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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

1000字提言

水害と障害児家庭

三木裕和

私の勤務する兵庫県立出石養護学校は、昨年10月20日、台風23号の水害に見舞われ、子どもたち、教職員の一部に床上浸水など、深刻な被害が出ました。

「夜中の12時半頃、家の中に水が入り始めました。避難指示が出ていたので、避難所に逃げようかと思いましたが、避難した先でS君がパニックになれば迷惑になると思い、家にいました」

学校が行った被災状況調査に寄せた、自閉症児を持つ保護者の声です。

「水が引くまで食料がどのぐらい持つのか。S君は特にパンが好きなので、おにぎりなどは食べられません。いつもより少ないパンを見て怒り、パニックになりました。スティック菓子を食べさせながら、電気も点かない中、2日間を過ごしました」

被災した家庭への救援活動は水害の直後から取り組まれ、私たち教職員も微力を尽くしましたが、こうやって調査結果を読み直してみると、救援の手が入るまでに、胸の痛むような状況が進行していたのがよく分かります。

S君は私の教え子です。笑顔の可愛い5年生の男の子です。彼は新しい人や場所に不安を感じやすく、許容量を超えると大きな声が出ます。この子を連れて避難所に出かけることをためらわれたお母さん。食べ物が少なくなり、つい怒ってしまったS君。彼らの心中を察し、言葉を失いました。

S君の家庭だけでなく、今回の水害では、多くの障害児者家庭が特別の困難を経験しました。障害を有するが故に、簡単に避難できない。命の危険がすぐそこに迫っているのに、自宅でじっと朝を待つ。もっとも先に避難すべき人たちが、実は後回しになっています。しかし、よく考えると、こういった問題は、普段の生活でもすでに現れています。自閉症の子どもは大きな声を出すので、病院に連れて行きにくい。重症児は医療的ケアがあるので、行動範囲が限られる…。毎日の生活で、この人たちのニーズが尊重され、市民的自由が実質的に保障されているかどうか。

被災時の障害児者の命を守るためには、普段の生活を向上させることが大切です。日常の生活で、障害児者の人権が保障されていることこそが、被災時に大きな力を発揮するものだと、私はしみじみ感じています。

(みきひろかず 兵庫県立出石養護学校教諭)