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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年1月号

わがまちの障害者計画 群馬県太田市

太田市長 清水聖義(しみずまさよし)氏に聞く
障害のある市民もない市民も生きがいをもって暮らせるまちづくり

聞き手:戸枝陽基(とえだひろもと)
(NPO法人ふわり理事長)


群馬県太田市基礎データ

◆面積:97.96平方キロメートル
◆人口:152,574人(平成16年11月1日現在)
◆障害者の状況(平成16年3月31日現在)
身体障害者手帳保有者 3,800人
(知的障害)療育手帳保有者 655人
精神障害者保健福祉手帳保有者 355人
◆太田市の概況:
関東平野の北西、群馬県南東部の工業都市。江戸時代は宿場町・在郷町として栄えた。大正期に設立された中島飛行場により軍需産業都市として発展。現在も、自動車・電機・機械メーカーの製造拠点が立地。太田駅周辺を中心にした区画整理や再開発などを推進し、都市基盤の整備を進める。特産は、輸送・電機製品やニット製品など。
◆問い合わせ:
太田市健康福祉部社会福祉課
〒373-8718 太田市浜町2-35
TEL 0276-47-1828 FAX 0276-47-1878

▼太田市は、市政を経営学的視点から実践されている清水市長の下、障害保健福祉に関してとてもユニークで、先進的な取り組みをされています。市長は、どのような基本理念で、障害のある人たちの地域生活支援を進めようと考えておられますか?

私個人としては、太田の障害保健福祉を取り立てて、ユニークとか、先進的とか、という視点で考えてはいません。障害者に、障害があっても太田市民である以上、他の市民と同様に、生きがいを持って生活をしてもらいたいと考えて、行政として必要な、当たり前の支援をしているだけです。

あえて、大切にしていることというと、障害者が生きがいを持って生きるとした時に、何もかもを支援するのではなくて、その人なりに精一杯、自立に向けて自分の持っている力を生かして頑張っていただいて、そのうえで、何ともならない部分を支えるというのが、行政としては、大切だと思っています。「保護から自立支援へ」ということですね。

▼「保護から自立支援へ」という基本理念が、太田市が力を入れている障害者の就労機会の積極的な創出に繋がっているということでしょうか?

平成16年4月から「エコネット・おおた」という缶のリサイクルをする知的障害者福祉工場を民間の社会福祉法人に運営をお願いして作りました。これなどは、障害者が障害があっても誇りを持って、社会人として働く場をと思って、行政としても力を入れて作ったものです。太田市の花壇に植える花を作る作業所なども、福祉工場とともに、障害のある人がその人なりの自立をめざす場所ということで、しっかり働いていただこうと作りました。障害者も働いて自分でお金を稼いで、そのお金でやりたいことをするということは、何にも換えがたい喜びだと思います。

▼市役所のすぐ前にあるスワンベーカリーも同様の考えでお作りになったのですか?

そうですね。スワンベーカリーは、ヤマト福祉財団の小倉昌男さん(現理事長)にお会いして、小倉さんの考え方に共鳴をして、ぜひ太田市にもスワンベーカリーを作りたいと考え、平成14年4月にオープンしました。

スワンベーカリーで働いている人たちも、とても頑張っていて、月々の給料は4、5万位は貰っているようです。私は、障害者の皆さんの声を直接聞く機会などを持ったりするのですが、そういった会を通じて、スワンベーカリーで働く知的障害の人たちもすっかり私を覚えてくれて、顔を見るといろいろ話しかけてくれます。そういった時に、彼らが、給料であんなことをしたい、こんなことをしたいとうれしそうに話してくれるんです。そんな時に、やはり障害があっても、働くということが自信や生きがいになるのだと実感するのですよ。

▼太田市は、全国的になかなか進まない精神障害者の地域生活という部分でも、とても進んでいると思うのですが、現状をお聞かせください。

太田市では、精神障害者の地域生活支援に熱心な医療法人を中心にしながら、地域の中に、作業所やグループホームを展開しています。グループホームは、13か所になりました。精神障害者の方の地域生活は、世間で言われているほど、トラブルなどは起こらないもので、実際まったくといっていいほど、トラブルはないですね。

市役所に市民の方から問い合わせがあるとしたら、どこかで精神障害者の方が事件を起こして、それをテレビで見て、「うちの側にも精神障害者が住んでいるが大丈夫か?」などと心配になって電話をしてくることがあるくらいです。そういう時は、行政としても、その方の家にうかがって、精神障害者に対する理解を深めていただくように粘り強く説明をします。

▼精神障害者の起こした事件などへのマスメディアの報道姿勢について、清水市長は、どのようになお考えをお持ちでしょうか?

少し、ワイドショー的というのか、過剰反応だと思います。精神障害者の本当の状態を理解してもらえないというか、誤解を生みかねない報道の仕方で、疑問を感じます。精神障害者がどのような人たちで、どのように付き合えば共生できるのか、そういった視点での説明もマスメディアが市民にしっかりしてくれるとよいと思います。

▼太田市やその近郊の自治体は、外国人労働者が多く居住しています。外国人労働者の方への福祉など、新たな福祉課題への対応は、どのようにしておられますか?

太田市は、外国人労働者に限ったことではありませんが、子どもの教育には、とても力を入れています。それは、子どもというのは、次世代を担う大切な社会の共有財産だと思うからです。太田市として、市の単独予算で、ポルトガル語のできるバイリンガルの人を6人採用して、学校に配置しました。外国人の子どもでも大切な市民です。しっかり教育を受けて、将来、しっかり社会貢献をしてほしいと願っています。

今、地方自治体は、本当に財政的に大変です。それでも、経営的な視点を市政に取り入れ、努力して財源を作り出し、必要な福祉はきちんと行っていきたいと思っています。

▼地方自治体の財政がとても大変だというお話ですが、今、福祉分野においても、三位一体の改革や、地方分権の流れの中で、より地方自治体の主体性が求められてきています。そういった点について、清水市長のお考えをお聞かせください。

太田市が障害者にとって住みやすい街だということで、障害者が普通の自治体より高い割合で住み始めています。そういう評価を障害者の方にしていただいていることは、とてもうれしいのですが、そのために、障害者の支援をする財源を太田市が多大に負担するということになると、障害者福祉を充実させることについて、今後、市民の理解が得にくくなってくるかもしれないという心配はあります。障害者を支援する財源は、国や出身自治体が拠出する形で、きちんと障害当事者に保障されていて、障害者福祉を一生懸命やっている自治体は、障害者を他地域から受け入れると、そのお金が流れるという形で、地域が豊かになるという仕組みでないと、障害者福祉を一生懸命やる自治体が行き詰るということになってしまいます。そういう意味では、何でも地方自治体任せでなくて、国の果たすべき役割はきちんと果たしてもらう必要があると思います。障害者福祉の地域間格差の是正などは、その最たるものではないでしょうか。

▼最後に太田市の障害保健福祉施策について、今後の課題や展望など、お聞かせください。

太田市としては、社会福祉課のほかに福祉事業課という部署を置いています。福祉事業課では、今まで行政サービスで行ってきた事業を発展的に整理し、福祉的就労の場に切り換えて行ったりしています。今後もさまざまな分野で検討をし、市政の効率化と障害者の自立支援の充実を図っていきたいと思っています。

また、平成17年3月28日に太田市と周辺3町が合併することになっています。合併しても各自治体の構想を大切に伸ばしていき、施策をより充実させていきたいと考えています。

▼本日は、ありがとうございました。実は、私は、太田市の出身なのですが、出身自治体の障害福祉が充実していることを、障害保健福祉に携わるものとして、とても誇りに思いました。今後も、障害保健福祉へのさらなる支援をよろしくお願いします。


〔基本的目標〕から

重点施策

重点施策1 在宅で自立をめざせるサービスの拡充
1:ホームヘルプサービス事業の実施
2:ショートステイ事業の実施
3:日常生活用具の給付
重点施策2 権利擁護事業の充実とケアマネジメント体制の確立
1:権利擁護事業・成年後見人制度の利用しやすい体制づくり
2:第三者機関による各種サービスの評価
重点施策3 地域での教育および療育体制の充実
1:療育体制の充実
2:障害を持つ乳幼児・児童等への福祉サービス
3:教育・療育内容の充実
4:あそびを中心とした集団指導の開催
5:専門的療養指導の実施
6:訪問指導の充実
7:専門的技術支援の充実
重点施策4 連携した相談体制の確立
1:身体・知的・精神障害を持つ人への総合相談
2:専任の相談員の確保
3:ケアマネジメント手法を用いた相談体制の実施
重点施策5 「ひとにやさしい」まちづくりの促進
1:「ひとにやさしい」まちづくり活動の実施
2:生活環境基盤整備の実施

(「第二次太田市障害者福祉計画」〈ダイジェスト版〉より抜粋)