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ほんの森

ジョゼフ・ラザーロ著 安村通晃 監訳
アダプティブテクノロジー

~コンピュータによる障害者支援技術~

評者 山口和彦

 「情報バリアフリー」と言われる今日、パソコンの活用は障害者の自立・社会参加の促進や生活の質の向上に欠かせないものになった。しかしながら、パソコンをどのように使いこなすか、まだまだ問題が多い。いざパソコンを購入して勉強しようとしても分かりやすく読める本が見当たらないのが現状である。
 この『アダプティブテクノロジー』は、初めてパソコンを触る人がまずつまづく原因となる専門用語について解説し、専門家でない人でも理解しやすいように丁寧に書かれている。また、視覚や聴覚などの感覚障害,身体や言語,学習障害など、さまざまな障害を抱えた人々に対してどのような形で支援したらよいかを主眼に編集されている。パソコンのハードウエアに関する基礎知識やパソコンの選び方から始まり、障害の特性を考慮したうえで、さまざまな支援技術について解説している。
 一例を挙げれば、視覚障害者のための支援技術として、画面上での情報を音声で確認するためのスクリーンリーダーの紹介、弱視者には拡大システムや拡大読書機、パソコンを使っての点字の入・出力、活字文書を光学的に読みとり、その内容を音声で読み上げるOCRの紹介など実にキメ細かい。
 聴覚障害者のために文字電話やインスタントメッセージ、運動障害者には、代替キーボードや代替マウスを利用することを勧めている。その他、言語障害者や、学習障害者向けにも適切なアドバイスをしている。
 また、本書はあくまでも情報を得るための技術という観点から編集され、インターネットへのアクセス、電子メールの送受信、文書の読取り、Webページをブラウズしたり、電子会議の開催やチャットへの参加など、各種のアプリケーション・ソフトについても触れている。付録には障害者支援として使える典型的なものを200種類以上にわたって記してある。また、視覚障害者でも人手を借りずにパソコンを用いて独力で読むことができるようにと配慮しているのか、本とともに、CDが付いているのは大変助かる。
 障害者にとって、その個々の障害がどのようなものであれ、パソコンを通してお互いの障害を乗り越えてコミュニケーションが可能になり、自立や自己充足の一助となるものである。これからパソコンを使ってみたいと思う人やパソコンを使ってボランティアをやってみたいという人には、分かりやすい本であり、ぜひ一読することをお勧めする。

(やまぐちかずひこ 東京都視覚障害者生活支援センター)

慶應義塾大学出版会
定価/本体3,200円(税別)
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