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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

知り隊おしえ隊

レッツ・ゴー! キャンプ

福原雄幸

車いすOKのキャンプ場

5月の晴れた日の早朝、私は車にキャンプ道具一式を積み込み、妻を助手席に乗せてわが家を出発しました。行き先は岩手県陸前高田市にある「陸前高田オートキャンプ場モビリア」です。ここは広田湾の海を臨む小高い森の中に造られた公営オートキャンプ場で、その景観と設備の良さから年に数回訪れています。バリアフリーを意識し“人に優しいキャンプ場”というコンセプトで造られているので、設備全般が車いす使用者の私でも使いやすくなっており、快適にキャンプを楽しめます。さらに(社)日本オート・キャンプ協会が五つ星の最高評価を付けたキャンプ場でもあります。全区画サイトに水道とAC電源、全サニタリー棟には車いす用トイレや車いすで使えるシャワー室をはじめ、炊事台やコインランドリー、自動販売機なども身障者を考慮した設計のものが備え付けてあります。トイレとシャワー室には緊急時の呼出しボタンがあり、万が一1人でいるときに何かあっても安心です。また、テントを張る区画サイト以外にバリアフリー設計の、まるで別荘のような冷暖房完備のケビンがあり、ここ数年は年末年始に利用し、終日海を眺めてのんびりと正月を過ごすのがわが家の恒例行事となっています。

焚き火を囲んで至福の時間

さて、キャンプ場に到着した私たちはセンターハウスでチェックインをし、指定された区画サイトに車を停め、寝室であるテントとリビングスペースの屋根となるタープの設営を開始しました。設営は妻1人では無理ですし、もちろん私1人でもできないことなので2人で行います。テントは女性でも楽に扱える高さの低いものを使っています。景観や美観、風向きを考えての設営は楽しいもので、狙い通りに上手くできたときは思わず笑みがこぼれます。建物ができたら次は家具のレイアウトです。車いすでの動線を考えてテーブルや調理器具をセットし、テント内にコット(キャンプ用簡易ベッド)と寝袋を広げ快適な寝室を作ります。コットは車いすからの乗り移りが容易な高さなので重宝しています。わずか1泊か2泊のキャンプでも、これらの作業には家作りに似た楽しさがありわくわくします。子どもの頃の秘密基地作りやままごと遊びなども同様で、居心地の良い巣を作るという動物の本能のようなものだからこそ真剣にもなるし楽しいのでしょう。

女性でも楽に扱える高さのテントと中の様子
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設営後はコーヒーを煎れてほっと一息…野外で飲むコーヒーのおいしさは格別で「キャンプを始めてよかった」と思う瞬間でもあります。夕方まで散歩や読書など思い思いに過ごし、自然の中に身を委ねてのんびり。夕飯は近くの道の駅で購入した新鮮な魚介の網焼きと山菜のお浸し、豚汁、ご飯、そして地酒です。キャンプだから飯ごう炊飯という決まりはなく、電源があるのですから堂々と(?)電気釜でご飯を炊きます。夜が更けるにつれ増える星の数を数えながらゆっくり食事をし、簡単な片付けを済ました後はキャンプの目的のひとつ“焚き火”の時間です。焚き火台の薪に火を点け、酒とグラスをスタンバイ。私はウィスキー、妻はワインを片手にたわいのない話を眠くなるまで語らい、就寝です。不思議なことに私は自宅よりキャンプをしている時のほうがよく眠れるようです。

翌朝はにぎやかな鳥のさえずりに自然と目覚め、コーヒーを煎れて妻が起きるのを待ちました。朝食をホットサンドで軽く済ませ、片付け開始です。キャンプ道具を車に積み込み、チェックアウトしながらスタッフと少し雑談。このオートキャンプ場の魅力のひとつに支配人を始め若いスタッフの応対が良いことも挙げられます。私たちが初めて利用した時には「もっと快適なキャンプ場にしていきたいので、意見を聞かせてください」と言われました。このようなことを聞いてくれるキャンプ場は少なく、ここがリピーターの利用が多いという話にうなずけます。帰り道は高速道を使わず海沿いのルートです。気仙沼市の魚市場に立ち寄り魚介を買い、ここで昼食も済ませ、心地良い疲労を感じながら帰路に着いたのでした。

オートキャンプは誰もが気軽に楽しめるアウトドア

私は16年前にバイクの事故により脊髄を損傷し下半身にマヒが残ったため、車いすを使用しています。それまでは外で遊ぶことが大好きで、冬はスキー、それ以外の季節はバイクにテントを積んで野宿などを楽しんでいたのですが、事故以来すっかりそんなアウトドアライフを断念していました。ある日、ここ数年で車いすでも利用可能なオートキャンプ場が増えているということを友人から聞き、思い切って野外に戻ってみたのです。調べるとガイドブックやインターネットに「車いす用トイレあり」という情報が記載されていました。バイク時代のような自由はないにしても、新鮮な空気、緑の山々、青空、星空、野外での食事、焚き火を前に好きな酒を飲むことなど、すべてが開放的で心地良く、家と職場を往復している時よりも体調が良いくらいだといつも妻に笑われています。これは自然の力によるヒーリング効果なのでしょう。

また、キャンプをきっかけに交際範囲や行動範囲が広がり、遠いところでは静岡や山梨まで出かけます。最初の頃は不安もあり友人たちと一緒のキャンプが多かったのですが、回数を重ねて自信がつき、妻と2人だけで3泊4日のキャンプ旅行を楽しむまでになりました。思い立ったらすぐに出かけられるのが嬉しく、年間20泊程のキャンプを楽しんでいます。

オートキャンプを楽しみませんか

キャンプをしたことがない方には、街でも不自由な思いをする車いす使用者が野山に出て大丈夫なのかという不安があると思います。でもオートキャンプ場は段差がなく自動車が乗り入れできる造りなのですから、基本的なバリアフリーの条件は備えていると考えられないでしょうか? 通行には支障ないので、利用可能な広さのトイレと各設備に入るために段差がなければ、車いす使用者でもほとんど問題なく利用できると思います。

先に書いた「オートキャンプ場モビリア」は東日本でベスト5に入るくらいのバリアフリー設備が備わっている高規格オートキャンプ場です。ここまでの設備がなくとも車いす用トイレを備えたオートキャンプ場が全国的に増えていますので、自分の身体の状況を考えてキャンプ場を選ぶことができます。費用の件にふれますと、サイト1区画1泊料金全国平均5000円くらいです。身障者割引料金を設定しているキャンプ場もありますので、道具さえ揃えてしまえばかなりお手頃なレジャーだと思います。

実際に身障者がキャンプという場合、大勢のスタッフがお世話をする形の団体福祉キャンプが多いようです。それも楽しいと思いますが、自らが主体となって行う少人数でのキャンプの楽しさは格別なものがあります。さぁ、あなたもオートキャンプを始めてみませんか。

車いすで使いやすい炊事場
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身障者の方がキャンプをする際のアドバイス

○最初は近場で設備の良いオートキャンプ場でピクニック感覚のデイキャンプをして練習してみましょう。そして、慣れない間はトラブルが発生したときにすぐ自宅に戻れる距離のキャンプ場を選ぶこと、遠出する場合は付近の病院を調べておくことも必要です。

○自分が野外で食事や就寝するためには何が絶対に必要かを把握しておくことが大事です。たとえば電動車いすのための電源、安定感のあるテーブル、快適に眠るためのマットやコットなどがあるでしょう。必要な薬品類もお忘れなく。

○キャンプ道具は卓上ガスコンロ、鍋、食器など、普段家庭で使っているものを使用し、キャンプ専用として売られている物は徐々に揃えるのがよいと思います。また、さまざまなレンタル品を用意しているキャンプ場も多いので、最初はテントやテーブルセットなどは借りてもよいでしょう。

○利用する前に必ずバリアフリー設備について問い合わせする必要があります。車いす用トイレが夜は閉鎖される管理棟にしかないなどという場合もあります。また、予約の際に「車いすでも使いやすい区画サイトをお願いします」と伝えておけば、より安心でしょう。

(ふくはらゆうこう 社団法人日本オート・キャンプ協会公認オートキャンプ指導者)

◆陸前高田オートキャンプ場モビリア
 TEL 0192―57―1020
 FAX 0192―56―4550

◆(社)日本オート・キャンプ協会
 TEL 03―3357―2851
 FAX 03―3357―2850