「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2004年8月号
ワールドナウ
RI第20回世界会議(オスロ)参加報告
寺島彰
RI(リハビリテーション・インターナショナル)は、1922年以来の歴史があるリハビリテーション専門家を中心とした世界的な組織で、研究や実践の情報や経験を交換することで、障害者の権利を守り、リハビリテーションと関連するサービスの発展のために国際的な協力を進めることを目的としています。80か国以上が加盟しており、事務局はニューヨークにあります。4年に1回世界会議が開催されています。また、各地域の会議が開催されており、アジアでは、4年に1回世界会議の翌々年に開催されています。これらの会議には、受け入れ国がさまざまな趣向を凝らして参加者を歓迎します。日本でも1988年に第16回世界会議を開催しています。
今年は、6月21日から6月25日まで、ノルウェーのオスロで第20回世界会議が開催されました。テーマは「リハビリテーションの再考(rethinking rehabilitation)」です。リハビリテーションにおける多様性と尊厳について考えるという意味を込めています。世界75か国から1050人の参加がありました。会場は、オスロ中央駅から鉄道で12分程のところにあるノルウェー・コングレス・センターで、会議参加者は、参加バッジを見せればオスロから無料で列車に乗車することができるようになっていました。
ちなみに、オスロの人口は60万人、ノルウェーの人口は4500万人で、ノルウェーには、約100の障害者団体があり、30万人の会員がいるそうです。これらの障害者団体に対しては、政府からの援助が行われています。北海石油があるため、ノルウェーは、経済的に豊かで、人口一人当たりのGDPは世界一で、他の北欧諸国が福祉国家の維持に苦労したり、政策の変更をしているのとは異なり、ゆとりがあるようです。
会議は、障害者に関連する世界のさまざまな状況についての報告や議論を行う全体会と、専門領域に分かれて議論する分科会とで構成されていました。また、会議の随所には、民族音楽や障害者芸術発表などのイベントがちりばめられていました。
表1に今回の世界会議のプログラムを掲げます。すべてのプログラムを紹介したいところですが、紙面の都合で、筆者の印象に残ったプログラムについて少し紹介します。
第1日目の全体会でのトム・シェイクスピアOutreach for the Policy, Ethics and Life Sciences 研究所所長による「治療か順応か? 障害、多様性、生物医学の将来」という発表は、なかなか、聞き応えのあるものでした。トムは、英国の障害学研究者で、その道ではかなり有名な人です。障害の社会モデルに関する著作が多いですが、今回の発表のテーマは、最近の遺伝子治療について社会的および倫理的に考察するというものでした。自身が障害者であるという立場で遺伝子治療をどのようにとらえればよいかについて彼の意見を述べていました。結論としては、安易に遺伝子治療を受け入れるのではなく、多様な選択があるべきであり、そのための十分な情報提供が必要であるというものでした。
同日の午後の分科会について、筆者は、国際障害年金調査プロジェクト(Learning from others project: Temporary partial disability benefits)に参加しました。この調査は、米国連邦政府がスポンサーとなって世界8か国の障害年金制度を調査するというもので、RIの組織を活用して、ノルウェー、イギリス、ドイツ、南アフリカ、オランダ、オーストラリア、スウェーデン、日本から研究者が集められました。今回は、スウェーデン、ノルウェー、日本から報告があり、日本の制度については、筆者が報告しました。スウェーデンからの報告に障害者参加手当(participation benefit)という面白い内容がありました。この手当は、重度障害者の参加に対して手当を支払うというもので、これまでの障害者手当が、機能障害や能力低下に対して支払われていたのに対して、より前向きの手当として、映画を見に行くとか、旅行に行くとか、重度の障害者が自宅に閉じこもっているのではなく、より活動的に生活したことに対して手当を支払うという制度です。活動を貯金するというような感覚のようです。詳細は、よくわかりませんが、今後、このプロジェクトの報告書がインターネット上に掲載される予定ですので注目してください。
第2日目のフローレンス・ナイガ・セカビラ(ウガンダ高齢者障害者省大臣)による「障害者の政治参加に関する割当制度の効果」は、非常に面白い内容でした。ウガンダは、地方分権がすすんでおり、自治権の強い56の行政地区で構成されています。行政地区は5階層からなり、各層で障害者の行政への参加が義務とされています。具体的には、議員ポストの一定の割合を一定期間、障害者、若者、女性、労働者のために用意しなければならないというもので、ウガンダのすべての行政階層に5万6000人の障害者の議員がいるそうです。このような議員割当制度の結果、公的な機関には少なくとも1名以上の障害者を雇用すること、国立図書館に点字図書を用意すること、障害者全国評議会が設立されたこと、若年障害者のための資金貸付制度ができたこと、特殊教育教員が養成されたことなどの成果があったということでした。
全体を振り返ってみた印象としては、なぜリハビリテーションの再考をテーマとして取り上げたのかということについて理解が十分ではなく、いろいろなとらえ方でリハビリテーションをとらえられており、そのために、プログラムの一貫性に欠けていた感があります。専門家、障害当事者、一般市民がせっかく集まっているので、リハビリテーションとは何かということを議論する場があってもよかったかなという印象でした。この背景には、ノルウェーではリハビリテーションを再考するというニーズがないのではないかと思われました。
それぞれの講演や分科会の発表などは、RIノルウェーのホームページ(http://www.ri-norway.no/)に掲載される予定になっていますので、興味のある方はご覧ください。
来年は、バーレーンでアラブ地域会議が開催されます。また、再来年には、バンコクでアジア地域会議が開催されます。いろいろな国からいろいろな領域のリハビリテーション関係者が集まって発表したり議論したりします。来年に向けて英語の能力を鍛えて参加してみませんか。日本障害者リハビリテーション協会(国際課)がRIの日本の窓口になっていますのでお問い合わせください。
(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部)
6月21日(月)
6月22日(火)テーマ「現実と障壁」
6月23日(水)「可能性と戦略」
12:30-17:30 施設訪問 6月24日(木) テーマ「戦略と今後の活動」
|