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あなたもできる!!
―ハンディを在宅ワークで乗り越えて―

林美恵子

 私は電動車いすを使用し、日常生活の大半に介護が必要な1種1級の障害者です。そして北海道・青森・三重・大阪・兵庫・岡山に住む、私以上に障害の重い仲間5名と健常者1名とともに、「重度障害者でも在宅で行うテレワークなら就労可能である」ことを示すために設立した「企業組合ユニフィカ」の代表理事として、主に人事・企画・営業などの業務をこなしています。
 機械音痴の一主婦に過ぎなかった私が、パソコンとインターネットを武器に仕事をするようになると、いったいだれが想像できたでしょう。すべては障害者のフリーライターとして働き始めたのがきっかけでした。当初は、ワープロで打った原稿を電話とファクシミリで確認してもらった後、郵送で納品するという方法でしたが、翌年にパソコンを購入してからは、電子メールで連絡から納品までを処理するようになりました。当時の私にとって、インターネットは電話とファクシミリに代わる安価な通信手段に過ぎず、そこで何かを始めようという気持ちは全くありませんでした。
 しかし、インターネットを通じて私自身が必要とする福祉機器についての情報を調べようとすると、全く見つからないことに気が付きました。それで私と同じような状況で暮らす方のお役に立てばと思い、新しい福祉機器や福祉サービスに関する情報を掲載したホームページを作り、障害者同士の生活情報を交換し合うメーリングリストを開設しました。すると今度はホームページを通じて、メールマガジン執筆やホームページ作成、翻訳などの仕事を依頼されるようになりました。この受注を機に、仕事をインターネット中心にシフトさせ、同時に、自分が運営していたメーリングリストを通じて知り合った障害者とチームを作りました。
 仕事のやり方は、私がクライアントと打ち合わせをし、発注された業務内容に応じて、それぞれのスキルを持つ仲間に仕事を依頼する、という方法で、これは企業組合に移行した今でも変わっていません。障害者の就労に際して、一番の問題は突然の入院や体調異変ですが、私たちのチームでは、メール本文に表れる小さな変化をキャッチして、普段と様子が違うときは電話で確認、必要な場合はチームメイトのサポートを手配することで、事態が大きなトラブルに発展するのを未然に防いでいます。このような対応をとれば、一般的には就労不能と判断されるくらい重い障害がある人でも、その影響を排除しつつ、常に高い生産性を維持し続けることが可能になります。
 設立から2年が過ぎ、関東や中京地方の企業から、障害者関連機器のモニタリング業務や、地元の中小企業の福祉関連商品・サービスに関するコンサルティング等を発注いただいておりますが、業務の大半はインターネットとパソコンを用いたテレワーク方式で処理しています。顔を合わせて働くのが普通の社会において、私たちのような働き方は意思疎通における大きな障害を抱えた不利な状態と思われるかもしれません。実際、私たち企業組合ユニフィカの組合員全員がそろうのは、1年に一度の定期総会のみ、それも障害が重く移動が難しい場合は参加できないという状態です。
 とはいうものの、私たちの身体的・地理的ハンディは、私たち自身にとっては全く「障害」とはなっていません。それどころか、音声で意思を伝えるよりも文字で意思を伝えるほうが楽、という私たちの障害ゆえに培った能力は、音声コミュニケーションに頼りがちな健常者よりもテレワークに特化したスキルである、といえるかもしれません。また各自の介護スケジュールが異なるため就労時間もさまざまですが、チーム全体としてみると、文字通り24時間対応可能な状態で、ハンディどころか、大きなメリットとなっています。
 このように、私たち企業組合ユニフィカのメンバーは、身体障害を含む、一般には「乗り越えられない」と考えられてきた種々のハンディを、仲間の知恵を借りつつ、また毎日の生活で小さな工夫を重ねつつクリアしてきました。そして、この「クリアできた」という自信こそが、組合員各人の生産性を確実に高める大きな原動力になっています。
 今後は、これらの過程で私たち自身が蓄積してきたノウハウを元に、障害や介護など現在は不利と考えられている条件下でも、高い生産性を維持することが可能な社会の仕組み作りをめざしたいと考えています。
「私たちにできたのだから、あなたにもできる!!」
 バリアに直面して、無理だと諦めてしまう前に、ぜひ私たち企業組合ユニフィカのことを思い出してください。そして私たちがバリアを乗り越えただけでなく、自らのスキルとして取り込み、引き続きバリアと戦うための「パワー(力)」としてしまったことの意味を、ご一考いただければ幸いです。

(はやしみえこ 企業組合ユニフィカ代表理事)