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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

予算概要を見ての評価

新障害者プラン実現のための課題―7万2000人問題を中心に

池末亨

字数の制約があるので、ここでは新障害者プランで打ち出された「条件が整えば退院可能とされる7万2000人の入院患者について、10年のうちに退院・社会復帰を目指す。このため、今後さらに総合的な推進方策を検討する。」と精神保健福祉予算の関連について述べる。

社会復帰施設などの課題

退院促進を進めるためには地域での受け皿の整備が何よりも重要である。16年度予算を見ると、厳しい財政状況の中、生活訓練施設、福祉ホーム、授産施設、小規模通所授産施設などの箇所数は着実に増えている。しかし、昨年5月突然発表された「精神障害者社会復帰施設整備費大量不採択」に見られるように、予算は示されても財源がないため設置が進まないという危惧が残る。さらにただでさえ運営が厳しい小規模通所授産施設の運営費が50万円削減されることは、退院促進に水をさすものといわざるを得ない。

7万2000人の退院促進のため何が必要か全国各地で検討され始めている。筆者が委員をしている東京都地方精神保健福祉審議会、神奈川県精神保健福祉センター調査研究委員会でもこの問題を検討している。そこで筆者が主張していることは、障害保健福祉圏域ごとに可能な限り詳細に実態・ニーズを把握し、それぞれの地域の需要に応じた適切な施策を整備することが必要だということである。

1995年に出された障害者プランの数値目標に沿って、この8年間で精神障害者地域生活支援センターも含めた社会復帰施設はそれなりに整備されてきた。しかし、その内容をみると一つの県の中でも整備されている地域が偏在している傾向が強くある。交通が不便な山の中にある精神病院に施設が併設されていて、地域に住んでいるだれもが気軽に利用できる状況になっていないところが半数を超える。退院促進を進めるためにはこの問題をきっちり解決していく必要がある。

こうした検討が全国で進められることを期待するが、その前提となるのは、厚生労働省で各県の障害保健福祉圏域で必要な施策を財政的にしっかり保障することである。施設整備費不採択という事態は二度とあってはならない。

社会的入院解消のための退院促進支援事業

15年度の16か所から、16年度は21か所と5か所分予算は増えている。この事業は大阪府で12年度から独自に行った取り組みで、14年度までの3年間で97名の対象者に28名の支援職員が関わり、さらにさまざまな機関・施設が協力し、大きな成果を上げ、それをモデルに全国に広めようと15年度に予算化されたものである。厚生労働省は当初47都道府県のすべてでこの事業に取り組むよう計画したが、名乗り出る県が少なかったためこのような数値になっている。東京都でも16年度に2か所で実施する予定で、場所をどこにするか、内容をどうするかを現在地方精神保健福祉審議会で検討しているが、筆者はすべての病院を対象に、すべての地域で東京都独自でも実施すべきだと思っている。7万2000人の退院促進を進めるためには、この事業を全国で全面的に実施することが必須条件である。そうしなければ7万2000人問題は単なるスローガンに終わってしまうという強い危惧を抱いている。16年度事業を実施する21か所が成果を上げ、17年度以降この事業が飛躍的に展開することを期待する。

介護保険と精神障害者施策

1月8日各新聞で大きく報道された介護保険と支援費制度の統合問題は、精神障害者施策にも深く関係している。16年度予算とは直接関係はないが、ここで触れることをお許し願いたい。精神保健福祉関係者の間には、支援費制度からも外され、他の障害者福祉施策と大きく差をつけられてきた問題を解消するチャンスだと言う考え方が相当にある。

しかし、事の発端は支援費制度の財源が確保できないという財政的な理由から出たもので、障害者の地域生活支援のあり方はどうあるべきかという本質的な問題は十分議論されていない。

筆者は2000年5月号の「ノーマライゼーション」で介護保険と精神障害者の問題について次のように主張している。「この半年の介護支援専門員の動きを見ると、対象者の生活全般を見るのではなく、まさに身体的機能だけしか見ていない。これは彼らに責任があるのではなく、要介護認定基準そのものの問題であるが、介護保険の5年後の見直しで、これがそのまま障害者にも適用されたらどうなるか不安である。(中略)5年後の見直しの時には、高齢者の介護保険の轍を踏まず、高齢者のケアマネジメントが障害者のケアマネジメントに限りなく近づくことを期待する。」しかし現状を見るとこの期待は絶望的にすら思える。介護保険への統合が避けられないものであるならば、こうした本質的な課題をどこまで主張できるか、譲れない点は何かを今こそ検討しなければならない。

(いけすえとおる 東京学芸大学教授)