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精神障がい者が働くことについて

北山守典

就業センターの支援

 『働く』、精神障がい者にとって大きな壁が幾重にも立ちはだかっている社会情勢の中で、やおき福祉会、和歌山県、紀南障害者就業・生活支援センター(以下就業センター)は主に精神障がい者の就労支援を行っています。その支援の一端を紹介します。
 平成8年に社会福祉法人やおき福祉会が法人認可となり、精神障がい者の社会復帰をめざしたいくつかの試みが試行錯誤しながら始まりました。当時は授産施設での作業訓練が中心でした。
 やがて施設を利用している作業能力の高いメンバーから施設の外に出て働きたいというニーズが高まり、やおき福祉会はそのニーズに応えていくため、法人自主事業として平成11年度に就労支援センターを設立しました。
 その後、旧労働省の障害者雇用支援センターの指定を受け、平成14年には障害者就業センターと名称も変わり、新たに法定事業としてスタートしました。開設まもない頃は福祉会に所属しているメンバーが中心の利用でしたが、現在は、施設利用者より地域在住者の登録が多くなっています。就業センターを拠点としながら職場実習、職場定着等、40名から60名のメンバーが事業所に勤務しています。
 就業センターを利用しているメンバーの多くは精神障がい者で、就業職種については、危険な仕事や夜間に及ぶ業種の就労は避けています。また一般的に考えられる職種にはほぼ就いており、事務系、レジ、ヘルパー、店員、バックヤード、技術系作業員等、多職種に広がりを見せているところです。

就業準備訓練とジョブコーチ

 就業センターで気を付けていることは、精神障がい者の就業についてメンバー一人ひとりの障がいの程度や事情が違うので、特定の考え方を一律に当てはめるのではなく、個別の対応と、メンバーの状況に応じた適切な対応を心がけています。また、早い段階において、就労意欲を掘り起こし、就労するための就業準備訓練を法人内の6か所の授産施設で、ある一定の作業訓練を実施しています。事前の作業訓練については、服薬管理、病気に対する病識と自覚、集団性、作業能力等を把握するためにすべての障がい者に作業訓練を受けてもらっています。メンバーが発病後、どのような社会生活を送ってきたのかを知るためにアンケート調査や微細にわたって聞き取り調査を行い、障がいの特性を把握することに努めています。
 特に、メンバーの大半が発病後何度となく仕事に就くけれども、その都度仕事が長続きせず会社を退職するというケースが目立っています。退職に至った経緯を伺う中で、いくつか分かってきた事柄は、

(1)事業所に病気を開示しておらず、その重圧に耐えることができない。

(2)職場での仕事の中で、以前できていた部分が発病後はあまりできない。現状と過去のギャップが分かっていない。

(3)対人とのコミュニケーションを図ることができなく職場で孤立してしまう。

(4)薬の副作用の影響で症状が頻繁に出る等、仕事について集中力が無くなる。

(5)職場での悩みを相談できる人がいない。

 大別すると、以上のような状況で離職を繰り返していたことが分かってきました。
 就業センターでは、これらを踏まえて来所されたメンバーのアンケート調査を基に就労ニーズの聞き取りを再度実施しながら、できる限り本人との信頼関係を築くことに重点を置いています。
 事業所に病気を開示する問題については、微妙な部分はありますが、開示をしないとジョブコーチが就労支援に入ることができなく、生活支援のみでは職場の状況が分からずその支援も後手となり、トラブル発生についても即応できない弱さがあります。またメンバーを事業所に派遣する際には、できる限り単独就労を避けています。職場で孤立させないためにもペア・グループ就労を取り入れながら互いの弱い部分を補い、支え合い、助け合いを軸にメンバーのチームワークを育てることに腐心しています。
 ジョブコーチは職場の担当者と作業についての調整を図りながら、就業センターでその日の作業内容をチェックしたり、シュミレーションを通じて作業手順を指導し、高度で技術的な難しい内容の仕事についてはメンバーが分かるまで反復練習を繰り返し行い、身体で覚えるまで徹底して指導を行っています。

就業に伴う生活支援

 精神障がい者にとって生活支援は欠かせないものですが、就業センターではあくまでも就業に伴う生活相談を重点に、精力的に実施しています。
 生活相談事業については、精神障害者地域生活支援センターとタイアップしながら仕事に就いているメンバーを中心にピアヘルパーを派遣して、生活の悩みを聞きながら家事援助や調理等のサポートを側面から支え、生活能力を高め、自立に向けた支援を行っています。
 また、平成15年度より就業に伴うSSTの導入を図っています。従来の社会生活を営むうえで生活技能訓練を受けながらその技能を身につけていく方法から脱却して、事前に協力事業所において職場体験実習を行い、事業主・メンバー・就業センターの三者が合意の中で職場実習を経て職場定着に至るまでの目標を定め、個々のメンバーにとって仕事に就くには何を改善しなければならないのか、またどのような支援が必要なのかを、対人接触の仕方、あいさつ等、ロールプレイを実施しながら、どのようなSSTが有効かを模索しているところです。
 現在、各施設から12名のメンバーがグループ就労の形をとりながら、短時間の作業訓練に励んでいます。毎週木曜日にはSST研究会を開催して、支援技術を修得するための学習を行っています。

精神障がい者の就労についての課題

 メンバーが就労に結びつくケースでいくつかの就労支援制度がありますが、いずれも使い勝手が悪く、内容もまだ不十分です。毎年のように要項が変わり、制度利用について厳しさを増し分かりづらい部分があります。
 また、精神障がい者の就労についての体系が国の段階でいまだにつながっておらず、早急に労働分野の部分だけでも統合を図るべき時期だと痛切に思っています。
 それから大変重要と考えられるのが、精神障がい者を対象とした専門的な産業医の配置です。企業や小規模事業所の職場環境に精通した労働分野の産業医がいれば、随分違った形で職場での対応が変わってくると思っています。まだこのような分野は、先進的な取り組みをしている欧米各国と比較しても立ち遅れているのが現状です。
 早急に国や企業も社員のメンタルケアを重視して、産業医の養成を図るべきだと思っています。

(きたやまもりかず 紀南障害者就業・生活支援センター所長)