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神奈川
「誰でも、自由に、どこへでも」
~JATA世界旅行博2003にてバリアフリー旅行フォーラムを開催~

吉田岳史

 アジア最大の旅の祭典「JATA世界旅行博2003」(10月3~5日、パシフィコ横浜)において、障害のある方や高齢の方の旅行環境について考える「バリアフリー旅行フォーラム2003『誰でも、自由に、どこへでも』」が、(社)日本旅行業協会(JATA)の主催のもと、10月4日(土)に行われました。近年のバリアフリー旅行に対する関心の高まりや、障害のある方や高齢の方の外出機会の増加傾向を受けたもので、業界団体の主催するイベントでは初の試みとなりました。

バリアフリー旅行にみられる「バリア」とは?

 障害の有無にかかわらず、誰もが自由に旅を楽しめる環境づくりをめざし、1991年より研究や実践を続けている「もっと優しい旅への勉強会」では、JATAの委託により、このフォーラムの企画・運営、当日の進行など全面的に協力をしました。
 バリアフリー旅行に対するニーズや実績は年々増加の一途をたどっており(図1参照)、それに伴い旅行会社の商品拡充やサービスの質的変化が見られ、宿泊施設や交通機関などの対応も充実するなど、もはやこのテーマは特別なことではなくなりつつあります。また、最近では自治体やNPO、医療機関や教育の場などにおいても関連した取り組みがなされており、観光資源のバリアフリー化は、そのまま文化資源の水準を示す一つの指針であるとも考えられます。
 一方で、いまなお多くの課題が山積みとなっており、一般的に論じられているハード面やソフト面のバリアは当然ながら、バリアフリー旅行を必要としている人たちの多様なニーズの実態が顕在化されていないという、いわばコミュニケーション不足からくるバリアもその一因であると思われます。
 今回のフォーラムは、障害のある旅行者の方と、先駆的な実践を重ねている旅行会社や交通機関、観光地などの関係者をパネリストに迎え、各々の取り組みや成果を具体的・直接的に紹介することにより旅行本来のもつ快適さや楽しさを伝え、ユーザーの興味や潜在需要を喚起することを目的として開催されました。
 このフォーラムは2部構成とし、前半では旅を楽しむユーザーの立場から語ってもらい、後半はそれを受ける形で、旅行を提供する側の取り組みを述べていただきました。
 第1部「ご旅行を考えてから、出発まで」では、数多くの旅行経験のあるユーザー2名(車いす利用の方1名、目の不自由な方1名)にまずご自身の旅行体験を語ってもらい、そこから得た「旅のノウハウ」「楽しかったこと」などをはじめ、提供者側に対する今後の課題や要望を述べていただきました。ここではバリアフリー旅行を扱う旅行会社の方(1名)からも、実際の旅行の流れについてアドバイスをいただきました。
 これを受けて、第2部は「ようこそ、どうぞ」と題し、まずは提供者側の歓迎の姿勢をアピールしていただきました。ここでは航空会社やリゾート&ホテル、ハワイや沖縄などの観光誘致やコンサルティングに関わるパネリスト4名から、バリアフリーに関するプログラムや取り組み、その成果を示した統計資料、イベントなどの紹介をしていただき、また、旅の魅力や観光ポイントなど、バリアフリーだけにこだわらない視点からの情報も盛り込んだものとなりました。これらの構成と内容により、旅行の企画段階から出発まで、および旅行中におけるシチュエーションを時系列的に考えていけるという特徴と、消費者と提供者の双方の立場が一緒になってこのテーマを考えていくという特色を具体化することができたと思われます。

図1 お体の不自由な方の航空搭乗実績(単位:千人)
6年間で1.5倍以上の延びを示している。資料提供:ANA(全日空)
図 棒グラフ

多岐にわたった会場からの反応と期待

 各パネリストの話が総じてポジティブでかつ実践的な事項に焦点を当てたものが多かったこともあり、会場からの反応も「夕日のきれいな観光スポットはどこか」「マリンスポーツを楽しめるところは?」「温泉を楽しむためのコツは」などといった、旅行好きなら誰もが関心をもつような質問が数多く寄せられたことは、このフォーラムの一つの成果であったといえます。また、旅行情報を得るために有効なインターネット環境について、アクセシビリティの改善による情報保障の拡充と、旅行機会の増加との相関といった非常に興味深い意見も聞かれました。
 一方で、「バリアフリー旅行というと、主に車いすユーザーを対象に考えがちだが、聞こえの不自由な人や内部疾患のある人など、見た目ではすぐにわからない人たちへの理解や配慮も考えてほしい」「障害に対する思いの強い旅行会社との、価値観の垣根を感じる。もっと普通に考えてほしい」といった意見もあり、改めて要望が多岐にわたっていることを感じ、それぞれのニーズに応えるべく整備が必要であることを指摘された思いがしました。

今後の課題について

 今回のシンポジウムは、土曜日の午前中の開催であったにもかかわらず、障害のある方をはじめ、業界関係者や福祉関係者、学生、マスコミなど約100名の方にご参加いただきました。また、期間中に出展したバリアフリー旅行情報に関するブースにも多くの人が訪れ、改めてこのテーマにおける各方面の関心の高さを示すものとなりました。この分野におけるニーズは今後もますます高まるものと思われ、同時にその多様性も顕著になっていくことが予想されます。旅行そのものに対する考え方が人それぞれ違うということは、当然ながらこの分野においても同様です。
 「誰でも、自由に、どこへでも」の実現には、多くの課題が残っています。本来バリアフリーとは、旅行そのものを楽しむための「手段の一つ」にすぎないはずですが、今はまだその手段の部分が旅の本質よりも目立っている段階ではないでしょうか。今後は提供者側に対しても、より一層のバリエーションが求められるでしょうし、一方でそれに応えるための投資効果が見えにくいといった不安も存在します。また、ユーザーにとっても、「行きたいところへ」行けるほどの選択肢に恵まれているとは言いがたく、自分の意志や責任で旅を選択できる環境づくりが望まれます。
 今回のフォーラムは、双方のもつ情報を引き出しすりあわせながら、お互いに今後のバリアフリー旅行について考えあう、一つのきっかけとなったように思われます。本会では、今後もこうした機会が各方面で継続的・発展的に開かれることを願っています。

(よしだたけふみ「もっと優しい旅への勉強会」事務局長)

◆関連サイト
「もっと優しい旅への勉強会」
http://www.yasashiitabi.net/
「JATA世界旅行博2003(終了)」公式サイト
http://ryokohaku.com/