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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

予算概要を見ての評価

『自立と共生』の流れを起こそう

高原伸幸

アブノーマルな逆転現象

障害者総数601万人のうち在宅障害者が約9割、施設入所者が約1割にもかかわらず、16年度障害保健福祉部予算総額6942億円の45%は入所系のサービスに費やされている。さらにこれを支援費で見ると、支援費総額の65%を施設訓練等支援費が占めている。この国の障害福祉関係予算にそうしたアブノーマルな逆転現象がなぜ生まれるのか。その一要因として、「施設訓練等支援費は義務的経費」、「居宅生活支援費は裁量的経費」という振り分けの存在がある。1月以降の介護保険統合議論など、こうした状況を確認しつつ、私たちは16年度障害保健福祉部関係予算案を見ることとなる。

地域生活支援の明確なメッセージは

支援費制度は、ホームヘルプサービスの大幅な利用増により初年度途中から予算不足となった。「介護保険の教訓は生かされなかったのか」という指摘が都道府県や市町村の担当者から聞こえてくる。地方自治体に「詐欺的」とまで言わせる「三位一体改革」の影響も大きいが、地方の国に対する信頼感は揺らいでいる。

苦しい財政事情の中にあって、どういうメリハリのついた予算になるのか、地域生活支援の充実、脱施設施策のはっきりとしたメッセージが必要である。注目された16年度予算案は、肝心のホームヘルプサービス予算が障害福祉課分で342億円、グループホームが86億円と概算要求時より上乗せされて計上された(11か月予算であった15年度予算を平年度化しての対前年度比はそれぞれ12.7%増、16.9%増となる)。一方、施設訓練等支援費は、通所施設に通う重度重複障害者への重度加算を計上して一つの懸案事項に対応している。そして施設訓練等支援費全体は平年度化での対前年度比2.4%減となった。

厚生労働省は、『障害者の地域生活支援』をキーワードにして極めて厳しい財政状況の下、施行2年次目となる支援費制度の着実な実施などに重点を置いた予算と自己評価している。しかし、概算要求時に掲げられた地域生活支援を推進するための新規事業予算(たとえば、地域生活体験事業、障害児施設デリバリー事業(仮称)など)を削り、また小規模通所授産施設への補助単価を1か所あたり50万円減額させての予算編成である。日々地域生活支援の現場にいる者の感覚からすると、こうした地域生活支援充実の重要な事業への削減は回避して、もっと見直されるべき事項はなかったのかと反対の姿勢を示さざるを得ない。

不透明な予算案

またホームヘルプサービスの16年度予算案は、15年度5月実績をベースにした需要見込みの95%を確保しているに過ぎない。今後さらに増えていくであろう潜在的ニーズ(新しい利用者)に対応できるのか不透明さが強まるばかりである。そこで国は、ホームヘルプサービスとグループホームの単価見直し(案)を年末に示すとともに(一旦白紙撤回)、1月に「今後の居宅生活支援サービスの事業運営上の工夫」を検討するとして、以下6つの視点を示した。1.支援の必要度に応じたサービスの内容を適切に評価する視点、2.支援の必要度に関する客観性を確保する視点、3.不合理な地域間格差を是正する視点、4.適切な利用者負担を求める視点、5.効率的なサービス提供を図る視点、6.その他公平性の確保や制度運営の合理化を図る視点、である。

障害者施策と介護保険との統合問題

支援費制度の財政的危機状況の中、しかも限られた予算枠の中での調整となれば、単価引き下げや利用抑制策も検討されていく。「介護保険報酬単価と合わせる」とした大臣答弁もある。「介護制度改革本部」の設置により統合をめぐる問題も真剣に議論され始めた。しかし「共生」を謳(うた)い、障害者ケアマネジメント手法を活用した自立と社会参加の支援をめざした障害福祉の財源は十分に確保されなければならない。それは決められた予算内での配分という考えでいくのか、必要な支援による結果に基づいた財源確保という仕組みでいくのか、重大な選択となる。だが舵は大きくきられなければならないと考える。

財源論を起点とした統合議論だが、一方で、個々に与えられる支援の費用という位置付けを明確にしながら、地域でのサービスのあり方を含めた検討を行うことが重要である。たとえば、これだけ障害者ニーズが高まっている中でもなお、既存の社会福祉法人の多くが地域生活支援に取り組まないことや、ショートステイサービスのあり方、障害程度区分の客観性等々の状況については真摯に見直されなければならない。

ケアマネジメントを軸にした検討を

もともと支援費制度は、相談支援事業を一般財源化して障害者ケアマネジメントというエンジン部分を欠落させてスタートした。先の6つの視点も、統合議論も、必要とする人に必要な量が示された支援計画とそれを支える当事者主体のケアシステムを含めた議論でなければ本末転倒という謗りは免れない。その利用者ニーズを中心としたケアシステムを構築する鍵は障害者ケアマネジメントであると言って過言でない。滋賀の「選べる福祉特区」は、脱施設の哲学を根底にした本人主体のケアへの転換だと考察するが、そこには利用者の声をしっかりと聴き、それに寄り添う障害者ケアマネジメント機能がきちんと位置付いている。

「脱施設」、「地域生活支援」という障害者施策の方向感覚がぶれないでほしい。

国は今、自ら先導的に国立コロニーの入所者の地域生活移行を進めようとしている。そしてその受け皿としての地域は、障害のある人へのかかわりを大事にする「自立と共生」の地域へと変容していくこととなる。そのための努力が積み重ねられていくだろう。

今私たちは、生きている人たちの心に響く支援が根を張ってできるかどうか、試されている。

(たかはらのぶゆき さぽーとせんたー「かもみーる」)