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会議

「万人のための社会」をめざし注目される障害者大同団結への道
アジア太平洋障害者の十年
最終年記念セミナー開催

稲垣宏樹

 「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念セミナー“これまでの施策を振りかえり、障害者運動の新しい明日を築く”は、1993年から始まった「アジア太平洋障害者の十年」が2002年にフィナーレを迎え、また、2003年から「新・アジア太平洋障害者の十年」がスタートするという、まさに節目の時機をとらえ、これまでの国内外の施策を総括し、未来の障害者運動の展望を切り拓こうというスケールの大きな目標の下、東京都内および大阪市内で開催されました(東京セミナーは12月17日・18日、全社協灘尾ホールにて、大阪セミナーは2月20日・21日、大阪全日空ホテルにて実施)。
 このセミナーは日本身体障害者団体連合会主催・日本障害者協議会(JD)協力事業であり、「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念事業を共に盛り上げてきた両団体のコラボレーションが実現。現在、中央の障害者団体は大きな連携・協調の時代に入りつつあり、そうした時代の流れを象徴する行事となりました。また、講師やシンポジストとして発言するスピーカーのほとんどが障害者もしくは家族などの関係者であり、「当事者性の重視」を前面に打ち出した点も今回のセミナーの大きな特徴と言えます。
 両会場とも2日間行われ、初日は国内外の障害者施策を振りかえる、言わばこれまでの「経過」についての講義を中心に編成され、2日目ではこれからの障害者団体活動への提言、障害者団体の協調と連携の進め方を討議するシンポジウムなどが実施されました。
 今回は、2月20日・21日の大阪セミナーの模様を紹介し、激変する社会情勢の中で障害者団体活動の方向性と活路が、セミナーを通してどのように見い出されていったのか、詳しく報告したいと思います。
 初日に講義を行ったのは埼玉県立大学教授・丸山一郎氏と東北福祉大学教授・阿部一彦氏の2人です。
 丸山氏は20世紀初頭から今日に至るまでの国際的な障害者施策の推移を中心に講義し、「遅れている課題の解決をすることが障害者問題なのではない」と指摘。障害者の抱える諸問題を通して社会全体を変えていくという、障害を積極的にとらえるSociety for all(万人のための社会)という考え方が現在、世界的な潮流になっている点を力説し、そのためにも障害者団体の政策提言力を高めていくことが必要であるとの見方を示しました。
 阿部氏は法律、社会福祉制度、文化・スポーツといったさまざまな角度から日本の障害者施策の変遷についてダイナミックに分析し、「これまではハードル競走のように、一般社会の障害を乗り越え、無理を重ね生活せざるを得なかった。社会のどこにどんな障害があるのか、体験を通して熟知している私たちが社会全体の障害を取り除くため、今後はさらに積極的に提言する役割を担うべき」として、福祉教育の重要性も含め、障害当事者の主体性がますます大切になる点を強調しました。
 2日目は天理大学講師・八木三郎氏、損保ジャパン記念財団顧問・堀内生太郎氏の2人が、日本の障害者団体活動の今後についてそれぞれ提言(講義)を行いました。
 八木氏は、地方分権が進む中で当事者や団体が法律・制度面でしっかり提言すること、地域社会との溝をつくらないために障害当事者や団体が人権レベルでの一般市民への教育を自らが提案することなど、社会連帯としての一般市民の意識を改革することが障害者団体の大きな役割であるとし、「21世紀は“人生をどう生きるのか”という視点が障害者問題を考えるうえでも大切になる。私たちが地域社会の中で高らかに声を投げかけていこう」と力強く訴えました。
 堀内氏は長年にわたる障害者団体との親交を通し、「活動資金の不足もあり異論を取り込む包容力に欠けまとまった意見が出にくい」「障害者福祉全般のグラウンドデザインを描ける団体が不在」など、多くの障害者団体が抱える課題を鋭く指摘。「これからの障害者団体は交流、相談、広報、政策提言の機能を高めていくとともに、地方組織の強化や、障害者権利条約制定をめざすための障害者団体の大同団結と速やかな連合体の結成が必要である」と説きました。
 シンポジウムでは全日本ろうあ連盟副理事長・黒崎信幸氏、全国精神障害者家族会連合会専務理事・江上義盛氏、日本障害者協議会常務理事・藤井克徳氏をシンポジストに迎え、「障害者団体の協調と連携」をテーマに話し合われました。また、一般参加者との熱のこもった意見交換も行われました。
 最後に、今回のセミナーを通して提起された今後の障害者団体の活動のあり方や役割などについて、主な点を整理してみたいと思います。
 まず、障害当事者団体の主体性について、特に地域社会の中で「障害者問題は社会全体の問題である」という認識をもち、広く一般市民に理解してもらう努力・教育が不可欠であるという意見が目立ちました。
 次に、障害者団体の連携・大同団結のあり方については、たとえば障害者権利条約の制定、扶養義務問題の解決といった障害種別にかかわりない共通の行動テーマを増やすこと、役員レベルの交流促進、主催行事への人材の相互派遣といった、具体的な連携・団結方法が示されたことは、たいへん画期的なことと言えましょう。そして、中央障害者団体間では本流となりつつあるこの団体協調の流れを、地方の障害者団体にも浸透させることが必要であるという点でも、認識の一致を見ました。
 「アジア太平洋障害者の十年」はさらに10年延長されました。この地域だけでなく世界各国から寄せられる日本への期待の大きさを考えた時、日本の障害者運動の展開いかんによって、世界の障害者施策は大きな影響を受け得ると言っても過言ではありません。日本の障害者団体が速やかに確固たる連携体制を築き上げ、今回のセミナーを通して提起された多くの課題に取り組むことが、今まさに求められているのではないでしょうか。

(いながきひろき 中央障害者社会参加推進センター・日本身体障害者団体連合会)