列島縦断ネットワーキング
東京
障害をもつ子の親の就労と地域生活を保障する
自主保育グループ「かるがも」の歩み
矢澤健司
1「かるがも」の創設
「かるがも」は、東京都東久留米市の幼児の通所訓練施設であるわかくさ学園に通園している家庭の中で、両親が働いている家族が集まって作った自主保育サークルです。
平成2年の夏から安定した保育体制を確保するため数家族の親が集まり、話し合いを進めてきました。当時から東久留米市には保育や子育てについて熱心に地域活動をしている人が多く、この問題について積極的に支援や相談に乗っていただき「東久留米市の障害を持つ子の両親の就労保障をめざす会」を結成し、市側にその必要性、現状を訴えてきました。「障害を持つ子の両親の就労を保障し、子どもに豊かな環境を願う」という、既成の制度ではない新しい問題でしたが、初めての革新市政を市民運動で創りあげたという気運があったためでしょうか、市長はじめ関係各課の担当及び市議会議員の方々がこの問題に理解を示し、前向きに検討していただきました。
●わかくさ学園で自主保育を開始
わかくさ学園の通園児の訓練・保育が終わった後、園舎を借りて平成3年6月10日から「かるがも」の自主保育が、3家族4人の子どもたちでスタート(月曜~金曜日)しました。最初は当然のように補助金がなく、保育者に支払う給与を子どもたちの総保育時間で割り時間単価を計算して、各自の保育時間に比例した保育料を集め給与を支払いました。そのため時間単価が600円になったり700円になったりと変動があり、夏休みなど長期休暇のときは1か月5万円以上になることもありました。保育所に比べ割高ではありましたが、安心して仕事ができることは親にとってありがたいことでした。また、子どもたちも学校や家庭と違った社会に接することができ、いろいろな経験を通して成長してゆく姿は頼もしいものでした。
基本的に2人の子どもに1人の保育者が付く手厚い保育体制をとることにより、保育者も子どもたちも安心して活動することができています。開所日数は年間290日(月平均24日)を超え、学校が完全週5日制になってからは土曜保育を利用する人数も増え、最近では、年間の延べ利用人数は3000人を超えています。現在、21家族23人の子ども(授産施設1、肢体不自由養護学校9、知的発達養護学校10、盲学校1、身障学級1、わかくさ1)、常勤職員4人と非常勤10人で2か所に分かれて保育をしています。
2「かるがも」の活動
親の負担を軽くするための資金援助と「かるがも」のPRのためテレホンカードの販売、保育園のバザーに参加して手作りのお菓子と抹茶で野点の茶席「かるがも亭」を開店、他の施設と共催の支援コンサートや講演会、映画会などを開催しました。このほかに、年2回の春秋のバザーは地域の人も協力してくださり、おなじみさんもできて楽しみにしていただいています。
●市に補助金等の請願
「かるがも」の保育場所の確保と補助金の請願を毎年提出し、多くの署名を集め、「かるがも」の保育環境を改善してきました。保育時間の関係からわかくさ学園を出て、平成4年7月13日に「かるがも」もついに独立してアパートを借りて保育を始めました。翌年、ようやく東京都通所訓練事業のDランクの申請が通り、補助金を受けることになりました。それまで、すべて親の負担で行ってきた保育料が軽減され負担が軽くなりました。「かるがも」で保育を希望する声が多くなり、子どもたちの人数も増えたことで保育場所も手狭になり、平成6年9月に3回目の引越で、現在の場所に82m2の施設を借用できることになりました。平成11年には近くに「第2かるがも」を作り、小学部低学年及び就学前児童のための場所を確保しました。
●通所訓練事業からデイサービス事業へ、再び通所訓練事業へ
東京都の障害者の補助事業はこの10年間で大きく変わりました。「かるがも」が初めて申請した平成4年のころは、通所訓練事業としてA~Dランクの4つの補助事業に分けられ、「かるがも」は6人以上週2日のDランク(約300万の補助金)が認められました。平成6年には心身障害者(児)通所訓練等事業(以下、通所訓練事業という)が変わり、地域デイグループ事業(基準1~3)と、1人単価により人数に比例した補助が受けられる通所訓練事業に分けられました。地域デイグループ事業は、主に放課後活動グループに適用され、通所訓練事業は養護学校等卒業後の無認可作業所に適用され、Aランク(8人から10人週5日、月単価約105千円)とBランク(11人から19人週5日、月単価約97千円)の2つの補助事業に分けられました。平成6年度に「かるがも」は地域デイサービス事業基準1(6人以上週5日、約700万)の補助を受けることができ、平成9年度から通所訓練事業Aランクに、平成11年度には同上Bランクに格上げされました。学童保育を中心に行っている「かるがも」が通所訓練事業として認められたのは、「障害児放課後グループ連絡会・東京」が都側と交渉を重ねてきたことと、「かるがも」が年間290日以上延べ3000人もの保育および介護を行い、無認可作業所と同等以上の実績が認められたものです。
3「かるがも」のめざすところ
●障害者の家族の権利保障
障害児の親、特に母親にも社会的に活躍する条件整備がなされることは、現在の少子化問題を解決する糸口を示すものと思っています。障害をもっている子どもを抱えても安心して働ける社会環境は、多くの女性に社会貢献と子育てという大きな事業を可能にすることが、今の日本に必要とされている課題ではないかと思います。
●子どもの豊かな地域生活の保障
学齢期間は障害をもつ子どもにとっても親にとっても充実した時期で、学校生活も地域活動も満喫することができますが、卒業後は施設か在宅かの少ない選択肢しかないのが現状です。平成15年4月から施行された支援費制度は、障害をもった人が必要なサービスを必要な量を受けられる新しい福祉の大きな転換です。しかし、現時点では支援費制度の理念と実際とが合致せず、各地で今まで受けられていたサービスが支援費制度になってから受けられなくなった等、いろいろな問題が発生しています。障害をもった人もそれを支える介護者も家庭も豊かな地域生活を送れる社会に育っていってもらいたい、と思うのはすべての人の願いだと信じています。
(やざわけんじ 障害を持つ子の両親の就労保障をめざす会)
◆かるがも
〒203―0042
東久留米市八幡町2―13―29
TEL 0424―77―6492