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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号

統合論をどう考えるか

慎重に検討すべき統合論議

全国市長会

両施策の統合に関するアンケート調査

厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会において介護保険法附則第2条の規定に基づく制度見直しの議論が行われていることから、本会では「介護保険制度の基本的見直しに関する調査」を実施した。本年2月27日から3月19日にかけて、全市長(特別区区長を含む)を対象としたもので、介護保険制度と障害者施策との統合の是非についても調査した(有効回答市は628市、有効回答率は89.2%)。

アンケート結果の内容は、「介護保険制度の平成17年改正に向けて結論を急がず、もう少し時間をかけて慎重に議論するべきである」という意見が339市(有効回答の54.0%)で最も多く、次いで、「障害者サービスとの統合をセットで考えるべきではない」という意見が141市(同22.5%)であった。「慎重に議論するべき」、「障害者サービスとの統合をセットで考えるべきではない」という意見が全体の76.5%を占めている。一方、「障害者サービスとの統合をセットで考えるべきである」という意見が125市(同19.9%)、「特定の障害者(身体、知的、精神のいずれか)に対するサービスについて保険給付の対象とすべきである」という意見が20市(同3.2%)であった。

また、「もう少し時間をかけて慎重に議論するべきである」という意見の理由としては、1.支援費制度が始まって間もないので、その動向を見極める必要があるから、2.社会参加を前提とする障害者サービスと、現行の介護保険制度とでは目的が異なるから、3.障害者団体等、関係者のコンセンサスが現時点では十分得られていないから、4.障害者に対するサービス基盤の整備には、さらに時間を要するから、5.介護保険制度が始まって間もないので、もう少し実態を見極める必要があるから、などが挙げられた。「障害者サービスとの統合をセットで考えるべきではない」という意見の理由としては、1.社会参加を前提とする障害者サービスと現行の介護保険制度とでは目的が異なるから、2.障害者施策は公費で賄うべきで、社会保険制度になじまないから、3.障害者の所得保障が十分でない中、保険料及び利用者負担に課題が生じるから、などが挙げられた。

一方、「障害者サービスとの統合をセットで考えるべきである」という意見の理由としては、1.地域福祉の観点から介護保険と障害者施策をトータル的に考える必要があるから、2.障害者に対するサービス基盤を整備する必要があるから、3.市全体における財政面を考えた場合、支援費制度及び精神障害者サービスと介護保険とを統合したほうがよいから、などが挙げられた。また、特定の障害者(身体、知的、精神)に対するサービスのうち、どのサービスを保険給付の対象とすべきであるかという設問については、身体障害者に対するサービスが一番多く挙げられ、次に知的障害者、精神障害者の順となっている。

統合をめぐる本会の動き

このアンケート結果を踏まえ、本会の介護保険対策特別委員会で議論を行った結果、国に対し介護保険制度と障害者施策との統合については、慎重に検討することを要請していくこととした。

4月13日の理事会において「介護保険制度の基本的見直しに関する意見」を決定し、直ちに関係方面に提出したところである。また、6月4日の社会保障審議会障害者部会において松浦坂出市長(社会文教委員長)がヒアリングを受け、同趣旨の意見陳述を行った。さらに、国において介護保険と障害者施策との統合を前提とした動きがあることから、6月18日、山出本会会長と山本全国町村会会長が厚生労働省の幹部に面会し、「介護保険と障害者施策の統合に関する緊急申入れ」を提出のうえ、両施策の統合に向けた国の一方的な動きに反対する趣旨で、強く要請を行った。

障害者施策についても、その充実を図るよう、国に対し要望しているところであり、本年7月7日には、平成17年度予算において支援費等の所要額が確保されるよう、役員市長が実行運動を行ったところである。

当面の方向

現在、国の社会保障審議会介護保険部会では、介護保険制度の改正に向け、保険者のあり方、被保険者の範囲等について審議が進められている一方で、障害者部会においては、障害者福祉施策のあり方の中で介護保険との統合についても審議されている。

障害者施策の充実を図ることはもとより重要であるが、両施策の統合問題については、1.給付と負担の関係において、障害者施策は必ずしも社会保険に馴染まないこと、2.介護保険は施行後4年が経過したところであるが、介護サービスの急増や財政基盤など多くの課題を抱えていること、3.支援費制度はわずか1年しか経過していないこと、などから多くの市長が「慎重を期すべき」もしくは「反対」との意向を示している。

現行の障害者施策には、介護保険のようなケアマネジメントの仕組みが無い。統合の是非を論ずる前に、まず、障害者の生活を支え、自立と社会参加を進める観点等から、総合的なケアマネジメントの制度化を図ることが喫緊の課題であると考える。

(指出一吉(さしでかずよし) 全国市長会社会文教部主事)