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座談会
支援費制度
~始動期の評価と課題~

浅輪田鶴子〈あさわたずこ〉 さいたま市手をつなぐ育成会会長
見形信子〈みかたのぶこ〉 自立生活センターくれぱす事務局長
星野泰啓〈ほしのやすひろ〉 全国社会就労センター協議会制度政策予算対策委員長、社会福祉法人よるべ会
中島秀夫〈なかじまひでお〉 滋賀県社会福祉事業団企画事業部
司会 佐藤久夫〈さとうひさお〉 日本社会事業大学教授

居宅支援の不安

佐藤 支援費制度がスタートして5か月経ちました。支援費制度は複雑で、現場にいないとわからないところがあると思います。今日は、利用している側とサービスを提供する側の方々にお集まりいただきました。プラスとマイナス面を評価していただいて、法律から運用までどう改善していったらいいかという提言も出るような座談会になればと思います。
 支援費制度で、障害者の生活もサービスもよくなったというプラスの面、期待に反したというマイナスの面があると思います。簡単な自己紹介、率直な感想も含めて、利用者の立場から問題点をあげていただけますか。

浅輪 合併して政令指定都市になりました「さいたま市手をつなぐ育成会」の会長を引き受けて3年目になります。また、小規模作業所の施設長を24、5年やっております。娘が知的障害で44歳です。最初は働いていましたが、今は通所授産施設に通い、生活ホームに入っています。支援費の中の居宅支援を使い始めて、いろいろ問題を感じているところです。
 昨年10月から障害区分の認定が始まりましたが、入所型の施設を利用していると、その時間帯は居宅支援が使えないとか、入所更生施設に入っていると費用徴収額が増えることがわかって、親としては不安なことがたくさんあり、4月のスタートを控えてこれでは困るという声がたくさん聞こえました。入所型の施設からはしょっちゅう家に帰ってきているのに居宅支援が使えない。どうしたらいいのか、という相談を受けました。ところが、理由はよくわからないのですが、5か月ぐらいでそういう声がすっと消えてしまいました。諦めてしまったのだとしたら、ちょっと心配ですね。
 支援費制度は対等であるとか、利用者主体であると言われますが、言葉の上だけで、現実に制度を使っていくと前の形がそのままではないかと感じています。利用者主体なのだと一つひとつ言っていかないと、そうなっていかないと感じています。

佐藤 入所施設の場合は、居宅支援サービスは使えないわけですよね。今までは自宅に帰ってきたときはホームヘルパーを使えたわけです。声が消えたのはどうしてですか。

浅輪 不安の大部分は、お母さんが現在、75歳だとしますと、あと1、2年で自分で子どもの面倒をみられなくなったときのことが心配なのですが、市町村によってはヘルパーの派遣ができるという情報が入ってきて、ちょっと落ち着いてきたのではないでしょうか。何年かたって、できないことがはっきりわかると、また不安になると思います。

佐藤 居宅支援のケースは、さいたま市ではどうクリアしているのですか。

浅輪 区ごとの対応に差があるようにみえますが、非常に困っている場合には、例外的に使ってもいいという対応はしているようです。

佐藤 浅輪さんの娘さんは、生活ホームに入って通所授産施設に通っているわけですが、支援費としては何を受けられていますか。

浅輪 居宅支援サービスでは、ガイドヘルプとホームヘルプです。利用者本位で自分で選べるようになったのがいい点だと言われますが、知的障害の場合は、契約とか、どこの施設を選ぶとか、本人本位にはなかなかできないわけです。親がどれだけ自覚して契約をしているかは、非常にむずかしい面があります。
 よかった点は、制度のPRをしたことによって、使ってみようかという人が増えてきました。娘もガイドヘルプを使って遊びに行くようになりましたが、親は友達にはなりえないので、非常によかったと思います。22歳の女性と一緒に毎月遊びに行くのがとても楽しみで、生活の豊かさが広がりました。
 また、通所授産施設の個別支援計画は今まで何をしているのか見えなかったのですが、親の要望も組み合わせた個別支援計画が立てられて、職員がどう支援するかがはっきり見えてきています。ガイドヘルプを使って、娘が楽しんで生活しているのがよく見える。これからは、娘が自分で行くところを選べるように支援していきたいということですので、職員に「1年経ったとき、選べるようになったか、親として見ていますよ」と言いました。要望をたくさん出せるようになったこともいいことですね。

佐藤 施設の中では職員の指導のための指針はあったと思いますが、個別支援計画で本人にも親にも同意をとることで、真剣さが違うわけですね。見形さんはいかがですか。

当事者の制度と期待したけれど…

見形 埼玉県で一昨年から、当事者主体の自立生活センターで事務局長をしています。支援費制度については、私は当事者であり、提供する側でもあるという両方の立場です。
 障害者は施しとか受身の対象でしか見てもらえなかった措置制度の時代が終わった、実際はそうではないのですが、措置から契約へということで、自分が受けたいサービスや事業者を選ぶ自己選択権と自己決定権が認められた点では、やっと当事者の制度ができたと思いました。その部分では評価ができますが、今年1月に1日4時間の上限が出されて、厚生労働省との一連のいざこざが1か月近くに及び、私たちは不安の底に落とされました。
 自立生活運動がここ20年ぐらい日本に根づいてきたところに支援費制度の成果があったと思っていたのですが、安息の地ではなかった。私たちが地域の中で当たり前に生きていくことをもう一度問い直し、私たち自身が声を上げていかないと、この制度はとんでもないことになってしまうのではないかと改めて感じました。
 厚生労働省は基本的には上限はないと公表したと思いますが、地方に行きますと上限が決まっています。さいたま市では私は最高で17時間獲得していますが、「うちの予算では、あなたには4時間しか出せない」と勝手に上限を作っている市町村もあります。「あなたが最高額で、上限いっぱい出しているのだからいいでしょう」という言い方をされる利用者もいて、実際は24時間必要だという話をしても、認めない市町村はまだたくさんありますし、類型も選べません。実態は以前とあまり変わらず、戦わなければ必要な量が保障されません。さいたま市は政令指定都市になりましたが、末端の窓口である9区役所の対応はバラバラですね。
 通院通学に使ってはいけないとか、入院中に介助が必要でも支援費は認められないということもあります。入院したとき、看護師でも医者でも、自分をわからない人からいきなり介助されるのは怖いことです。医療と介助が切り離されて考えられている。現実ではなく、枠でとらえるというのは以前と変わっていない。むしろ枠がつくられているのではないかという思いがします。

佐藤 見形さんはどんな制度を利用しているのですか。

見形 1日17時間の居宅介護で、身体介護と家事援助と移動介護の組み合わせです。24時間で交渉したのですが、予算がとれないということで、17時間になっています。

市町村の対応に違い

佐藤 サービスの提供サイドとしては、どう評価されますか。

星野 私は、全国社会就労センター協議会制度政策予算対策委員長という立場でお呼びいただきましたが、社会就労センターとは、制度名では授産施設ですが、知的・身体・精神の三障害の福祉工場、小規模通所授産施設など、いろいろな形の施設が入っている組織です。働くことが中心の場ですので、給料が安いのに利用料をとられるとか、支援費制度との矛盾もいろいろ抱えています。今後、新しい提案も含めて、たくさんの課題を整理していかなければならないと思っています。
 個人としては、神奈川県小田原市、二宮町、県西部の足柄上郡で、知的障害者の入所授産施設と通所授産施設2か所と障害児(者)地域療育等支援事業や相談支援事業等の運営に携わっています。
 支援費制度は未経験の新しい制度ですので、50点を上回ってスタートできたら、あとは実践を通し利用者、行政とともに改善を積み重ねていくのだろうと思っていました。最初に思うのは、これからのニーズに応えていくための障害者福祉の体系はどうあるべきかという議論が後回しにされたということです。措置時代からいきなり変わったことで、施設では相当困難があったと思います。新しい制度に向かって学習や議論をしてきましたが、我々がサービスをどう提供するのか、本気の議論がやっと始まったように思います。
 契約の問題も不十分なまま4月を迎えました。契約の中には、支援費内のサービスとオプションと言われるサービスがありますが、支援費の内訳も見えず、市町村がどこまで采配を振るっていけるのかの確認も不十分で、支給決定に関する市町村の差がすぐ出てきました。障害程度区分の聞き取りにしても、調査員の技量でずいぶん違いました。たとえば「できますか」そして、「できませんか」と聞くと、知的障害の本人はどちらにもうなづいてしまい、そのまま裏づけもせずに判定されました。施設側に問い合わせがあれば、まだ丁寧だと思いますが、施設や家族に書類だけ送って記入したものをそのまま使った市町村など、疑問に思うことがたくさんありました。
 自分の足元で経験したことは、支払い当事者でもある市町村の過剰反応です。6月の時点で「予算がないから、この人への支給はできません」という市町村がありました。始まって3か月でなぜ予算がないのか。そこには、どんどん増えたらどうしようという過剰反応があると思います。通所施設ですと、居宅サービスの支給決定も受けていますが、ショートステイの支給は大体2、3日でした。「本当にそう希望したのか」とご家族に聞くと、とりあえずこれでいこうと言われたという。「急に一週間必要になったらどうしよう」とご家族は心配しているわけです。そのときは、申請し直せばいいとこちらでリードしたり、地域生活支援事業で職員がアドバイスすると少し安心します。「市町村に突き放されたら、行政不服申し立て申請をすると言いなさい」とアドバイスしたら、「言ってみたら通りました」という返事があったりして、利用者側で権利が主張できないと、言われたことがそのまま限度になってしまいます。調整機能、相談機能が身近に必要だと思います。
 ケアマネジメントシステムは義務化されませんでしたし、身体障害者は市町村の予算でみますから、取り下げた市町村がたくさんありました。突然に一般財源になったので大きな影響を受けたと思います。重度重複障害者の施設支援費の加算も、厚生労働省の通知だと医師の診断で通るはずだったのですが、更生相談所の判定がなければダメという都道府県が出てきて、重度加算がとれなかったところもあります。行政の対応がバラバラだったことが、利用者の混乱を来したと思います。
 いい面では、要望がたくさん出てくるようになりましたから、言いやすくなったことは事実です。私どもの施設でも苦情受付をつくり、一人ひとりの要望を第三者の委員にも見せ、確認ができるようにしました。毎月、その事例集をつくり、我々の力量をアップしてサービスの質を高めていくためにも、きちんと受け止めようと努力しています。措置費の時のように集団サービスが前提ではなく、個別サービスが前提だという認識は、職員の間で生まれつつあります。十分な個別サービスはまだ不十分ですが、意識をもつようになったのは大切な傾向だと思います。

利用者側の視点で

佐藤 中島さんは、どのような評価をされていますか。

中島 滋賀県甲賀郡信楽町にある入所更生施設に約16年間働いた後、平成7年にその法人が地域療育等支援事業(コーディネーター事業)を受託したので、地域の相談員を6年間しました。甲賀郡は、滋賀県の福祉圏域のモデル地域になっています。圏域関係者との地域ケアシステム会議を基本として、相談とサービスの一体的提供をしてきましたが、2年前に県社会福祉事業団に企画事業部が創設され、甲賀郡の取り組みを全県下に広げていくべく、地域ケアシステム推進事業を担当しております。支援費制度に関していいますと、甲賀郡の支援費制度の担当者会議(県と市町村で構成)に入れていただいております。
 ずっと相談事業をしてきましたから、利用者側に近い立場にある事業者側だと思っています。今も相談支援事業をしてきた経験の中で市町村の方々と一緒に仕事をするという微妙な立場です。国から県、県から市町村という流れの中で、4月を前に市町村の方々は聞き取り、支給決定などの事務に追われ、たいへんな日々だったと思いますが、この制度は、きちっとした相談機能が果たせて初めて、その人のニーズや生活の状況に合わせた支給量が決定できるのだと思います。その意味では重要である相談支援に時間がとれてなかったのも事実ではないかと思います。
 滋賀県では、支援費制度を円滑に進められるようにと県に推進本部、各福祉圏単位でも推進本部をつくって、県と市町村、事業者がいろいろ検討されてきました。市町村だけで決めにくいニーズについては、広域の支援システム会議である「サービス調整会議」を活用することと、民間の障害者生活支援センターの情報も活用しながら、地域で一体的に決めていくという方針が出されました。
 そこではマネジメントの手法を活用する方針が出されたのですが、市町村は支給決定をする忙しい時期でしたので、すべての人がマネジメントの手法を使ってプランがつくられたのではなくて、私の印象ではいわゆる定期的なサービス、複合的なサービスを利用する方々については地域できちっとした話し合いが持たれて、このサービスをこれだけ投入するというプランが立てられたのですが、いわゆる不定期サービスの方については、市町村の聞き取りによって決められたという感じがします。
 その際、国から示された聞き取りの基準はあるのですが、担当者の判断によって支給量が左右されるという実態があります。滋賀県ではサービスが先行していましたので、これまでの利用実績において支給量が決定するという流れでしたが、サービスをほしいという声の大小が、支給量の大小に影響したこともあります。担当者の判断や利用者の声の大小ではなくて、本当に必要な方に必要なだけのサービスを提供するにはどうしたらいいかが大きな課題になっています。だれが担当しても、ある一定の標準的なスケールの中で基本的なベースを確保し、そこに個人の事情を上乗せしていく。担当者の判断で変わらないようなスケールづくりに入っていますが、現実的には個別性が高くむずかしい作業だと思っています。
 一般財源化で、いわば切り捨ての形になりましたが、民間の相談事業がいかに官の相談とともに共同作業をしていくかが大事ではないかと思います。官の相談は財源を背負っているために切らざるを得ない状況があると思いますが、利用者に寄り添う形で利用者側に立った視点で、特に知的障害の場合は代弁機能していくような、民の相談業務は今後ますます大事だろうと思います。その辺では、一般財源化がどう影響していくか、不安視しているところです。
 理念的には非常に期待をしていました。これまでは措置という形で、利用者は制度や行政にある種委ねられてきましたが、自分たちが選べる。しかも事業者と対等な関係というのは魅力的で大いに期待したのですが、4月以降、事業者意識、利用者意識は大きく変わってはいないという実感があります。それは、サービスを選ぶという実感がないからだと思います。私が相談業務していた時に、通所施設を変わりたいという相談を受けたことがあるのですが、当事者が声を出すことはいかに大変なことか、選択される側の事業所もたいへんなんですね。通所施設を変わるだけでも、双方に相当なストレスがかかる。もっと気楽に移れるような状況をつくらないと、選ぶという時代はこないと思いました。この制度でもう少し柔軟にサービスを選べるようになれば、利用者と事業者のいい意味での緊張関係、対等関係がつくられていくのではないかと思います。
 細かいところでは、私たちの地域において利用者の一番の混乱は、ホームヘルプサービスで利用者の負担金の上限がサービスの上限と勘違いされていることです。説明会はありましたが、制度がきちんと利用者に届いていないという印象があります。その意味においても行政用語ではなくて、利用者の言葉で伝える相談機能の存在が必要だと思います。
 よかった点は、利用者ニーズが拡大したことです。これまで以上の登録者が出て、これまで使っておられた方も利用がかなり増えています。この制度によって、底辺が拡大してきたのはプラス面だと思います。

契約はどう結ぶか

佐藤 支援費制度では、利用者とサービス提供側との契約になりましたが、その辺はどうでしたか。

浅輪 自分の娘と、ずっと継続して支援している人の2人の契約にかかわりましたが、目の前に契約書を出されても隅から隅まで読めないので、相手を信用するしかないわけです。形式的な契約の仕方でいいのかなと思いました。また、一人暮らしの知的障害者の場合、制度が変わったことを知らない。契約書の意味がわからない。どうやって制度を伝えていくのか。支援費制度の前はケースワーカーがしていたと思いますが、つなげる人が欠落しています。制度の中でどうやって拾い上げていくのかは大きな課題だと思います。

星野 契約に関しては出発点が不十分でしたから、私どもの法人では全部の施設、グループホームも含めて仮契約という形をとりました。その理由は、1年間はみなし期間ということと、受給者証の発行が3月に間に合わなかったので、4月当初の契約は不可能と考えました。また、支援費外のオプションのサービスについては、その根拠やあり方がわかりませんでしたので、1年間は今までのサービスをそのまま支援費のサービスとしてやってみましょうと家族会で宣言し、足りなくなったときはその事実を明らかにして一緒に考えていきましょうということで始めました。
 もう一つ、仮契約にした大きな理由は、契約当事者がはっきりしなかったからです。来年の本契約に向けて、成年後見制度で、保護者がいない方々の「居なしケース」の取り組みを始めました。家族は立会人や代理人にはなれませんから、家族会の有志でNPО法人をとって法人後見の仕組みをつくってもらう。守秘義務がありますから、弁護士さんにも立ち会っていただき、みんなで契約の支援をしあう仕組みをつくろうと思っています。
 さらに、個別支援計画はどういう段階でできあがるのか、つかめなかったところもあります。サービス利用説明書には3か月ぐらいの間に本人と一緒に作っていきましょうと書いてありますが、実体験を通したしっかりしたものでないと、本当の契約にならないと思います。
 仮契約では、とりあえず本人の名前を書いていただいて、字が書けない人はその人の印(しるし)を書いてもらい、ハンコを押していただき、その下に立会人としてご家族の名前を書いていただきましたが、それでは本契約は成立しません。この1年間で本契約ができるか不安ですが、本契約に向けて、ご家族と一緒に仕上げていくことを計画している最中です。

浅輪 入所型の施設で突然行方不明になったというケースがあって、契約書に「故意に」「無断に」という条項があったという話を聞きましたが、知的障害の人にはこういう契約の仕方はおかしいと思います。いなくなっても責任を持ちませんよという免罪符には納得できません。

星野 契約書はお互いの約束事の証明ですから、問題が起きれば極端な場合は裁判になります。契約書に「故意・無断で外出してはいけない」と書いてあっても、それは安全配慮義務違反で、裁判上は一切認められませんから、施設側の落ち度ですね。

浅輪 書いてあったとしても無効だということを、利用者側がわかっていればいいんですね。利用する側は弱いので、契約しないと言われたらどうしようと思うと、何も言えなくなります。無効であることを知って、ホッとしました。

佐藤 利用者から苦情を言って解決することはできにくいので、都道府県レベルでの指定段階でそういう契約書は無効だという仕組みが必要ですね。

星野 全社協の契約モデルの作成委員に入っていましたが、その辺はものすごくシビアに議論しました。そこまで言われると施設側はきついと言うと、弁護士や法律の先生からごまかして書いても裁判では全部負けるという話が出てきました。

中島 まだまだ事業所側が強いのだと思うのです。契約という形になっても、対等な関係はなかなか生まれてきていないと思います。私の関わりの方で、施設側の強い意向が働いて、それまでの施設で暮らし続けられないという実態があったりします。契約してもらえないという不安がありますと、苦情も言える関係ではなくなりますし、選ぶこともできません。特に知的障害の場合は、施設のもっている機能を体験して知っていくわけです。多くの人は学校卒業時にいったん、通所施設が決まるとそこから変わることができない硬直した状況があります。進路の選択についてはもう少し柔軟に半年はここ、次にここ、その結果ここにしましょうというやり方も提案していかないといけないですね。

浅輪 でも、どこも満員なんです。

星野 その話は、資源が用意できれば自然に消えていくと思います。

浅輪 第三者が入らないと、親のエゴになってしまうんですよ。第三者的に見て、ここは合わないから違うところを探したほうがいいですよという意見があって移ったなら、何の抵抗もないと思います。

中島 入所施設で仕事をしていた体験から言いますと、施設から地域のグループホームに出るときも、ご本人と保護者の利害が微妙に違ったりします。保護者の方は住み慣れた入所施設のほうが安心、ご本人は地域に出たいという。地域に出ても安心感があるという状況を地域でつくっていかないと、移行できないと思います。

佐藤 施設にしか任せられないと親が思うのは、安心感なのでしょうね。何があっても何とかしてくれるのが施設で、地域にグループホームができ、ホールヘルプができ、作業所ができ、昔に比べればずっとよくなりましたが、個別の支援が広がるだけでは地域生活はなかなか成り立ちません。地域で安心感を可能にする総合的な支援センターとして、療育等支援事業とか生活支援センターができたのですが、一般財源化により雲行きが怪しいですね。

自立生活を後押しするか?

佐藤 人口1万人ぐらいのエリアで、そこに行けば何でも相談できる、支援してくれる、必要な支援がなければサービスをつくってくれるという組織が必要だと思いますが、その役割を果たそうというのが自立生活センターでもあるわけですね。

見形 私たちは、当事者のエンパワメントというところで、当事者支援がいちばん大事だと思って活動しています。全国で100か所以上の自立生活センターでは、利用者のニーズを確認して当事者がサポートしています。
 支援費制度になって、国が当事者の力をある程度は認めてくれている、私たちはその制度を利用して生きていくというふうに考えをもっていかないと、歯車がずれてしまうと思います。私たちが何かをだれかにやってもらいたくて、支援費制度を利用しているわけではないのです。在宅サービスより、お金が安いということがあると思いますが、行政側は施設に送りこみたいのでしょうか。厚生労働省の考え方は1月の時点に出されましたが、私たちが取り戻さなかったら、日本の自立生活運動の逆行になると思いました。
 自立生活センターではここ10年ぐらい、自分たちの事業者を自分たちでつくろうと、ピアカウンセリングや自立生活プログラムを行いながら、力をつけてきています。自分の介護スタイルは自分でつくっていく力をつけていこうと動いています。

佐藤 支援費制度の理念は、自立生活運動が求めてきたものをかなり取り入れた制度ですが、障害当事者の選択や主体性がより発揮できるようになったのか、そうなっていないとすれば何がネックなのか、その辺はいかがですか。

見形 私たちも利用者に契約書を渡します。そのときは、決まりきった書式しか出しません。実際は、介助スタッフを自分で選んだり、知的障害の方だったら、私たちができるかぎりのコミュニケーションをして、本人がどういうふうに生きていきたいのか整理していくことが生活支援の役割だと思っています。障害はいろいろありますが、枠で決めるのではなくて、その人に沿ったサービスを作り出さないといけないと思っています。
 行政側は枠にはめてしまうことがいちばん楽ですが、それを私たちが受け入れてしまったら、利用者主体はありえません。うちの事業所に派遣をお願いしますという方がたくさんみえるのですが、私は自立生活がどういうものかを親にも利用する方にもお話をして、納得したうえで利用していただいています。ただの預け場所としての利用や、何かしてもらいたいという方はお断りして、私たちの考えに沿った方に利用していただいています。
 この制度ができたとき、障害者の自立生活は簡単に壊されてしまうのではないかという怖さを感じたので、利用者の方に責任を持っていただくことも必要だと思っています。介護保険の高齢者の介護もしますが、やってあげましょう的になってしまうのは事業者側が主体になっているからだと思います。そういうサービスは私たちはやりたくないので、自立生活センターが果たす役割はすごく大きいのではないかと思っています。

佐藤 地域で自立して生きていくために支援費サービスを活用する。建前はそれをめざしているのですが、十分機能していないとすれば、どういうところなのか。意思決定の力が障害によって弱い人の場合、そのままではうまく機能しません。成年後見制度などを活用しながら、どうサポートしていくか。体験しなくてはわからない場合、体験をどう保障するか。自己決定といっても、乗り越えなければならないことがたくさんあると思います。

見形 意思決定ができるかできないかではなくて、その人が何をしたいかに寄り添っていきたいと思っています。アプローチの仕方は、当事者だからわかる部分とか、介護に入っていればわかる部分があって、そういうノウハウがあれば、自己決定ができる部分があると思います。基本は、私たちがよりよい地域生活をしていくには何が必要かです。支援費制度に介護保険を導入されそうな動きもありますが、そういうふうに囲まれてしまうと怖いという漠然とした不安があります。

浅輪 私もそう思います。主体者は本人、当事者であると出ています。そこにスポットを当てた制度でなければいけないと思いますが、どうしてもそうなっていない。親もそう思っていないし、思っていても現実の問題としてできていませんね。
 娘は金曜日の夕方、家に戻り、月曜日にホームに行くという生活をしています。ホームヘルプの利用を職員にお願いしたとき、4時に作業が終わり、6時ごろまでおしゃべりするのが楽しみなのに、金曜日の4時に頼みましたと言うんです。どうしてと聞いたら、そこしかヘルパーさんが空いていないと。それは違うんではないの、本人の生活に合わせて頼むのではないの。彼女の楽しみを侵してまでホームヘルプを入れるのはおかしいとまで言いましたが、これまでは措置制度でしたから、相手側の生活に合わせた組み立て方に慣れていないのでしょうね。本人とも話し合っていない。繰り返し言って、やっと変わりましたが、そこまで言う親はなかなかいないんです。

佐藤 見形さんが言おうとしているのは、今のような場面だと、本人のやりたいこと、本人の生活を支えるようなサービスをする。それを本人が主張できるようにエンパワメントすることが大事だということですよね。

見形 当事者が全部やらなければいけないのではなくて、内容については親や施設職員が当事者の視点で本人に代わって言ってもいいと思いますが、当事者抜きにはエンパワメント【障害者同士が支えあい、本人の力を引き出していくこと】が成立しないのだという意識をつけていかないと、軽く扱われてしまいますね。

浅輪 いくつになっても年相応の体験をするという感覚を本人に対してもたないと、いつまでも子ども扱いしたり、自分のもののように思ってしまうことから脱却できないですよね。私は、彼女をエンパワメントしなければいけないんですね。

星野 スウェーデンで見たのは、パーソナルアシスタントという存在です。そういう発想が支援費制度にはまだないですね。

見形 そういう方向に向かっていきたいという思いは、全国の障害者団体や自立生活センターの中ではあるんです。介護保険という話が出ている中で、国は本当はどうなのか? 流されてはいけないというか、見張っていかないといけないと思います。
星野 見形さんたちの活動は大事だと思います。私たちも追いかけていかなくてはいけない。違いはいろいろあっても、支援費制度は個別的な支援というところは共通していますし、期待しています。矛盾はたくさんありますが、まだスタートして半年だなと。

親の意識をどう変えるか

佐藤 厚生労働省の報告では、平成13年度でホームヘルプサービスをしている自治体が知的障害で約3割、身体障害で7割強でした。今年の統計はわかりませんが、知的障害は相当増えていると思います。特に知的障害の場合は、子どもは親がみるのは当たり前、ホームヘルプは使わないのが当たり前という時代が最近まで続いていました。支援費制度は、社会が支えるという意識を広げるかなり大きなステップになったと思いますが。

星野 在宅は、まだ家族あってという前提で話をされているところが多いですね。

佐藤 サービスを利用するにあたって、「ありがとうございました」「よろしくお願いします」という障害者が増えたのでは、まったく趣旨が違う。サービスを利用して人生の目的を達成する。支援費制度は本来そうあるべきと見形さんは言われるわけですが、サービスの量が増えると自然にそうなっていくものなのでしょうか。見通しはどうですか。

見形 与えられるものではなく、自分の好きな量、人、会社との契約で自分の生活をコントロールできたり、自分が思うところの生活ができたりするために支援費制度があるとしたならば、今は門戸を開いた段階かもしれません。「介助者を入れて生活するのは私にはできません。生きている限り、私が面倒みます」というお母さんはまだいっぱいいるんです。
 親が死んだ後も子どもは生きていくわけですから、子どものときからいろいろな関係性をつくっていく必要がありますよという話をしています。知的の人も肢体不自由の人も、障害の部分をサポートする機関を使えるんですよ、お母さんも自分の人生がありますよね。親と一緒に一生住めるわけではないので、一人の人間として生きていくために、この制度を使っていろいろな関係をつくりましょう。その人の人生のために、この制度は利用すべき権利ですよと話をしています。知的の人は長く続けないと意思が伝わらないという部分がありますから、自薦はすごく大事だと思っています。
 うちの自立生活センターには他県他市からも利用者がきています。地域を限定しなくなったこともあると思いますが、そういう人たちを広く受け入れていくことで社会や行政も変わりますし、ケースワーカーも変わります。その部分が、私たちにできることだと思っています。

佐藤 障害児であっても、ショートステイとかホームヘルプを使う人たちが増えてきています。そのためにはサービスの供給量が必要です。まず情報を提供して、財政を握っているところと何が必要かを考えるところを分ける、つまり支援費支給決定を市町村から独立させるとか、制度の根本にもかかわるようないくつかの改革が必要とされているのかと感じます。

見形 オンブズマンの制度があったらいいのでしょうか。

佐藤 オンブズマンが活用できるようになるとまた違う状況になるでしょうね。

浅輪 ごく普通の親は言えないんですね。娘の通っている作業所は障害の重い人が多いんです。できてから20年以上経っていますから、親の年齢は70代が多くなっています。非常に重い障害を抱えている在宅の集団は、生活ホームを利用しませんかといっても、うちみたいに重い子は利用できないわという。自分がいなくなった後が心配なんですが、どうせ入れないと考えている。また、自分の子どもは自分で面倒をみなければいけないという観念がしっかり残っています。それが、生活訓練から始まって段階を追ってきちんと移行すれば大丈夫ではないの? と話をすると、できるかもしれないと思う。そこから親の意識を変えていかないといけないと思います。
 一方で、法律的に扶養義務を完全に撤廃して、年金だけで生活できるという所得保障をする。ホームの生活は親がお金を出さなければ成り立たないという現実を解決できなければ、親の意識は変わらないですね。同時に「あの子が生きがいなの」という親自身の生きがいも見つけてもらわなければならない。見形さんのように自分の生活を自分で組み立てていこうという意識をもっているならいいのですが、知的障害の人は、お母さんが「あなたがここにいなければダメなのよ」と言えば、さっと寄りかかります。そこを変えていくには、しっかりした条件づくりが必要だと思います。

佐藤 施設なら親の負担はないけれど、グループホームだと年金だけでは足りないので、親が負担しなければならないわけですね。

浅輪 出身地制度があって、身体障害の方は移った住所で支援費が出ますが、知的障害の人は親がいると親が住んでいるところからお金が出ていきます。扶養義務が付いているわけです。そこから変えていかないとむずかしいと思います。

悩み、新たな試み…

星野 私どもの入所授産施設は再来年で20年ですが、入所更生施設に切り替え、定員を50人から40人に減らして全部個室にする計画を進めています。神奈川県では入所授産施設はいらなくなってきたんです。ところが、建物の国の補助金は61年間拘束されるということを知りました。再来年切り替えるとき、あと40年分、20年経ったところの減価償却の計算で5000万円国へ返せと言われました。施設解体が飛びかっていますが、施設を止めると言ったら、お金を返さなければいけないのが現実です。細かいことを含めて、さまざまな条件をつぶしていかなければ前に進めないおかしさ、知らないことがたくさんあると感じています。
 私は、しっかりと事業者側に立とうと決心しています。支援費制度の基本理念に沿った方向性を事業としていかに成立させられるか。その一つの準備としてISОを取得しました。ISОは顧客満足が優先ですから、事業者側、一人ひとりの職員が何を目的にどう進めるかの共通認識をもって、プログラムをシステム化しなければなりません。支援費になったのだから、お客さんだということをきちんと意識しましょう。そういう切り替えは、我々側として明確にやっていかなければならないと思います。

見形 自立生活センターとしては、利用者に対して普通の事業者になってしまう危険性が怖いんです。私たちは事業所をやりたいのか、運動をやっていくのかという岐路に立っています。会社として維持するためにはシステム化せざるを得ません。命令系統を一つにして、共通認識をもつために研修をしたり、ヘルパーを入れたりとか、コントロールをしていかないといけない。でもそれが逆に利用者との関係が普通の事業者と同じようになってしまい、当事者によるエンパワメントとのギャップが生じ始めています。障害者を敬遠する事業所がある中で引き受けざるを得なかった部分の弊害もあります。自立生活センターがどう進んでいくのかが課題なのかと悩んでいます。

浅輪 運動体であった育成会が施設運営を始めて事業体になってしまうと、そのジレンマに悩むんですよ。質は違うと思いますが、似たようなところがありますね。

中島 私自身はシステム推進事業をしていますが、基本は個人のニーズだと思います。そこからいろいろ組み立てていく中で、脆弱な居宅の支援の現状とか、現実には漏れ落ちることがたくさん出てきまして、地域から出た課題を埋めていく作業が必要だと思っています。その形をシステムと置き換えているのですが、大上段に構えるのではなくて、個人の生活から出てきた課題も含めどう支えていくか。地域ぐるみで考えていかないと、一個の事業所、一個のサービスだけでは弱いと思いながら、仕事を進めています。

佐藤 地方では介護保険の事業所しかなくて、知的障害者の介護をしたことがない事業所から年配のヘルパーさんがきて、だんだん馴染んでいくとかありますね。

星野 確かにそうですね。支援費制度でヘルパーの事業指定を受けたところは、ほとんど介護保険の事業所です。事業所指定は受けたけれど、障害特性がよくわからず、そこで止まっているという話を聞いて、7月に一日を障害者福祉の研修で2日間の体験実習という知的障害者についてのプログラムを提供しました。20ぐらいの事業所に声をかけたら17ぐらいの事業所から30数名ヘルパーさんが来て、リピーターも来ていますから、施設がどんどんそういうことをやっていけば広がっていくと思います。施設にはその余力はあると思います。県に報告したら、県内に広げようという動きにもなっています。

佐藤 自立生活センターは、そういう研修をしてもいいかもしれませんね。

見形 私たちの声を直接ヘルパーに届けるという意味でも研修をしていかなくてはなりませんね。ほかの社会資源との連携も必要だと思います。

中島 滋賀県では障害者生活支援センターが協議会をつくっています。そこが滋賀県から委託を受け、3年前から障害者のためのヘルパー養成(2級講座)を実施しており、去年今年と高齢者の介護事業所からの参加が増えていますが、人材育成は大事だと思います。そういうヘルパーステーションが増えていって、サービスの質を高めるとともに、役割分担も出てくるのではないかと思います。
 支援費制度がまだ導入されていなかった頃の話になりますが、障害者生活支援センターの知的障害支援専門のヘルパーさんと、社協の高齢者中心で障害者も一部やりますというヘルパーさんがいたんです。高齢者の食事づくりを日常的にやっておられる社協のヘルパーさんに食事支援をお願いする。その代わり、本人についての対人サービスの支援は障害者生活支援センターのヘルパーさんにお願いするという役割分担をしたことがありました。支援する人たちがきちっと情報提供して、利用者がそれぞれの特徴で選んでいけば、よりいいのではないかというイメージをもっています。

障害者が安心して生活できる地域に

佐藤 今までのお話でよりよい制度にするための提言は出てきていますが、さらに言いたいことはありますか。

浅輪 どんなにいい制度でも、人と人をつないでいくものが必要です。特に知的障害の場合は、自分からこういうものがほしいと意思表示することが困難な人が多いですから。地域で一人暮らしをしている人へのアプローチをだれがするのか。財源の一般化で、いわゆる地域生活支援センターがなかなかできなくなりましたから、その辺りにポイントをおいた行政の対応がしっかりできないと支援費制度があっても活用できないことになるのではないかと思います。
 地域格差につながるような気もするのですが、社会資源がなければ選択もできません。財政難でお金がないといってしまうと何も進まないので、少しでもいいから先に進むように行政で考えてほしいと思います。私の地域では、ケースワーカーが今まで一生懸命に手を差し伸べてくれました。これからもケースワーカーを巻き込んで、生活保護家庭とか障害者の家庭について地域で支援者会議をもちながら進めていきたいと思います。
 支援費制度が始まって、通知やQ&Aといった形で市町村に情報が、文字としては入っていたようですが、たとえば、施設利用者が長期にわたって入院したときどう対応するかといった問題に当たったとき、担当者はここに矛盾点があるから、この場合は制度を利用することはできないといった結論にいってしまうようなんです。
 基本は障害をもっている人たちの生活です。障害のある人たちが地域でどんな形で生きているのか、市町村で対応している人たちが実態を知らないのが問題ではないかと思います。実態を知ったうえで、どうしたら制度を生かしてつなげるかという視点をもっていただきたい。私たちが、障害のある人たちの実態を知ってほしいという働きかけをしていかないと、地域で生きていくのはかなりむずかしくなっていくと思います。その辺りが、支援費制度をどう生かしていくかの課題ではないかと思います。

中島 支援費制度は、市町村が中心です。とくに知的障害者の場合は、県から町村へ権限委譲されてきました。支援費制度が活用される範疇は、生活のごく限られた部分ということもよく言われることです。支援費制度を土台にして、生活全体を地域みんなが支援していくような考え方や、実際の支援の取り組みが求められています。そういう地域をつくってこそ、地域で安心して暮らせるのではないでしょうか。支援費の範疇にとらわれることなく、仕事が広がっていくようにしていかないといけないと思います。

見形 支援費制度については、障害者の人たちが声を上げていくことが大事ですし、自立生活センターができることは当事者の力を引き出していくことだと思います。障害をもった人たちが障害をそのまま受け入れて、その人がそのままで生きられる社会をつくることに重点をおきながら、私たちはそれぞれの立場でできることをしていきたいと思います。
 そういう中で支援費制度がよりよいものになっていくでしょうし、サービスが拡大して、上限ということがなくなる現実が出てくるのかと思います。障害者が支援費制度を使って生きていることを見せることで、親や回りの人間の意識が変わっていくことがいちばん必要だと思っています。

佐藤 市町村によって格差があるとか、資源が足りないとかに議論がいきがちですが、支援費制度を使って、障害者がどういう暮らし、どういう生き方ができるのかという基本のところを、当事者を中心とした発言で補っていかないといけない気がします。

星野 支援費制度の担当の中心人物が、準備の議論の時、契約こそ民主主義の源、格差から競争原理が働き、良いものが生まれるという言い方をしていましたが、その理屈が通るのであれば、格差の違いをみんながはっきり知らなければいけないですね。契約制度にしたこと、あるいは格差を肯定したことも含めて、その違いがどうして生まれたのかという議論に広がっていくところで、市町村で何をするのかという話になると思います。違いをはっきり把握するためには、行政に任せるというようにもなってしまいますから、相談支援とか情報提供支援とか、地域の生活を知る場、受け止める場を強くしていかなければダメだろうと思います。
 利用者本意というなら、支給の判定決定機関と支払い当事者が一緒ということはおかしいと思います。公正な判定をベースに支給決定をする。ケアマネジメントの基本はそこに目的があったはずですが、その流れがないですね。

佐藤 支給決定するのも、それに対する苦情処理も、市町村がデータをもっています。支給決定したものが使われたかどうかのデータも市町村がもっているわけですよね。厚生労働省が実態調査をして必要な見直しをしたいと言っているようですが、ナマのデータを定期的に集めて公表するような仕組みが必要ですね。格差が本当にあるのかもよくわからないまま、事例的に何県では何十時間の居宅介護をもらったとかの情報が飛び交っている状況です。当事者などがチェックしたり、厚生労働省がきちんと実態を把握して定期的に情報を流すことをしないといけないと思います。

浅輪 そもそも利用の決定をしたときの根拠が非常にあいまいでした。電話で30分話して、お母さんがいろいろ言ったら、「居宅支援を30時間認めます」と。彼は一人で出かけられるから、1か月30時間なんて使えるわけがないのに。その背景をきちんと出さないで、使われなかったという事実だけが残るのは問題です。混乱した状態の中で決められたことには、そういう矛盾点がいっぱい含まれていると思います。一人で出かけられるから1か月に3時間か4時間でいいと親も本人も思って、そうなったとき、適正な時間の配置ができてくるのではないかと思います。

星野 当事者団体は「消費者センター」になる必要がありますね。今日その役割の必要性は大きいような気がします。

佐藤 支援費110番とかいくつかの団体が行っていますが、モニターのきちんとした仕組みがないといけないですね。

見形 当事者から声を上げて再申請とか再審査ができる仕組みをつくらなければならないと思います。自分が必要な量は自分でわかります。1日24時間の人と5時間でいい人がいるわけで、必要量を支給しない市町村があることに問題があると思います。

星野 資源がなければ、同じ5時間の要求でも違うわけです。行政資源がそろっているかいないか。必要なサービスを提供できるだけの十分な資源があるかないか、そういう違いが今からはっきりしてきます。その辺の検証の道具がほしいということです。

見形 厚生労働省に障害者の支援費検討委員会ができました。その中に自立生活センターの代表が入っているので検証ができると思います。1年後には何かの動きで変わっていくかもしれませんが、現場としてはなかなか動いていませんね。

佐藤 支援費制度が始まって5か月経った時点で、かなりホットな話題がいろいろな角度から議論できたと思います。介護保険と障害者介護の議論は時間の関係でできませんでしたが、介護保険の見直しや支援費の検討委員会での議論に生かせる内容が出てきたと思います。
 長時間、ありがとうございました。