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社会的自立を支えるシステムを求めて
―地域生活支援検討会、秋から本格的論議に―

太田修平

■知的当事者の参加をめぐって

 「障害者(児)の地域生活支援の在り方検討会」は早や5回を終わった。私はJD(日本障害者協議会)からの代表として検討会に参加している。現在の焦点のひとつは、正式委員に知的当事者を加えるかどうかの攻防が続いていることである。また、障害者の地域生活支援のあり方といいつつ、「別の場で検討することになっている」として、精神障害者への施策を議論の対象から外すとしている。総合的な障害者福祉法の制定が求められている中、精神障害をいまだに別扱いする厚労省の姿勢は問題だと言わざるを得ない。
 この4月から社会福祉基礎構造改革の目玉である支援費制度が施行された。障害者団体の中でもこの支援費制度への移行や、社会福祉基礎構造改革自体に対する批判が出されていた。制度開始直前の1月、厚労省はホームヘルプサービスの国庫補助基準について、全身性障害者の場合、1日4時間などという上限を打ち出したのである。「こういうことでは障害の重い者が地域で生活することは不可能になる」という怒りが全国的に噴出し、日本身体障害者団体連合会、日本障害者協議会、DPI日本会議、そして全日本手をつなぐ育成会の4団体による歴史的な大行動の末、勝ち取った成果のひとつがこの検討会である。現在、介護保険の見直しも議論されている中で、この検討会での議論の中味と結論は、障害者施策、とりわけ介護施策に大きな影響を与えることは間違いない。
 さて、検討会は学識経験者以外の委員からのヒアリング、関係者からのヒアリング、レポートが終わったところで、今後、海外の状況についてのヒアリングに移っていくところである。また、この秋にかけて支援費の利用状況等についての全国調査を行い、それを基にした本格的な議論がそれ以降行われる予定になっている。
 ヒアリングで印象的だったのは、知的当事者から「施設ではなくアパートで暮らしたい」「介助者の支援がもっと必要」という発言であった。そしてなによりも、「私たちも委員として加えてほしい」とはっきり主張したことに、ある種の頼もしさを感じた。

■一人ひとりに合った介助システムを

 検討会は2年間をかけ議論をしていくことになっているが、重要なことは、まず“介護”あるいは“介助”の基本的な概念を明確にさせていくことである。ともすれば介護は、食事・トイレ・衣類の着脱・入浴などといった日常生活の最低ラインを維持させるための援助と捉えられがちであった。障害のある人もない人も社会の同じ構成員というノーマライゼーションの思想の下では、社会的存在としての自己実現を支えていくということを根本に据えていく必要がある。つまり社会参加・社会的自立に向けた介護制度、地域生活支援システムが求められている。この10年あまりというもの、そういう先進的な考えで、障害者の介護制度をめざしてきた自治体も決して少なくはない。高齢者の介護保険のような“医学モデル”の考え方によるサービスに近づけられたらたまったものではない。高齢者介護との統合も今日的なテーマとなっているが、現在の状況における統合は、その意思はともかく、そういう方向での統合にならざるを得ないことを踏まえておく必要がある。
 欧米の一部では「ダイレクト・ペイメント方式」つまり障害者が自治体などから直接介護費用を受け取ることにより、障害者自身が介助者を直接雇用するシステムがある。日本では支援費制度が利用者本位とうたわれながら、介助者とは直接契約を結ぶことはできず、事業者との契約によってそこから介助者の派遣を受けることとなり、少なからず問題や摩擦も起きているようである。自立意識が強い障害者にとっては「ダイレクト・ペイメント方式」の導入が日本にも求められる。コスト面を考えても合理的なはずである。
 パーソナル・アシスタントシステムの確立はいうまでもない。ただ個人的な介助を利用することが、好きでない障害者もいる。できるだけプライバシーを大切にしたいという人もいる。そういう人たちにはコールひとつで近くのケアステーションから駆けつけてくれるようなシステムがあってもいいように思う。パーソナル・アシスタントと、それをうまく組み合わせて利用できるようにするのもひとつの考え方である。多様な介助システムを用意することによって、その人が自分にとって使いやすい介助を選択できるようにすることが重要である。
 これからの議論がまさに本番であり、当事者一人ひとりが自分の声を検討会に出していくこと、それが一番求められている。

(おおたしゅうへい 日本障害者協議会政策委員長)