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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

実践報告

就労支援から暮らしのコーディネートへ

奥西利江

はじめに

上野市(三重県)は、伊賀忍者・芭蕉生誕の地として親しまれる人口6万人の城下町です。

上野ひまわり作業所は、1988年に障害のある人の働く場として生まれました。

活動の中心は授産ですが、生活を支えるサービスが市内では少ないため、必然的に就労支援と生活支援を一体に取り組み、余暇活動も含めて「暮らしをコーディネートしながら支える」という役割を担ってきました。

現在、その活動は知的障害者授産施設3か所とデイサービス・グループホームと広がり、74人の障害のある人たちの暮らしの拠点となっています。

16年間を振り返って思うことは、障害のある人たちが地域で安心して暮らすためには、働く場や活動する場・住まい・生活を支えるしくみ(居宅支援等)・そして信頼できる相談の場が必要不可欠だということ。そして、彼らを理解し、働くことや生活を応援してくれる地域の人たちとのつながりを広げていくことが大切だということです。

施設でなく地域の中で「働く」

授産活動は、施設の中での委託作業が中心ですが、低賃金や受注の不安定さ等の課題や、障害のある人たちだけで、施設という「特別な場所」で「特別なことをしている」という思いを常に感じてきました。

そこで、ここ数年、この町にある普通の工場や商店の中で「働く場所」を探すことを始めました。外勤作業の取り組みを進め、現在十数名のメンバーがスタッフと共に美容品製造工場やネギ収穫を行う農業生産法人等で働いています。

「国民の多くが職業を中心とした社会生活を送っている中で、障害のある人たちもまた職業をもって、社会人として暮らす」という視点を大事にした仕事のあり方を考えたいと思っています。

また、自主事業として、組みひもと製パンに取り組んでいます。

組みひもには、衰退しつつある故郷の地場産業を受け継ぐという思いがあったり、パン作りにも、地域の人たちとの食べ物を通した交流や、パンの焼ける香りが近隣に「居心地のよさ」を運ぶきっかけになってほしいという思いが込もっています。

暮らしを豊かにするためのデイサービスを

年齢や障害がさまざまな人たちが、ひとつの施設を利用するという現状の中で、一人ひとりに合わせた活動を考えると、授産活動だけでは対応できないことが増えています。

そこで、特別に個別対応が必要な人や肥満や成人病対策が必要な人たちのためのデイサービスを始めました。

現在、ダイエットトレーニングを中心に、一定期間音楽や絵画活動を暮らしの中心におきたい人等に合わせた個別活動、また、就労している人や授産施設利用者の休日の余暇支援にも取り組んでいます。

デイサービスといえば、一般には高齢者や障害の重い人たちの活動場所という位置づけやイメージがあるようですが、私は、障害のある人たちの暮らしや心を豊かにするために利用するという視点で、日々の生活の潤いや一人ひとりの生きる力を育む活動になればと思っています。

地域との交流という面では、町の中をジョギングしたり、音楽活動をしているメンバーが子ども会や敬老会等の行事に参加することで、自然に地域の人たちとのふれあいにつながっているようです。

デイサービスの課題については、支援費の自己負担や利用料徴収が原因で「利用したいけれども利用しにくい」という意見があることや、支援費の算定が利用実績に左右されるので安定的な財源が確保できないという運営側の問題があげられます。

グループホームで暮らす

障害のある人が地域の中で暮らし続けるためには「住まい」の確保が最も重要です。

その「住まい」のひとつとして、昨年、バス・トイレ付き15畳の個室と、共同の台所とリビングがある下宿屋型のグループホームを建設しました。

ここ数年、私の自宅を開放した宿泊実習を繰り返す中で、お風呂とトイレの順番待ちがつらかったこと、個室といえどもベッドとテレビしか置けない広さでは「自分の空間」とはとうてい言えないという反省に基づいての建物づくりでした。

現在、住人はご夫婦一組を含む6人、24時間介護の必要なメンバーも暮らしています。スタッフ体制は、日勤の世話人1名と宿直者1名。宿直・休日勤務は25人の法人職員が交代で携わっています。

日々入居者間の人間関係のトラブルや金銭管理等の問題があり、それらの対応をしながら、一人ひとりが住みよいと感じられ、管理的でない支援を行う難しさを痛感しています。

地域との関係については、近隣との「おはよう・こんにちは」の挨拶や会話、町内会や行事の企画準備への参加で、住民として暮らしているという実感があります。

今後のホーム運営の準備として、今春より入居経験のない人たちを対象とした体験入居を始めました。メンバーたちが自分にはどんな暮らしがいいのかを、自分で選べる経験のひとつになればと思っています。

ショートステイ専用の場づくりを

従来の入所施設でのショートステイ利用は、本人が無理に施設生活に合わせなければならない、また他の入居者に気兼ねしなければならない等、結構使い勝手の悪いものです。

以前から、だれにも気兼ねせず、必要な時に安心して利用できるショートステイ専用の場づくりを考えていました。昨年、デイセンターに居室を整備し、計画的な宿泊実習に取り組んでいます。本人の自立へ向けてのステップとなる経験の場にしたいと思っています。

障害のある人と地域の人たちをつなぐ

小規模作業所時代の5回もの移転や施設建設反対の裁判を経験して、地域の多くの人たちが「障害」のことを知らないために抱く不安が、「理解がない」ことにつながるという思いを感じてきました。そのため、バザーやコンサートの開催・アルミ缶回収・地域行事への参加等を積極的に行い、「知ってもらう活動」を展開してきました。

障害のある人たちが自ら街に出て行き、そこで生まれるさまざまな人たちとの出会いや交流は、就労や暮らしの場の基盤となる地域の理解と応援につながり、障害者福祉を「特別な世界」から地域の普通の暮らしに解き放つ一歩になるのだと思います。

おわりに

私は、「福祉」という言葉を「暮らし」という言葉に置き換えて何でも考えなさい、と教えてくれた恩師の言葉を大切にしています。「福祉」といえば、施設や制度というシステム面を思い浮かべますが、「暮らし」というと、人の心やそれぞれの地域の文化、一人の人間の人生や歴史をも含めたものがイメージできるからです。

人の暮らしを支える原点は、やはり人なのだと思います。そんなことを十分に汲んだ取り組みができればと思います。

そして、作業所活動は単なる働く場だけではなく、「一人ひとりの生活スタイルに合わせた支援」「障害のある人と地域をつなぐ活動」という視点を大事にしながら行っていきたいと思っています。

(おくにしとしえ 上野ひまわり作業所施設長)

◆上野ひまわり作業所
TEL 0595―39―1133
FAX 0595―39―1132
http://www.uenohimawari.com