音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年6月号

評価と課題 次の目標「差別禁止法制定」へ向けて

石野富志三郎

2003年の通常国会で継続審議となり実質的に棚上げされていた、障害者基本法の改正がようやく現実のものになろうとしています。

全日本ろうあ連盟(以下「連盟」)は、『障害者の完全参加と平等』の理念を追求する中で、何事においても障害をもつ当事者と十分な論議を行うことを訴えてきました。

障害者基本法の改正法案に対して連盟が要望した内容は次の3点です。

(1)「障害」の定義による障害の規定が改正されていない点を指摘し、従来の医療モデルではなく、世界保健機構(WHO)が採択した「ICF」の理念(社会モデル)に立脚しての改正を要望しました。

(2)情報の利用に関するバリアフリー化については、改正内容が情報通信技術(IT)関連に限定されているため、2001年策定の「障害者基本計画」と同様に「情報・コミュニケーション」の条文を設け、「聴覚障害者のコミュニケーションのバリアフリー化」と「手話通訳等施策の整備」を明文化することを要望しました。

(3)教育に関しては、聴覚障害をもつ児童・生徒に対して手話による教育環境を保障することの明記を要望しました。

また、手話など聴覚障害者のコミュニケーション保障のための環境整備推進を含めた決議を付することも要望しました。

聴覚障害者の場合は、(2)で述べたようにソフト面での整備がどうしても必要です。情報化社会においては、情報と通信へのアクセスが生活上の不可欠な手段となりますが、手話などコミュニケーション手段の保障が無い状況では、ろう者、難聴者、盲ろう者、ろう重複障害者は、情報化社会から取り残され、ITの発展を活かした社会参加の支援さえも受けられなくなるのではないでしょうか。

たとえば、災害が起こった時には、ライフライン関連の重要な情報が得られず、そのために支援を受けられないままに、孤立してしまうのです。2003年11月に滋賀県で実施した「聴覚障害者緊急災害情報保障訓練」でも、日常的な情報提供ネットワークの構築や、障害者専用電話の確保の必要性、また情報発信基地と行政との連携などさまざまな課題が浮かびあがりました。これらハード面だけでなく、手話挿入など編集加工してわかりやすくした映像を提供していくソフト面の課題も出されました。各自治体に、災害時、緊急時の聴覚障害者に対する情報伝達に配慮した施策が望まれます。

少し前の話になりますが、連盟を中心とする聴覚障害者関係8団体が「聴覚障害者を差別する法令の改正をめざす運動」を展開し、222万人以上からなる署名用紙の束を国会に提出しています。2001年6月22日に衆議院本会議にて「障害者に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律案」が改正されたことはまだ新しい記憶ですが、各省庁での欠格条項事由の適正化が完全に終了したとはいえません。警察庁では道路交通法第88条の欠格事由「耳の聞こえない者、口のきけない者」に免許を与えないとする条項は削減されましたが、施行規則第23条の適性試験の聴力検査は、その実効性に疑問がありながらも改正の動きがありません。厚生労働省薬剤師国家試験では、聴覚障害をもつ青年が、受験時に、補聴器使用を認められないという差別を受けた例も最近起きています。

障害者基本法改正法案第14条(教育)および第15条(雇用)に雇用・就労の環境整備が謳われていますが、コミュニケーション支援など聴覚障害者の具体的なニーズがどう結びついてくるのでしょうか。聴覚障害はその障害が外見から識別できませんが、手話通訳、パソコン通訳などコミュニケーション支援のニーズを持っているのです。先の薬剤師の例についても、資格を取得するまでの学習環境・国家試験受験・実際の就労のすべてに、情報とコミュニケーションの保障が必要なのです。ハード面、ソフト面両方の環境をどう整備していくか、私たちには粘り強く運動を続けることが求められています。

障害者基本法改正法案に「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」(基本的理念第3条3項)と明記されたことは評価できます。差別を受けた障害者が救済申立の手続きを取れるシステムの確立のためには、さらに大きく「差別禁止法」の制定をめざして運動しなければいけません。障害者基本法改正法案の国会通過により、「この次は差別禁止法」と私たちの目標がはっきりしてきました。社会から障害のある人に対する差別や偏見をなくしていくためにも、さまざまな法律や施策の制定に障害をもつ当事者が主体的に参加して意見などを反映させる必要があります。

国際的にも、国連が障害者権利条約の制定に取り組んでいますので、この権利条約案をより実効的なものにできるよう、そして障害のある人もない人もすべてが権利条約に理解を深めてもらえるよう、連盟は、世界ろう連盟や日本障害フォーラム準備会とともに全力をあげていきたいと思います。

(いしのふじさぶろう 全日本ろうあ連盟事務局長)