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1000字提言

粘土山からはじまった

奥泉浩美

 最近、中学生のいろいろな事件が多発しているが…。私の子ども時代には、家の近くに小さな原っぱや粘土山があり、よくトンボや蝶々などがいっぱいいて、土の滑り台を作って遊んでいたものだが、いつの頃からかそういった自然の遊び場だった所はすべて1億円の住宅街に変貌してしまった。今や子どもたちの遊び場がないのである。そして、「自然」に触れる機会が少なくなってきているために、その素晴らしさを知らずに純粋な心を蓄えられないのでは?と思ってしまう。
 私の中学の頃の想い出は、今思えば、自然に触れる機会が多かったように思う。北海道の牧場体験、学校の行事で館山遠泳合宿、秋田のわらび座舞踊など、よくありがちな京都・奈良修学旅行とは違う体験をしてきた。秋田のわらび座旅行では、班に分かれてそれぞれ農家の家にお世話になって、稲刈りやおはぎ作りを手伝ったり、農家で貴重な体験をさせていただき5日間過ごした。最後の夜にはわらび座スタッフより教わった舞踊をお世話になった御礼として生徒全員で地元の皆さんに披露した。秋田のおばあちゃん・お父さん・お母さんは人情味あふれてとてもあたたかく、第二の故郷ができたような気持ちだった。特におばあちゃんからは毎年生徒が訪れてくるにもかかわらず、まめに年賀状やお手紙をいただいたり、稲刈りで指を切ってしまったけがのことを覚えていてくれてお気遣いの手紙をいただき、本当の家族のようにとてもうれしかったことをよく覚えている。
 館山遠泳合宿は、夏休みの7日間を利用して1年生が3km、2年生が6kmをクラスで完泳することが目標だ。毎日練習づけの日々でとても苦しかったが、クラスの皆で完泳できた時は「やればできる!」という『勇気』を体で覚えさせてくれた。その時の経験は自分に少し自信を持たせてくれたように思う。
 北海道の牧場体験は、学校の行事ではないが夏休みの10日間、牛の世話、パン作り、乳搾り、冬に備えて1年分の牛の食用(藁の漬物みたいな物)作りの体験、初めはワーと思ったが苦にならないのが不思議なほど。水は自然水なので癖がなく冷たくおいしかったことを今でもよく覚えている。お世話になったファミリーも心が広くて、子どもたち3人も大自然の中でのびのびとしていた様子が印象的だった。今は、学校として、この家族を中心に多くの人が集まって牧場の仕事・共同生活をしながら学んでいるという。
 聴覚障害に限らず、こういった自然や人との触れ合いをみんなも体験する機会を持てたらなぁと思う…。

(おくいずみひろみ JTB丸の内本店バリアフリープラザ)