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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

これからの地域生活支援

曽根直樹

障害のある人の支援は、「地域生活支援」を中心に展開される時代になりました。地域生活支援の仕組みを考えるときに、大きく3つのポイントがあると思います。一つ目は、「家族の介護負担の軽減から本人の生活支援へ」。二つ目は、「共生社会の実現とユニバーサルな支援の仕組みづくり」。三つ目は、「市町村の時代と街づくりとしての福祉」です。

1 「家族の介護負担の軽減」から「本人の生活支援」へ

「在宅福祉」という言葉が登場してきたとき、在宅生活は家族介護が支えていることから、介護者である家族が行っている介護をホームヘルパーが代行したり、ショートステイを使って本人を一時的に施設に預けて介護者が休息したりといった、「家族の介護負担の軽減」を目的としていました。また、ホームヘルパーによる「介護」の概念は、寝たきり高齢者の着替えや排泄、食事介助など、居宅における日常生活動作の介護という、限定的なサービスとして捉えられていました。

このような状況の中、「家族の介護負担の軽減」から、「障害者本人の生活支援」として捉え直す取り組みが始まりました。身体障害者の「自立生活運動」では、全身性障害の人が介助を受けながら家族から独立して生活することを実現してきました。また、知的障害児・者の分野では、「レスパイトサービス」「タイム・ケア」「パーソナルアシスタント」などの呼び方で、本人の希望する過ごし方をケア・スタッフが支援するサービスが生まれてきました。精神障害の分野では、当事者同士のミーティングを通して、当事者主体で活動内容を決めたり、当事者がホームヘルパーとなって支援を行う「ピア・ヘルパー」などの取り組みが始まりました。これらの取り組みは、居宅における日常生活動作の介護にとどまらず、外出に付き添う「移動介護」や、見守りも含めた長時間の介護に対応する「日常生活支援」などのサービスをホームヘルプサービスの中に作り出し、社会参加も含めた障害者本人を主体とした、地域生活を実現するためのサービスのあり方を実体のあるものにしてきました。

2 共生社会の実現とユニバーサルな支援の仕組みづくり

ノーマライゼーション思潮の影響を受けて、日本でも施設福祉から地域福祉への転換が志向されるようになりました。日本における地域福祉のイメージは、グループホームに代表されるように、成人期以降の生活の場を入所施設ではなく地域社会の中でという問題として捉えられてきた傾向が強かったと思います。

平成15年度に策定された「新・障害者基本計画」では、「共生社会の実現」がその目的に掲げられました。「ノーマライゼーション」も「共生社会」も、本来、障害のある人が生まれて、子どもから成長して大人になり、高齢になり人生が終わるまでのすべてを、障害のない人と同じように地域で生活を送ることができる社会を実現することである、ということを考えると、成人期の生活の場の問題から出発するのではなく、乳幼児期から障害のない子どもと同じように生活できることを考えていく必要があります。そのためには、子どもに障害があると障害児通園施設へ通い、次に養護学校へ就学するという「進路」から見直す必要があると思います。

私が住む埼玉県東松山市では、平成16年3月に障害児通園施設「こども発達センターハローキッズ」が閉園しました。39人定員のこの通園施設は、かつては常時定員一杯で、大勢の待機児童を抱えていました。しかし、乳幼児期のうちから障害のある子どもだけが特別な施設に通うことは、障害のない子どもとは違う場で生活を送ることになってしまい、結果としてその子の存在を地域社会から取り上げてしまうことになると考え、積極的に保育園や幼稚園への就園を勧めてきました。また、統合保育を行う保育園に療育スタッフを派遣し、保育内容へのアドバイスをしてきました。地元の東松山市も、公立保育園に保育士を加配して、障害のある子どもたちを受け入れてきました。その結果、平成15年度は東松山市内で保育園を利用する障害のある子ども18人、通園施設を利用する子ども1人という状況になり、通園施設はその役割を終えて閉園したのでした。

地元の保育園に就園すると、友達と一緒に地元の学校へ就学することはごく自然な希望になります。東松山市では、小・中学校へ介助者を派遣し、統合教育を進めてきました。今では、障害のある学齢児の75%が地元の普通学校へ就学しています。隣近所の子どもたちと同じ保育園や学校へ通うことで、障害のある子どもは「交流」や「理解」の対象ではなく、1人の友だちとして受け入れられていくのだと思います。

エリア外観
エリア外観

このように、「共生社会の実現」を考えるとき、生まれた時からその後の成長過程を順番に考えて、すべてのライフステージにおいて地域社会でともに育ち、遊び、学び、働き、生活することを支える支援の仕組みをつくっていくことが重要ではないかと思います。このような視点に立つとき、これまでの障害種別のサービス体系も見直さなくてはならないでしょう。

福祉制度は法体系が障害種別や年齢によって別々にできていることから、制度や施策も障害別、年齢別に作られてきました。通園施設や養護学校も知的障害児と肢体不自由児で分かれていますし、通所施設、入所施設、ホームヘルパーの派遣、相談支援事業、行政の担当係まで、すべてが身体障害者、知的障害者、精神障害者、児童、高齢者というように別々になっています。

しかし、地域社会での生活を支えるサービスということになると、たとえば地元の保育園や学校に、知的障害があっても身体障害があっても、だれもが通えるようになるとか、障害種別に関わらずに、近くにある通所施設に通える、ホームヘルパーの派遣が受けられる、相談支援事業で相談ができる、というように、支援の仕組みを統合して、だれもが身近な場所で利用でき、地域に住む人たちと出会うことができる、ユニバーサルな支援の仕組みを作っていくことが必要になります。

東松山市総合福祉エリアには、総合相談センターが設置され、身体障害、知的障害、精神障害、高齢者の相談支援事業が一体となって、障害種別によらず、だれもが365日・24時間、専門的な相談支援が受けられる体制をとっています。また、訪問サービスセンターでも、介護保険制度、支援費制度、精神障害者居宅介護事業、難病患者居宅生活支援事業、住民参加型在宅福祉サービス(有償ボランティア)を一体として行っており、制度や障害種別に関わらず、365日・24時間の派遣を行っています。また、制度対象外の人にも有償ボランティアの派遣を行っています。

図 組織図 他

ユニバーサルな相談支援の仕組みは、千葉県の中核地域生活支援センター、長野県の障害者総合支援センターなどの都道府県レベルや、新潟県上越市、和歌山県御坊市、橋本市、千葉県浦安市などの市町村レベルでも検討、実施されるようになってきました。

3 「市町村の時代と街づくりとしての福祉」

このように、共生社会の実現やユニバーサルな支援の仕組みづくりを考えるとき、街づくりとしての福祉という視点が重要になると思います。

これまで、障害福祉は社会福祉法人を中心とした福祉団体が、入所施設、通所施設、グループホームなどの事業を展開してサービスを提供してきました。これらは、多くの場合その法人が、自分の施設を利用する人たちを対象にして、展開されてきたと言えると思います。たとえば、通所施設や入所施設の利用者のためにグループホームを作るというような形です。

しかし、平成2年に高齢者と身体障害者の福祉の事務権限が都道府県から市町村に移譲されたのを皮切りに、平成14年度には精神保健福祉、平成15年度には知的障害者福祉の事務権限が都道府県から市町村に移譲され、今では3障害、高齢者の福祉は市町村を主体として実施する時代に入っています。また、平成12年度から開始された介護保険制度、平成14年度の精神障害者居宅介護事業、平成15年度の支援費制度など、サービス提供に関する支給決定や制度の運用、サービスの基盤整備も市町村が行うことになりました。

これからは、市町村が地域生活支援にどのような姿勢で取り組むのかが、その街の障害のある人の生活を大きく左右することになるでしょう。市町村による、街づくりとしての福祉が問われる時代に入ったと言えると思います。

4 地域ごとの実践が現実を変える

このような地域での生活を支える仕組みは、全国一律なものではなく、それぞれの地域の人口規模や予算配分、社会資源や人材の違いなど、地域ごとの現実から出発したさまざまな実践がつくっていくものだと思います。

特定の障害を対象にしながらそれを発展させたもの、これまで対象とされてこなかった分野に取り組んだもの、障害のある当事者自身が事業を展開してきたもの、ユニバーサルな支援を求めてきたものなど、さまざまな実践によって、新しい地域での生活を支える仕組みが展開されています。これらの先駆的な実践も、初めは数人の志しや思いから始まったのだと思います。それが周囲の人の共感を得、行政を動かしてきた結果といえるでしょう。だれにでも今日からできること、それは、自分自身が「地域生活支援」を志し、その実現に向けてあきらめないで取り組みを始めることだと思います。

(そねなおき 東松山市総合福祉エリア施設長)