音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

障害者介護の課題

坂本洋一

1 高齢者介護と障害者介護

 平成17年度の介護保険制度の見直しに伴い、介護保険制度と支援費制度との関係がクローズアップされてきています。この問題は、わが国における国民的な介護の課題をどのように社会福祉制度の中に位置づけるかという大きな施策課題となってきます。社会福祉基礎構造改革において、社会連帯の考えが強調されました。社会福祉の理念は、「自己責任に委ねることが適当でない問題に自助努力と社会連帯に基づく支援」とされ、自己実現と社会的公正を確保することが目標とされました。当然、この枠組みの中で介護保険制度と支援費制度との関係が整理されることとなるでしょう。

 介護保険制度のもとでの高齢者等の介護と支援費制度のもとでの障害者の介護では、どのような視点の違いがあるのだろうか。この問いそのものが果たして適切な問いであるかどうかも検討されるべきでしょう。
 介護保険制度は、保険給付の対象を65歳以上と40歳以上の特定疾患に限定してきました。そのため、心身の機能が低下している高齢者等に対する介護を提供するという枠組みで制度が出発しています。その際、保険給付には身体介護以外のサービス提供も含まれていますが、介護は、身体介護が中心と考えられてきていました。寝たきり老人を「寝かせた老人」にしないという考えが強かった時代です。しかしながら、今日、介護保険制度のめざすところは、自立支援を目標にすることが定着してきています。日本介護福祉士会の第10回研究大会が高松市で開催されましたが、その研究大会のテーマが「介護福祉士と自立支援」であったことからもわかるように、介護と自立支援は密接に関連してきています。基本的なところで、自立支援に向けた介護のあり方が問われています。それは、身体介護中心の介護から痴呆高齢者の介護のあり方まで検討を迫られていると言えます。
 また、介護保険制度においては、在宅サービスが期待したより伸びていないという課題をもっています。施設サービスを望んでいる人たちが多くなっています。高齢者の介護を必要としている人たちが、施設に入ることを本当に望んでいるのかというと必ずしもそうではないように思われます。家族の問題、在宅サービスの質・量の課題など複合的な要因によって施設志向になっていると考えられます。
 他方、障害者福祉分野における介護は、当然、自立支援がキーワードとして定着しています。介護を受けながら、就労の場に通うということはごく当たり前のこととして考えられています。障害者が自立しようとする時、必要な介護を受けながら、地域や施設で暮らしています。したがって、自立と介護は、切っても切り離せないものです。障害者分野における介護の課題は、自立支援と地域生活支援と言えます。つまり、自立支援をする中で施設から地域へ生活拠点を移すことが大きな課題となっています。
 高齢者の介護と障害者の介護を考える時、その視点は、自立支援というキーワードで結ばれています。このような意味で、高齢者介護と障害者介護の視点は同じであり、むしろ、社会福祉制度における国民的な課題である介護は何かを問い直す必要があると思われます。このような問題意識から出発すると、介護は高齢者や障害者だけでの課題ではありません。児童にとっても介護を必要とするグループが存在します。ライフステージに応じた介護が必要になってきます。
 介護保険制度が始まった時代と今日では、社会福祉を取り巻く環境は加速度的に変化しています。権利擁護、地域生活支援、医療改革、児童虐待、ホームレス等の大きな課題が波のように押し寄せています。今回の介護保険制度を見直すにあたって、介護をどのようにとらえるかを今一度議論し、国民的な課題としての介護を社会福祉制度にしっかり定着させることが必要です。

2 障害者施策におけるサービスと介護保険制度におけるサービス

 介護保険制度の見直しにあたり、支援費制度と介護保険制度の関係を整理するため、障害者福祉分野のサービスと介護保険給付のサービスを比較検討する必要があります。表1は、障害者施策におけるサービスと介護保険制度における保険給付サービスを中心に、それぞれの障害者分野と高齢者分野のサービスを対応させたものです。この表をみると、障害者分野のサービスが障害種別つまり身体障害、知的障害、精神障害によって機能分化していることがわかります。障害者介護といっても、それぞれの障害種別によってサービスの成り立ち、体系が異なっています。あえて、介護保険制度のサービス等と障害者施策におけるサービス等を、ほぼ共通するサービス、それぞれの独自のサービスに分類するといくつかの課題がでてきます。

表1 障害者施策と介護保険制度等によるサービス

障害者施策におけるサービス等 介護保険制度における保険給付サービス等
1.訪問サービス
ホームヘルプ
訪問入浴サービス事業
2.通所介護・日中活動の場
デイサービス(身体・知的)
精神科デイケア・ナイトケア・デイナイトケア
重症心身障害児(者)通園事業
身体障害者療護施設(通所型)
身体障害者授産施設・更生施設通所事業
知的障害者更生施設(通所)
通所授産施設
小規模通所授産施設
在宅障害者通所援護事業(小規模作業所)
盲人ホーム
3.短期入所
ショートステイ
4.地域居住サービス
グループホーム
福祉ホーム
知的障害者通勤寮
精神障害者生活訓練施設(援護寮)
5.福祉用具・更生医療
日常生活用具給付
補装具給付
更生医療
6.相談・生活支援
市町村障害者生活支援事業
障害児(者)地域療育等支援事業
知的障害者生活支援事業
知的障害者職親委託事業
自閉症・発達障害支援センター
精神障害者地域生活支援センター
障害者就業・生活支援センター
7.入所施設
身体障害者更生施設
身体障害者療護施設
身体障害者授産施設
知的障害者更生施設
知的障害者授産施設
重症心身障害児施設
精神障害者の入院
精神障害者授産施設
8.社会参加促進
市町村障害者社会参加促進事業
障害者社会参加総合推進事業
9.その他
身体障害者福祉センター
補装具製作施設
盲導犬訓練施設等
視聴覚情報提供施設
福祉工場
その他
1.訪問サービス等
訪問介護
訪問入浴介護
訪問リハビリテーション
居宅療養管理指導
2.通所介護等
通所介護
通所リハビリテーション
3.短期入所
短期入所生活介護
短期入所療養介護
4.地域居住サービス
痴呆対応型グループホーム
5.福祉用具等
福祉用具貸与
福祉用具購入
住宅改修
6.相談・生活支援
在宅介護支援センター
7.入所施設
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
介護老人保健施設(老人保健施設)
介護療養型医療施設
8.介護予防等
介護予防・地域支え合い事業
9.その他
特定施設入所者生活介護
その他

 介護保険制度のサービス等と障害者施策におけるサービス等のほぼ共通するサービスは、障害者施策におけるホームヘルプ、デイサービス、ショートステイ、グループホーム、日常生活用具給付及び補装具給付です。これらのサービスは、介護保険制度のサービスにおける訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、痴呆対応型グループホーム、福祉用具貸与・購入・住宅改修に対応しています。介護保険制度独自のサービスとして、訪問入浴介護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション、短期入所療養介護、特定施設入所者介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、療養型医療施設があります。これらの機能は、障害者施策においてはみられないものですが、一部のサービスに含まれているものもあります。訪問入浴介護は、デイサービスの一部として行われています。短期入所療養介護は、身体障害者と精神障害者のショートステイの一部として行われています。訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション等は、障害者分野では医療保険で行われることとされています。
 障害者分野独自のサービスは、ほとんどのサービスが高齢者のそれとは異なっています。特に社会参加促進のサービスは、障害者分野独自のサービスと言えます。このような障害者独自のサービスをどのように整理するかも課題となります。地域生活支援センター等の相談・生活支援は、在宅介護支援センターで類似したことが行われています。
 このような比較を通じて、障害者施策におけるサービスと介護保険制度を中心としたサービスでは、ほぼ共通したサービスがいくつかあることがわかります。また、障害者分野独自のサービスや介護保険制度独自のサービスがあり、これらのサービスをどのように整理していくのかという課題があります。単純に、ほぼ共通しているサービスを統合するということであれば、介護保険制度そのものの目標を達成できるとは思われません。保険料の徴収の年齢との関連においても、国民の介護に対する保障を実行するだけでの制度であるか否かが問われてきます。介護保険制度の見直しにあたり、障害者の介護を統合するということであれば、現行の介護保険制度の要介護認定を含めた多くの課題を解決するとともに、障害者介護の課題も解決する必要があると思われます。
 最近、介護保険制度における痴呆高齢者の介護が議論されていますが、障害者分野における知的障害、高次脳機能障害の人たちの介護の課題も同時に検討し、新たな介護保険制度を構築することが期待されます。

3 障害者介護の課題

 障害者介護は、自立支援や地域生活支援の基礎的条件となっています。在宅介護を受けながら、通所授産施設に通っている人、日中活動に参加している人等、介護なしに、その人たちは生活を営むことはできません。介護は重要な問題であることはだれしも認識しています。
 障害者の介護は、生活スタイルを構築し、その生活スタイルを維持することを目標に実施されています。その介護は、自立支援という方向性を持っています。この視点は、身体障害、知的障害、精神障害のいずれにもあてはまるものです。しかしながら、それらの介護は、身体介護から生活援助まで幅広いサービスが必要になってきます。それと同時に、障害種別によってそのサービスが異なっています。知的障害をもつ人は、身体介護というより、見守りや確認の介護が中心になることがあります。この場合、生活スタイルを維持するために、介護を必要としていますが、身体介護を求めているわけではありません。このような生活スタイルを維持するためには、その人の人権の尊厳が尊重されなければならないことは当然です。したがって、障害者介護の範囲をどのように決定するか検討を必要とします。障害者分野では、見守りや確認も介護の一部としてみなしていますが、新たな介護保険制度では、そのような介護も含まれるように検討されるべきでしょう。
 障害者介護における課題として、ホームヘルプサービスの量が高齢者介護に比較して少ないことがあげられます。障害者の地域生活支援の重要性が言われながらもその量的な増大が期待されるところです。
 精神障害者における介護は、医師との密接な連携のもとで実施される必要があります。精神療養病棟や精神科デイケア等は精神医療の分野で実施していますが、これらのサービスを医療保険でみるのか、介護保険でみるのか検討する必要があります。精神障害者のための在宅サービスは、ホームヘルプサービスが始まったばかりで、まだまだ普及しているとはいえない状況です。このような状況を把握したうえで、精神障害者の介護サービスが発展するような検討を加えるべきでしょう。
 障害者介護の分野には、高次脳機能障害者の領域をどのように整理するかという課題があります。高次脳機能障害者の在宅での介護の課題を検討し、介護サービスの提供を具体化する必要があります。介護保険制度の検討にあたっては、このような人たちに介護サービスを提供ができるように構築する必要があります。
 介護技術は、すべての障害者一人ひとりによって、どのような技術を用いるかは異なっています。その人を取り巻く物理的な環境、社会的な環境その人のもっている生活課題によって異なった手法が用いられます。このことは障害者特有のことではなく、高齢者にもあてはまりますので、高齢者介護と障害者介護の視点が同じであることから介護技術の違いは、個別的なものとして考える必要があります。つまり、高齢者、障害者という切り口ではなく、介護という課題について考えると、高齢者介護でも用いられている介護技術もかなりの部分障害者介護にも適用できるものもあります。
 最後に、地域のケアシステムをどのように仕組み、どのように展開するかはある程度一定の考え方はありますが、地域によっては具体的になっていないところもあります。地域ケアシステムを全国的に定着させることが重要になっています。介護保険制度のもとでの地域のケアシステムと障害者のそれと同じになっていないことで、地域の社会資源の有効な活用が円滑になされていないのが実情です。したがって、障害者ケアマネジメントと介護保険制度におけるケアマネジメントをお互いに検討する必要があります。これも、障害者介護の課題の一つと言えます。

(さかもとよういち 和洋女子大学教授)