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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年7月号

会議

WBUアジア太平洋地域マッサージ・セミナー開催

指田忠司

WBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)は、5月3日から6日まで、香港で第7回マッサージ・セミナーを開いた。このセミナーは、1991年に中国の西安で開かれた後ほぼ2年おきに開かれてきたが、昨年のサーズ騒動で今年5月に延期されていた。今回はオーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、香港、マカオ、マレーシア、韓国、日本、台湾、タイの11の国と地域から約190人が参加した。日本からは、WBUへの窓口となっている社会福祉法人日本盲人福祉委員会(笹川吉彦理事長)が代表団を組織し、研究発表者5人のほか、盲学校関係者、鍼灸院開業者など総勢27人が参加した。

筆者は、日本盲人会連合国際委員会の立場でこの参加準備に関わると同時に、研究発表を行うため、今回初めて参加する機会を得た。以下、セミナーの概要と各国の視覚障害マッサージ師の状況について報告する。

◆プログラムの概要

セミナーのメイン・テーマは「マッサージ―その学際的アプローチ」というものだったが、それを反映してか、研究発表が28件あり、臨床研究や事例報告の多い学術的なセミナーであった。特に目立ったのは中国からの参加者が多かったことで、参加登録者の過半数が香港、台湾を除く中国国内からの参加者であった。しかも以前は中国からの発表者の多くが晴眼者だったのが、今回は視覚障害者自身の発表が多かったことが大きな特徴である。

プログラムに沿っておよその日程を紹介すると、1日目は午前に開会式とカントリー・レポート、午後には中国、日本、韓国、タイのマッサージ実技の講習が行われた。2日目は午前から昼にかけて全体会が二つ開かれ、研究発表が11件、午後には、中国、日本、タイ、オーストラリアの代表による実技講習が行われた。そして3日目は、午前から午後にかけて全体会が三つ開かれ、計17件の発表があり、その後に閉会式が行われた。また4日目には、今回のセミナーのホスト役を務めた香港盲人輔導会の施設見学会が行われ、100人以上が、同会のマッサージ・センターとアイ・センター(視覚障害リハビリテーション施設)の見学に参加した。

◆各国の視覚障害マッサージ師の状況

1日目の午前、開会式に引き続いて行われたカントリー・レポートでは、各国の視覚障害マッサージ師の状況が報告された。以下、その概要を紹介する。

●中国(中国盲人協会、李志軍会長)

過去10年余の間に、視覚障害マッサージ師が急激に増加しており、第1回のセミナーが開かれた1991年には、中国の視覚障害按摩師人口は1万人だったが、最新の報告では、その数は5万人に達している。また中国では、大学など6か所の養成機関で、按摩教育課程に外国人を積極的に受け入れていく計画が進められており、すでに二つの大学ではアジア太平洋地域各国からの学生受け入れの準備を整えている。

●香港(香港盲人輔導会、フレッド・ロンリハビリテーション部長)

香港では、1960年代にマッサージ訓練が行われた時期があったが、その後の経済状況の変化に伴い、視覚障害者の職業訓練の主流が電話交換業務やコンピュータ・プログラミングなど事務系職種に移ったため、目覚ましい発展はみられなかった。しかし、1990年代に入ってから、マッサージが見直され、最近では訓練課程も整備されてきており、輔導会でもマッサージ・センターの設置、移動マッサージ(専用バンによる移動のもとに、出張するサービス)なども開始している。問題は、規制緩和制作により、マッサージ業が一定の資格なしに行えるようになったことで、視覚障害マッサージ師の生活にも影響を与えかねないことである。

●韓国(韓国盲人協会、チェ・ドンイク事務局長)

韓国では、マッサージ業は視覚障害者の専業となっており、現在約5千人がこの仕事に従事している。毎年12の盲学校と中途視覚障害者訓練施設から約350人の新規参入があるが、全体としては、漸減傾向にある。マッサージ師の多くは全国に500あるマッサージ・センターで働いており、月収1250~1660米ドルの所得がある。協会では、自治体などの経営する健康センターなどでの就労の可能性が高まってきているとみており、今後はこの方面での職場開拓が課題である。

●タイ(タイ視覚障害者雇用促進財団、ペチャラート・テチャワチャラ理事長)

タイでは伝統的なマッサージが普及しているが、視覚障害者の有力な職業として本格的に訓練に取り組むようになったのは1990年代に入ってからである。財団では、バンコクにマッサージの訓練施設を開設し、1年間の訓練を行っている。また、タイ視覚障害者協会では、農村部の視覚障害者のために、巡回講習を年数回実施しており、多数の視覚障害者が修了している。今後は、こうした視覚障害者の働く場をいかに確保していくかが大きな課題である。

●日本(日本盲人会連合、笹川吉彦会長)

JICA(独立行政法人国際協力機構)が昨年度から開始した「アジア太平洋視覚障害者自立支援事業」(沖縄プロジェクト)は、マッサージ業における職業的自立の伝統のある日本の視覚障害者が、アジア太平洋地域の視覚障害者の職業的自立に具体的に貢献できるプロジェクトであり、その意義は大きい。日本の視覚障害マッサージ師が直面する課題も多数あるが、なかでも、特別養護老人ホームなどにおける機能訓練指導員として、視覚障害マッサージ師の雇用拡大を図ること、無資格業者が横行するなか、その取り締まりが極めて重要になってきていること、などが大きな課題である。

◆今後の展望

セミナー2日目の午後には、WBUAPマッサージ委員会の理事会が開かれ、役員改選とともに、今後4年間の活動目標が話し合われた。役員選挙では、1期目に続いて香港盲人輔導会常務理事のグレース・チャン氏が委員長に、笹川吉彦氏が副委員長に、そして中国から滕偉民氏の後任として、李志軍氏が副委員長に選出された。

今後の活動目標としてチャン氏が掲げたのは、1.会員拡大、2.ニュースレターの定期発行、3.養成カリキュラムの標準化などである。いずれも事務局体制の充実がその成否を決することになるが、今回新たに事務局長に選任されたフレッド・ロン氏の手腕と、各国関係者の連携に期待したい。

なお、次回のセミナーについては、今年10月までに、各国から立候補を募ったうえで決定するという。

(さしだちゅうじ 日本盲人会連合国際委員会)