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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年3月号

予算概要を見ての評価

16年度障害者関連予算「支援費制度の推進に向けて」

三澤了

2003年4月から障害者福祉サービスの基本が支援費制度として実施されることとなったのは周知のことである。「ニード中心、選べる制度」を基本理念とした支援費制度が実施に至るまでは、基準単価の設定やサービス内容、ヘルパー資格などについて障害者団体と厚労省が再三にわたり協議を行ってきた経過がある。

昨年1月の上限撤廃抗議行動の混乱をはじめとするさまざまな紆余曲折を経て開始された支援費制度であるが、制度が実施されてからはおおむね「利用しやすくなった」という利用者の評価が出され、多くの身体障害者、知的障害者がこの制度を使って生活を組み立て始めたことが数字的にも実証されている。特に、居宅生活支援についてはホームヘルプ、ガイドへルプ等の利用実績が順調な伸びをみせている。

しかしその結果、昨年11月の段階では全国の市町村の4月、5月の利用実績をもとに年間経費を推計すると、年度末に補助金として全国の自治体に配分する額に不足を来すということが明らかになり大騒ぎとなった。居宅支援費のホームヘルプ関連の金額として約50億円、居宅生活支援費全体として100億円が不足することが厚労省から明らかにされた。制度開始の初年度から国庫補助金の配分額に多額の不足が生じ、全国の自治体にそのつけを回すようなことになれば、実施主体の市町村としては次年度からの利用抑制に向けての意識が強まり、結果的に利用者にしわ寄せが来てしまうという認識のもとに、「障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討会」に委員を出している当事者団体(日本身体障害者団体連合会、日本盲人会連合、全日本聾唖連盟、日本障害者協議会、全日本手をつなぐ育成会、全国脊髄損傷者連合会とDPI日本会議の7団体)は共同して100億円を補填(ほてん)することを厚労省に求め、各政党に対しても働きかけを行った。不足するといわれた100億円は最終的には厚労省の内部財源のやりくりでなんとか補填することができたということで、12月の「在り方検討会」の席上で厚労省の塩田障害保健福祉部長から、「ご心配をかけたが2003年度に関しては所要額を賄うことができたので、安心してほしい」旨の発言があった。障害者団体としても一安心と胸をなで下ろしたところであったが、1月に入り、実質的に全国の市町村に配分する金額が20億円から30億円程度不足するという事態が明らかになり、市町村の歳入不足は逃れられそうもない。

支援費制度実施1年目から予算不足が露呈したという状況を受けて来年度の予算要求が行われ、最終的に支援費全体としては3473億円の予算が計上されている。この中で地域で暮らす障害者のための居宅生活支援関連費は総額で約600億円。これに対する施設訓練等支援費は2870億円と居宅部分に対しては4.5倍程のものとなっている。地域で暮らす障害者にとってもっとも関心の高いホームヘルプ関連の予算は約356億円と、一定の伸びは示しているが、しかしこの金額では2004年度においても決算時に補助金が不足し、全国の自治体は、予定していた国からの2分の1の補助が受けられなくなるという事態が避けられないこととなってしまう。

こうした事態を避ける意味も込めて厚労省の担当部局からは支援費の単価基準の見直し案等が2月26日の「在り方検討会」で示されたが、こうした対策を講じても最終的には予算不足に陥ることになるものと予想される。このことは支援費制度を開始する前段での利用予測調査等を行わなかった準備不足による利用見込み違いにすべてが起因するものであり、担当部局の怠慢が責められても仕方のないことであろう。

こうした支援費関連の財源不足から、一気に支援費制度の介護保険との統合に向けた動きが加速されている。1月26日に塩田障害保健福祉部長は「支援費制度がめざした理念を前進させ、発展させていくための新たなエンジンとして介護保険との統合を考えたい。障害者団体が時期尚早ということであれば見送らざるを得ないが、介護保険の仕組みを変えるという前向きな議論をしてもらいたい」という意見表明を、前記の7団体に全国精神障害者家族会連合会を加えた8団体に対して行った。こうした塩田部長の姿勢表明を受けて、8団体は現在厚労省の担当部局と、支援費制度と介護保険との統合に関する話し合いを行っている。

支援費制度と介護保険の統合には全国の多くの障害者から、現在の生活を続けることができなくなるのではないかという大きな不安と強い警戒の声が寄せられている。また、支援費制度という新しい制度によってようやく生活条件を整えようとしているこの時期に、介護保険という既存の制度に移行させようとする国の動きに強い抵抗感が多くの方面から示されている。

支援費制度を介護保険に統合させようとするならば、そこには乗り越えなければならない多くの課題が存在する。サービスの内容、サービスの量の問題、サービス提供の手法、利用量の決定に関するアセスメント、費用負担の仕組み等々簡単に整理の付かない課題が数多く存在する。これらの課題に関して、多くの障害者が安心できる方向性が示されない限り、介護保険との統合を進めることは難しいと言わざるをえない。DPI日本会議としては、6月までという慌ただしさのもとで結論を求めるのではなく、これらの問題について十分に協議を深め、多くの障害者が納得のいく形での結論を求めたいと考えている。

(みさわさとる DPI日本会議)