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ウオッチング支援費制度

知的障害者の支援費制度

柴田洋弥

●障害者の権利と支援費制度

 従来の措置制度では、障害者の受ける福祉サービスを行政が決定し、行政から措置委託された施設が、障害者の意思や希望と関係なく処遇計画を決定しました。特に知的障害者施設ではこれを「指導・訓練・療育」等の名称で正当化し、人権侵害事件の背景となっていました。しかし、支援費制度は「利用契約制度」です。障害者は自己決定の主体者として、施設・事業者と利用契約を結びます。施設等が利用者の同意を得ずに「指導・訓練」等を強制すれば、利用者は契約違反として裁判で争うことができます。「利用者にとって良いことだから、その利用者が反対しても、職員の判断で行う」ということは許されません。
 障害者が福祉サービスを購入する費用を市町村が支援する、それが「支援費」です。ところが、知的障害者・児ホームヘルプの支援費支給申請に対して、「サービスを提供できる業者がない」「予算がない」「当市では、支給を一律○○時間に制限している」等という理由で、支援費を支給しなかったり、制限したりという市町村があります。利用者がこういう不当な決定に対抗するには、市町村に対して行政不服申し立てをするしかありません。
 十分とは言えませんが、支援費制度は障害者の権利を保障しています。施設等の権利侵害や市町村の不当な支給決定に対して、泣き寝入りせず法的な対抗手段をとる利用者が増えることにより、その権利が定着するのではないでしょうか。その積み重ねが、実のある障害者権利法につながっていくものと思います。

●地域生活支援と支援費制度

 今年の8月につくば市で開かれたアジア知的障害者会議で、決して軽度とは言えないダウン症の女性が「私は料理ができないけど、お母さんが死んでも施設に入りたくありません。だれかに料理を作ってもらって、家で暮らしたい」と発言し、会場の感動をよびました。最近同じ通所施設の友人が、両親の入院と死亡という状況の中で、ヘルパーの支援を受けて自宅での暮らしを続けることになったことを知り、そう思うようになったそうです。
 支援費制度になり、ヘルパー派遣事業所がある市町村に限られてはいますが、知的障害者のホームヘルプ利用が急増しています。従来は市町村が実施主体だったので、条例を制定しない市町村では利用できなかったのですが、支援費制度ではどの市町村でも利用できます。障害児の外出介護にも利用できるようになり、急増しているのです。
 東京都国分寺市でも、ホームヘルプ利用は、支援費制度以前の数倍に増えました。アジア会議で発言した女性も国分寺市の市民です。地域生活支援のサービスが増えるにつれ「施設に入りたくない、出たい」と主張する知的障害者が増えるでしょう。自己決定を尊重する支援費制度では、これらの人を施設に入れる、入れ続けることはできません。
 知的障害者の地域生活支援は、支援費制度になり、制度的には大きく改革されました。重度者がグループホームで暮らす時にホームヘルプを利用することもできます。措置制度では居宅支援に親や兄弟の負担がありましたが、成人利用者の扶養義務者負担は「配偶者または子」に限定され、実質的には無料となります(視覚障害者のガイドヘルプでは、今までなかった「子」の負担が増えて問題になっています)。
 しかし、施設支援費は2分の1を国が負担する義務があるのに対して、居宅支援費には国の負担義務がありません。このため、居宅支援費の国の予算は極めて不足しています。国の補助金と財源の地方自治体への移行が議論をよんでいますが、この行財政改革がどう影響するのか、注目せざるをえません。現在、高齢の身体障害者で、介護保険のヘルパー利用に支援費のヘルパー利用を上乗せして暮らしている人がいますが、若年の障害者も同様の仕組みにすることによって、居宅支援の財源を確保しようとの意見もあります。関係者の合意形成が不可欠ですが、検討すべき政策課題であろうと思います。

●多くの課題

 このほかに、(1)成年後見制度の利用、(2)ケアマネジメントのあり方、(3)精神障害者福祉・児童施設・小規模授産施設・作業所などの支援費対象化、(4)施設制度の見直し等、多くの課題が残されています。支援費制度は、まだ生まれたばかりです。力を合わせて育てて行きましょう。

(しばたひろや (社福)けやきの杜希望園施設長、(社福)同愛会あすなろ作業所準備室長)