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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

予算概要を見ての評価

精神障害者プラン2年目の予算から考える精神障害者施策の充実への課題

大塚淳子

平成16年度予算案が年末に公表され、年明けて介護制度改革本部が設置され老障一体化の介護保険制度論議が急ピッチで進められている。「利用者本位の支援」を掲げ「活動し参加する力の向上」やその基盤整備、そして「精神障害者施策の総合的な取り組み」を重点施策に置く新障害者プラン2年目の幕開けは激震が走りそうである。

資源整備は社会的入院者の退院促進のためだけのニーズではない

社会的入院者の退院促進を明文化した新障害者プランの真価は、同時に精神障害者の脱施設化が図られ、地域市民としての生活をいかに豊かに享受できるかということによって問われるものである。その視点で予算案概要を眺めると、確かに居宅生活支援事業(ホームヘルプサービス・ショートステイ・グループホーム)のいずれも、また援護寮・福祉ホームの社会復帰施設を合わせても上向きの予算にはなっている。今年度との合計では、7万2000人と揚げられた社会的入院者の半数近くが行き先を確保できそうな錯覚に陥る。が、前障害者プランでそれなりの数値目標と予算が計上されたにもかかわらず、脱施設化があまり進まなかったことから教訓を得ておかなければ、今回も結果は変わらずという事態を招きかねない。ここに精神障害者施策の大きな課題が潜んでいる。

私は社会的入院者の退院促進の目標は10年かけるのならば、死亡退院もしくは異なる種別施設への長期転院、転入所を含めてある程度は進むであろうと厳しい見方を持っている。つまり、退院促進すなわち地域再定住や脱施設化には結びつかない側面を危惧する。同時にそうして空いた病床に、やもすれば今は地域で高齢家族と同居している方、支援が少ない中で周囲との緊張感の高い暮らしを送っている単身者が調子を崩し、また家族も限界を迎えて逆戻りしてしまう危惧をも抱いている。それが証拠に、この間整備されてきた資源には家族からの自立を求める障害者の利用も多い。住まう所が確保されて初めて退院可能となるが、精神障害者専用のハコモノ予算と並行して街の中に暮らすという発想から公的保証人制度のような支援体制整備のための予算化なども考えられてよいものである。病院から社会復帰施設等に退院をしても、地域によってはグループホームにも期限設定があり、期限がくると病院へ戻るという“社会的入所”なる現象もすでに顕在化しつつある。

またホームヘルプサービスや訪問看護など、地域に暮らすようになって利用できるサービスが必要なのは論を待たないが、社会的入院者の退院促進には彼らが地域生活をイメージしたり体験したりできる機会と場と援助者が非常に重要な鍵となるのである。ショートステイは地域で暮らす障害者が病状悪化ではない時に生活維持をするうえでもっと数が必要と思われるが、入院患者が地域生活を想定したリハビリテーションを行うためには、体験宿泊訓練の場が欠かせない。病院では地域生活の可能性をアセスメントする環境と職員の眼が持てない。それほど長期入院が奮ってしまっている社会生活は大きく、職員の感覚も麻痺させられている。ピアカウンセリング事業にも期待を寄せたいが、メニュー事業となっているため各自治体の当事者の力とエンパワメントへの理解と取り組み姿勢が問われよう。

地域ごとの状況把握とニーズに基づく施策のグラウンドデザイン化と実行を

地域生活支援センターは唯一、前プランで数値目標を達成せず、しかも目標を下方修正されたものである。市町村レベルでの地域生活支援をという時、先にあげた障害者を抱える家族への情報提供や負担を軽減するような相談支援、そして当事者の社会参加に結びつくような相談支援は要であり、その拠点として保健所や生活支援センターに期待するところである。しかし、支援センターの整備状況は下駄履きで行けるというには程遠く、しかもマンパワーも単独型のセンターであれば5人と幅広い生活支援メニューをこなすには圧倒的に不足している。それにもかかわらず、ある地域では医療法人立のセンター4か所が互いの目と鼻の先に密集しており利用者を取り合うという状況がある。生活支援が根拠ではなく法人経営を根拠にした運営としか考えられず、「利用者本位の支援」や「ノーマライゼーションの推進」とは遊離している。予算ではこうした理念から実際の内容や運営についての規定まではされないが、国の障害者計画を地域生活に反映するための圏域ごとの全体状況把握と障害者のニーズに沿った制度やサービスをデザインできる力が求められている。東京都下では保健所の統廃合も進んでおり、地域の相談支援の拠点や力が弱まるではないかと心配される。

住民と協働の街づくりの中での普及・啓発事業を

精神障害者の地域生活支援、それは精神病院があまりに長く閉じこめてきた歴史があるだけにとても大変な課題であり、実現させなくてはならない目標であり、作業である。協働する、共存する機会を増やすことが優先課題である。また普及・啓発事業も新規に予算化された。ハンセン病理解のためのパンフレットが国予算で全中学生に配布された(はずである)。ぜひ同様のものを期待したい。精神障害者が障害をもちながら地域で暮らすことへの施策はまだまだ多くの課題が山積みである。

(おおつかあつこ こころのクリニック石神井)