販売するクッキーや石けん作り、お菓子の箱折りなどの軽作業を行っています。作業所は試行錯誤の中で、当事者の社会復帰の準備の場として、障害者職業センターと協力しあいながら、就労に向けた取り組みを進めています。

2 講演会の概要

 講演会では、藤田先生の28年間の言語聴覚士としての臨床経験を踏まえて、高次脳機能障害について説明されました。
 日本において高次脳機能障害の取り組みが始まったのは、ここ10年くらいでそれまでは高次脳機能障害という言葉はあまり使われず、失語症、失行症、失認症、失空間障害といった症状を独立したものとして捉え、リハビリテーションを言語聴覚士も行っていた。しかし、脳外傷の患者にあっては、言語だけ、身体障害だけ、聴覚障害だけという一つの側面だけで見るのではなく、それらを総合的に見ていかなければ本当の支援はできないことに気付き始めた。「日本失語症学会」もこの1月から「高次脳機能障害学会」と名称を変更した。言語聴覚士はその名から言語・聴覚専門といったイメージであるが、認知コミュニケーションセラピストといったほうがその職務内容を正確に表しているというお話は、高次脳機能障害が社会的にも認知されはじめてきた兆候であると感じ、とても興味深くお聞きしました。
 次に、脳外傷について、失語症と談話障害との関係でお話しされました。
 失語症の場合には、記憶する能力も普通で失語以外の部分は保たれているので、言葉がなくても表情や身振りなどでお互いの気持ちの繊細な部分も伝えることができる。一方、談話障害にあっては、会話はできるけれども本当に分かっているのか不安な感じや奇異な感じを周りの人が受けることが多く、変な人、変わった人と見られて、友人関係からも孤立してしまう人が多い。談話障害とは、複数の文からなる言葉の真意を文脈に即して理解したり、表現したりすることが困難な障害であり、たとえば「部屋の中が暑くなったよね」という問いかけに、そこから「窓を開けようか」という返答を出すことができないなど、失語症と談話障害とは全く違ったものであること。また、認知症とも違ったものであり、日常生活が困難な認知症に対して、脳外傷では日常生活は一応できるが、注意を払ったり、意欲をもったり、計画を立てたり、考えたり、記憶したり、バランスよく自分の感情をコントロールするといったことが難しくなる人が多いという症状について説明されました。
 さらに、藤田先生が行った臨床実験について発表がありました。実験は脳外傷者25人、健常者28人を対象に、4コマ漫画を見せてせりふでそれを説明してもらうものです。その結果、両者とも語数の差はなかったが、漫画に描かれている事象についての言及を分析したところ、脳外傷者には「事象の誤り」「推測の脱落」「推論の誤り」が顕著に見られたほか、「オチの誤り・脱落」「筋の誤り」「不適切な視点」など必要な情報を把握できないことが多く見られたと報告がありました。
 最後に、認知コミュニケーションのリハビリテーションに求められるものは回復過程に対応した長期プログラムであり、本人、家族、専門職、ボランティアのチーム連携が求められること、一つの場所や一つの施設を資源とするのではなく、社会のすべてが資源であると考える視点が必要であり、すべての社会資源を活用しうるようなシステムづくりが必要であると強調されました。
 質疑応答では、くも膜下出血で失語症となった本人から失語症と談話障害の違いの再認識や、失語症となってしまった家族からや、燕下のリハビリテーションについての質問などがありました。また、小児精神が専門の医師から、脳外傷は子どもの発達障害に似ている部分があるように感じている。発達障害では読み、書き、算数といった学習障害に問題がある人が多いが、脳外傷の場合にはどうかという質問に対して、藤田先生は脳外傷者にも同じような問題が多いとのやりとりがありました。会場からはたくさんの質問が相次ぎ、時間内で終了できないほどの盛会でした。

3 脳外傷の理解に向けて

 藤田先生のお話を聞いて、作業所に通ってくるメンバーの様子をかいま見たり、例会でお互いの体験談などから日頃感じていたことが、裏打ちされたように感じました。特に、今まで何気なく使っていたことば、単にコミュニケーションの一つの手段として感じていた言語が、いかに人間にとって人間だけがもつ高次的な機能の一つであるかがわかりました。
 また、言語聴覚士が国家資格となって日が浅く、脳外傷者へのリハビリテーションが現在の診療報酬体系では正当に評価されない中、学会の名称が変わったことに代表されるように、高次脳機能障害を全体として理解、支援する専門職としての今後の言語聴覚士のあり方などをお聞きし、とても力強く共感しました。
 なお、今回の講演内容を4月頃には冊子にする予定です。ご希望の方は、コロポックルまでご連絡ください。

(きはらひろゆき 脳外傷友の会コロポックル)

●脳外傷友の会コロポックル
 〒061―0051 札幌市豊平区月寒東1条17―5―39
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