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ウオッチング支援費制度

滋賀県甲賀郡の取り組み
~18歳未満の子どもたちへのサービス~

牛谷正人

 支援費制度が始まって半年が経過した。私が仕事をしている滋賀県甲賀郡では、7年前から公的な制度として「24時間対応型在宅総合福祉サービス事業」を障害者生活支援センター「れがーと」に国・県の事業を市町村が委託し、ホームヘルプサービスを主体とするサービス提供を行ってきた。そのため利用者の多くは、今回の支援費によってこれまでより煩雑になった手続きへの不満はあるものの、サービス利用に関しては十分な慣れをもって迎え入れていると感じている。
 使い勝手のよいサービスを実現するために、甲賀郡が行ってきた制度は、年1回の町福祉課への登録と後は電話を主としたサービスのやり取り、そして月まとめでの実績報告だけで制度が運用されてきた。それぞれのサービス内容については、事業実施主体である町との間で作り上げた「サービス提供に関する申し合わせ事項」をもとに、それから外れるサービス依頼については、その都度利用者が所属する町福祉課との協議によってサービスの提供を決めてきた。
 たとえば、今回の支援費でようやく門戸が開かれた就学前の「障害手帳を持たない人」へのサービス提供や療育事業への付き添いサービス(移動の介護)も平成8年から申し合わせ事項に取り入れられて、何らかのリスクが指摘されている幼児であればサービス対象者とされてきた。
 「れがーと」のサービスを振り返ってみたとき、利用の多くを占める18歳未満の子どもたちへのサービスのあり方について報告したい。
 「れがーと」のサービスが始まった当初、その利用者の約7割は18歳未満の子どもを抱える家庭だった。障害のある子どもの介護をお金を出して他人に託すという新しいサービスの形態を比較的スムーズに受け入れていただいたのは、養護学校に通うお母さんたちだった。当初は、養護学校や療育事業の担当者からは安易な子育ての放棄や親の責任感を希薄にするサービスではないかとの批判も暗に受けていたが、数年が経過した頃には、積極的に担当者から勧められて登録していただく利用者が増えるようになった。特に障害のある子どもの場合、まだ兄弟姉妹も幼く日々の生活において多くのアクシデントを抱える。そんな時電話1本でサービスが依頼でき、当日でもサービス提供を可能とした「れがーと」のサービスは、多くの地域で暮らす障害児を抱えるお母さんたちに受け入れられたのは当然であったと思う。「れがーとのサービスに出会って次の子どもを生む決心ができました」「この子が生まれて初めて夫婦で出掛けることができました」というお母さん方の声は、そのままこれまで障害児を抱えて生活することの大変さを物語っていると感じてきた。
 子どもたちのサービスの特徴は、本人というよりは他の家族の都合による介護依頼が多くを占める。だからこそ、ケアプランによる定期的なサービスよりは不定期なサービス依頼が多くなる。ファミリーサポートという表現がこの時期のサービスに使われるのもこの特徴があるためである。多くの家庭では、母親がケアマネジャーの役割を担っており、状況に応じて祖父母や友達、そして「れがーと」のサービスをコーディネートされている。支援費制度に移行してもその形態は変わらない。
 ただ、これまではサービス依頼を「れがーと」にするだけでよかったが、新しい制度下では支給量決定のため町役場で家庭事情等を説明しなければならなくなった。このことがお母さんたちの負担になっている印象が強い。日々のサービス依頼で慣れている「れがーと」スタッフには話せる愚痴や家族状況も、福祉課の窓口で担当者に話すことはことのほか難しいようだ。昨年10月に始まった支援費の申請以来、かなり多くの家庭から町担当者の家庭訪問時の同席を依頼された。「介護を言語化するための援助」という過程への付き添いサービスである。「ショートステイやホームヘルプサービスが月何日必要なのか」から始まって「同居する祖父母へなぜ預けられないのか」まで、援助を必要とする理由は家庭の数だけあって当然だ。このような事情を十分反映できる制度への成熟には少し時間が必要なのだろう。
 「れがーと」のサービスが始まって7年、支援費制度へ移行して半年。「れがーと」のサービスを十分使い慣れた利用者と新しい制度になって初めてサービスを使い始めた利用者では、サービスへの向かい合い方に微妙な差がある。利用に慣れたお母さんたちは、サービスを使いながらどんどん暮らしの枠組みを拡げていかれる傾向が見られる。そのあり方が成長していく子どもとの向き合い方や暮らしのあり方などに多様化が見られ、成人期になってからのあり方に影響を及ぼすと思うようになってきた。
 これまで入所施設にしか、自分の老後の安心を託せなかった親たちと違い、子どもが生まれた時から、必要に応じて必要なサービスが提供される環境にいる親たちの今後が、子どもたちの未来のあり方に希望を抱かせてくれる。

(うしたにまさと オープンスペース「れがーと」常務理事)