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聴覚障害の立場から
制度利用の前にコミュニケーションの壁

清田廣

 障害者の自立、社会参加を謳(うた)って2003年4月1日から支援費制度が施行されました。これは、高齢者の介護保険制度を見据えて障害者にも遜色のないサービス体制を構築するということで制度化されたものです。
 しかし、はっきり言えば期待外れというのが正直な思いです。自己決定する力のある障害者の方には、現状の生活を維持するうえでは必要な制度かもしれません。しかし、自己決定が困難な障害者にとっては、大変利用しづらい制度になります。介護保険は1か月の給付額がまず決められます。その決められた給付額の範囲でどのようなサービスを受けるのかを、介護支援専門員の協力を得て決めていきます。しかし、支援費制度では、各サービスごとに自分が必要なサービス量を、自分で計画して申請しなければなりません。これを職業として援助する介護支援専門員も配置されていません。ケアマネジメント従事者というボランティアにお願いしなければなりません。障害者は権利としてではなく、大変気を遣いながら援助をお願いすることになります。
 聴覚障害者の場合、この支援費制度の対象になる人は重複聴覚障害者になります。ほとんど自己決定が困難な人です。本協会の事業部門である大阪ろうあ会館が居宅介護支援等事業の指定を受けて、ホームヘルパーの派遣を行っています。
 重複聴覚障害者とは、障害を2つ3つ併せもつ人たちです。4つの障害を併せもつ人もいます。コミュニケーションもうまくとれません。中には未就学で、言葉をぜんぜん持っていない人もいます。50歳代であるにもかかわらず教育も受けていないため、精神年齢が3、4歳の人がいることに驚くと共に怒りさえ感じます。身体介護をし、家事援助をしていますが、これだけでは発達の保障は何もありません。そこで大阪ろうあ会館のヘルパーは、絵本等を持参して、言葉や手話の教育もしています。自分は何をしてほしいのか、何がしたいのか自己主張できるようになっていただかないと自立、社会参加へ結びつけていくことはできません。ヘルパー派遣で聴覚障害者のコミュニケーション保障を事業として取り組んでいる所は、大阪と京都だけです。施設も入所授産施設で4つ(京都、大阪、埼玉、東京)、療護施設は1つ(大阪)、更生施設も1つ(京都)しかありません。これが聴覚障害者の社会資源の現状です。いくら制度が施行されても、安心してサービスが受けられる社会資源が無いということは、聴覚障害者にとっては「絵に描いた餅」でしかありません。
 支援費制度が現状よりさらによくなるためには、必要な社会資源の整備と、介護支援専門員の配置、コミュニケーションの保障が最低条件です。できるならば、厚生労働省で検討が続けられた、障害者ケアマネジメント事業として、真に障害者の自立、社会参加に結びつく事業に発展していくことを期待しています。

(きよたひろし 社団法人大阪聴力障害者協会会長)