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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年5月号

1000字提言

卒業生の姿から

三木裕和

前回、兵庫県北部の水害についてご報告しました。今回は、その後日談です。

台風23号の被害が生々しく残る昨年10月末、本校の職員室に明るい話題が持ち込まれました。卒業生のM子さんが、水害ボランティアに参加していたというのです。元担任のI先生がうれしそうに話していました。

M子さんは軽度の知的障害ですが、卒業後に勤めた食堂の仕事は長続きしませんでした。人間関係をつくるのが苦手で、作業所での仕事を自ら選びました。どことはなしに自信がなさそうな子です。そんな彼女が、ボランティアをしたというのです。

年末に学校を訪れたM子さんをつかまえて、早速インタビューをしてみました。

M子「こんちわー」
私「M子さん、ボランティアしてたんやってな。なんで?」「エヘ、なんでやろ。分からへん。面白かったで。エッ、でも、なんで知ってるん? I先生が言うたんかなあ」「どこに行ってたん?」「豊岡のJビルの広場にテントがあってな、そこの駐車場の整理」「うまくできた?」「うまくできた。友達もできた」(ここでM子は、小学部のAちゃんと遊び始めたので、お芋を差し出して、インタビューを続けさせる。)
私「どうして、ボランティアのこと、知ったん?」
M子「NHK神戸発の番組で、電話番号が書いてあったから、電話して」「なんで、行こうと思ったん?」「Gさん(養護学校の同級生)の家があるやんか、大変やろうなと思って。行けたらいいな、と思って。で、行ったらGさんの家じゃなくて、駐車場してください、と言われて、3日間した」「えらかったなあ」「いや別に、えらいとは思わん」「先生は、この話を原稿に書いて、全国の人に読んでもらうぞ。なんか言いたいことあるか」「なーい」

この後、彼女は「好きな人がいる」と語り出しました。スーパーの店員さんだそうで、彼女はその人にぶつかってしまって、運んでおられたものを倒してしまったそうです。「すみません」と謝るM子に「いいよ」と彼は答えました。「その笑顔が、さわやかやった」

養護学校の卒業生は、心配をかけるばかりの存在ではありません。たとえ進路に失敗したかに見えても、青年としての正義感を持ち、社会の役に立とうとしています。恋もし、恥ずかしくて真っ赤になったりもします。私たちの教え子はなかなかのもんだぞ、と思うのです。

(みきひろかず 兵庫県立出石養護学校教諭)