ユニバーサルデザインの広場
地域からの発信
石川紀文
市民団体の立ち上げ
アクセシブル盛岡が発足したのは平成5年10月で、今年でちょうど10年を迎えたところです。発足のきっかけは盛岡市車椅子バスケットボールチームと姉妹都市であるカナダ・ビクトリア市チームの交流で、ビクトリア市チームが盛岡を訪問した際、市内観光で立ち寄った岩山展望台にスロープやエレベータが設置されてなく自力で登れなかったことから選手や他の障害者等12名でスタートしました。最初に取り組んだこの岩山展望台は、盛岡市が私たちの市民運動を受けて1年半後にスロープを設置しています。
会はその後「すべての人が快適に安全に暮らせる街」をめざして、発足時から「会則なし、会費なし、議員を入れない」を守りながらさまざまな活動を展開しています。同じ事を繰り返すことをあまり好まない主義なので、10年間で100回以上の行事を説明することは難しいのですが、ただ言えることは、会の活動は「楽しく、遊びながら」ということです。会の活動には必ず「酒を飲みながら」が付くのも私たちの会の特徴で「出会い」を大切にしています。理解は出会いから始まると考えているからです。その後会は県内各地に広がり、盛岡を含めると9か所になり東京や仙台にも仲間組織があります。いずれもが会則なしで議員を入れていません。アクセシブル盛岡の活動の成果は岩山展望台に始まり、盛岡市議会傍聴テレビの設置、市庁舎の車椅子駐車場の移転拡大設置、デパートやコンビニのUD化推進、学校の総合学習教育協力、旅行の企画やさまざまなフォーラムや講演会の開催など多種多様にわたっています。
特徴ある団体と活動
私たちの活動の中心をなしているのは「私たちがやりたいことを、私たちが中心となって、私たちのお金で」活動をすることで、バリアフリー観光やユニバーサルデザインなどについては行政が手がける前からアクセシブル盛岡が市民、県民に働きかけ、それがきっかけとなり行政も取り組み始めました。というのも、会には県庁職員や市役所職員も一会員として参加しており、さらには報道記者もいるので広報告知ができやすいようになっています。増田寛也岩手県知事も夫婦で会員として参加しており受付をやったこともあります。私たちの会では肩書きは関係なく、皆が一人の住民という視点から成り立っており、特に会が市民権を得るうえで大切なのは上下関係ではなく、平等であるということであると思います。「会員一人一人が会の仲間であり中心である」ということで、私たちの会には役職者は代表と事務局長の2人しかなく、どちらかというとこの2人は世話役と言ったほうが分かりやすいでしょう。
地域への広がりと効果的な活動
私たちの活動において当初から各種団体との交流があります。商工団体、観光団体、教育関係などさまざまな組織と(酒を飲みながら)懇談して交流を深めてきました。交流がきっかけとなり会員となった人も多く、私たちは「地域のどの世界にも会員や応援してくれる人がいる」社会づくりをしています。関係者だけでは広がりは生まれてきません。特に企業経営者が会員の約1割を占めており、企業経営者が自らの企業のUD化に取り組んでいます。また、参加している会員の多くがアクセシブル盛岡以外の地域活動にも参加しており、自ずと広がりが生まれるようになっています。障害をもつ人もさまざまな種類の障害の人が集まっており、いろいろな立場からの発言が聞けるようになっています。さまざまな人が集まっているということはさまざまな世界に広がることであり、地域に浸透することです。また、地域活動においては地域の中で実績を上げていくことで存在を示すことであって、地域活動があって理念が生きていくのだと思います。
市民団体のめざすもの
地域の中心は地域に住む人であり、住んでいる人の感性が大切であり行政の視点ではありません。私たちが大切にしてきたものは「独自性、自主性、中立性、ネットワーク」で、会則なしでも組織は市民の間に認められたし、10年も続いてきました。地域に必要なことは行政機関とは関係なく独自に進めてきました。また会員が議員に当選した場合は、その時点で退会しています。さらには広がりのあるネットワークを築いてきたわけですが、重要なのは「会員一人一人が自分でなにをするか、できるか」ということです。分派活動歓迎、出入りが激しい会をめざしています。多くの組織が立派な理念や会則を持ちながら会の運営に時間を取られ活動がマンネリする中で、私たちは「成果を上げていくらの市民団体」をめざしたいと思っています。
今年10月10周年を迎えた私たちの会は、記念行事として「いわてUD学校」を開催しました。第1部の市内の中学校では、この欄にも登場された古瀬敏氏や関根千佳氏などUDのトップランナーが講師を務め特別授業を行い、第2部では一般向けの車座講座を開きました。また、岩手大学農学部学生有志との「UDワークショップ―地域を点検しよう」を開催、提言を市長や知事に提出する予定です。もっとも役所に行かなくても市長や知事は会員なので例会で提出できます。また一方で、行政と連携したイベントの開催をする機会も増えてきました。私たちの会はあくまでも地域にこだわりながら住民の視点を大切に活動を展開したいと考えています。会員は200名を超えましたが、「地域のことは住民一人一人が考え、自分ができる方法で変えていく」という意味では、私自身は盛岡市民28万人が会員だと思っています。
(いしかわのりぶみ アクセシブル盛岡代表)
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2003年11月号(第23巻 通巻268号)