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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年5月号

わがまちの障害者計画 栃木県栃木市

栃木市長 日向野義幸(ひがのよしゆき)氏に聞く
いつまでもこの街でくらしたい! 人を中心に~生涯を通じて支えあえるまちづくり~

聞き手:河村(かわむら)ちひろ
(新潟青陵大学助教授、本誌編集同人)


栃木県栃木市基礎データ

◆面積:122.06平方キロメートル
◆人口:83,880人(平成16年3月31日現在)
◆障がい者の状況(平成15年度末)
身体障がい者手帳所持者:3,251人
(知的障がい)療育手帳所持者:419人
精神障がい者保健福祉手帳所持者:142人
◆栃木市の概況:
栃木県栃木市は、県の南部に位置し、主な都市機能が集積したまちです。まちの中心部を囲むように、JR両毛線・東武日光線・東北自動車道が走り、北関東有数の交通結節点となっています。「蔵の街」として全国的に名高く、山本有三をはじめとした文化人も多数輩出しており、歴史と伝統文化を誇る都市として発展を続けています。また、太平山などの豊かな自然は、貴重な観光資源ともなっています。
◆問い合わせ:
栃木市保健福祉部福祉政策課
〒328-8686 栃木県栃木市入舟町7-26
TEL 0282-21-2501 FAX 0282-21-2505

▼市長は「地域の主役は住民一人ひとり」として、人優先の施策を展開しておられます。障がいのある人たちの地域生活支援については、どのように進めようと考えておられますか。

貴誌の名前のノーマライゼーション、あるいはソーシャルインクルージョンはすべての人たちが同じ空間、同じ場所を共有しながら普通の暮らしの幸せを実感できるようにという意味でしょう。これが市民一人ひとりの理想や理念になってくれたらなあ、と思うのです。これまでの行政がどうしても制度優先、機関優先、という状況があったことは否めません。そこから縦割り行政も生まれており、本当は横につながったほうがサービスを受ける側にとって(市民にとって)は良いにもかかわらずこちらの都合で縦割りになったり、サービス提供が断続的になってしまったりしていたのだと思います。我が市はあくまでも人=市民を中心にした制度改革や仕組みづくりを考えており、その中で障がい者の生活支援についても当然、同様に進めていこうとしています。それぞれのライフステージや障がい特性、その人を中心に考えた仕組みづくりに総合的に取り組んでいるところです。

▼取り組みの具体的な形の一つとして、空き店舗を活用した新庁舎に福祉総合窓口という形の部門を開設されました。窓口の一本化に対する市民のみなさんの反応はいかがですか。

昨年から新しい福祉庁舎で、窓口を一本化した福祉相談体制の確立をしてきました。窓口の一つとして使っていた古い庁舎は大正時代に建てられた建物でして、築80年以上、段差はあるし、カウンターの高さも非常に高く、使い勝手の悪い建物でした。また、建物だけでなく、それまで福祉相談窓口は市庁舎のあちこちに分散し、児童・介護保険・高齢・障がいと四つの課に分かれていまして、縦割りを絵に書いたような庁舎だったんですね。ただ、今こういうふうな財政状況ですから、新しい庁舎を建てようと言っても、なかなかその財源の確保ができない。たまたま市役所の隣の店舗が移転することになり、それを譲り受けました。また、「まず人ありき」を市政の旨とするならば、窓口がいくつもあること自体がおかしい。だれが行ってもそこの窓口に行けば解決に結びつく、そういった拠点的な存在にしましょうということで、システム変革の検討に入りました。

店舗は元スーパーマーケットでしたので、オープンスペースのワンフロアで、バリアフリーにも非常に適していました。昨年4月1日から福祉庁舎としてオープンをし、全国でも初めて空き店舗を改装した庁舎として脚光を浴びました。

四つあった窓口を総合窓口として一元化をし、相談に来た方が庁舎のあちこちをまわる、ということがないようにしました。ワンストップサービスといいましょうか、一つの窓口で、相談・申請・審査・決定・サービスの提供と、一連の対応ができる仕組みにしたということで、市民のみなさんからは利便性が向上した、あるいは、明るい福祉庁舎になった、どこに座っても職員の方々が明るく声を掛けてくれて非常に感じがいいと、アンケートでは約80%以上の方から好評をいただいております。

ただ、市は市民の側を向いた組織づくりをしたのですが、国・県の制度はやはり縦割りなので、県との調整などの点で課題が残っていますが、全国に向けて、地方の福祉モデルはこうでなければならないといったことを栃木市から発信をしたいという思いでおります。

▼今伺った組織変革はこの4月にスタートした「福祉トータルサポートセンター」につながっていくそうですね。障がいのある人たちを含め、乳幼児期から高齢期まで、生涯を通しての生活相談・支援体制を一本化するということですが、それを構想された経緯などをお聞かせください。

「福祉トータルサポートセンター」は、胎児・乳幼児期から高齢期まで、その人の生涯を通して課題の解決に向けた支援の窓口としての位置づけですから、栃木市民全員が対象となりますが、当面は障がい児とその家族に重点的に対応できる仕組みを目指します。

サポートセンターの構想自体は市長になる以前、私の市議会議員時代から温めてきたものです。乳幼児期から高齢期まで生涯を通した支援をコーディネートしていく、というのは、これは本来あるべき姿だろうと思っていますが、私がそのように考えるきっかけは自閉症または発達障がいの子どもたちと親の会の皆さんとの関わりでした。その当時の勉強会で、自閉症の子どもたちについて我が国の福祉支援の中では十分取り組まれていないこと、一方ではアメリカ・ノースカロライナ州のTEACCHの考え方の中に、それぞれのライフステージで個別支援計画のプログラムがいろいろな人や機関が関わって作られる、ということを知りました。これが本来の福祉の姿なのだろう、つまり、制度や仕組みや機関に人を合わせるのではなくて、その人に対して今何が必要か、将来に向けてはどう支えていくかを考える、という視点が日本の福祉行政には欠けていると思ったのです。障がい児を育てる親御さんの不安を解消する、といったことも含めての家族サポートを考えるのが福祉の本来のあり方だろうと思いました。

福祉は行政だけではできません。行政はコーディネーターの役割をしっかり果たし、医療機関、教育機関を初めとして地域のさまざまな人々と連携を取りながら、しっかりと個人個人の支援計画を作っていく、コーディネートしていく、それが必要だろうということで、これがこの4月1日にスタートした「福祉トータルサポートセンター」の考え方です。

▼併せて地域福祉計画も策定中と伺っております。栃木市の地域福祉計画の特色や策定状況などについてお聞かせください。

栃木市で一番特徴的なのは、市民協働です。政策形成の三本柱の一つに市民協働の街づくりを位置づけています。市民の役割、行政の役割、NPOやボランティアの役割を明確にしながら、それぞれの役割分担の中で街づくりをしていこうということです。

計画を作る主役は市民ということになりますので、約70人からなるとちぎ地域福祉計画の策定市民会議を立ち上げ、そのメンバーが自主的に検討を重ねて草案を作っていただきました。行政側は市民のみなさんの啓発活動や意識の方向性をまとめていくお手伝いをさせていただいたと言ってよいかもしれません。

先程役割分担と申し上げましたが、行政がやるべきことと市民がやるべきこととを明確にして、その中でそれぞれのベンチマーク、いわゆる水準、基準を明確にした中で行動計画とを連動させるというような、新しい取り組みも始まっています。これまで、計画は作っても、なかなかその計画に携わった人たちが、つまり市民の皆さんが実行や評価に携わることがなかったと思います。そこで計画の立案だけでなく、実施、評価、または修正ということにも市民会議の皆さんに参加していただきながら、それを繰り返すことで地域の将来をどうするかとか、福祉のあり方だとか、またはそれぞれの地域に眠っている潜在的な地域力、そういった可能性を引き出すなどの、取り組みをしていきたいと考えています。

▼昨今の福祉行政を取り巻く情勢の中で、栃木市はどのように対応していこうとされているか、その方向性を最後に伺いたいと思います。

地方分権の名の下に仕事はくるけれどもそれに伴う財政的な裏づけがなかなかないということは、やはり一番大きな問題だろうと思いますね。これはどこの自治体も一番頭の痛いところだと思います。行政がこれからやらなくてはならないのは、公平、公正、透明性という視点の中で、本当に必要なところにお金がかけられる、本当に必要な人に支援の手が差し伸べられる、そんな福祉の仕組みに作り変えていくということだろうと思います。

「福祉とは、(ふ)普通に、(く)暮らすことのできる(し)幸せ」という説明をよくするのですが、このことを実感できるようにするためには、福祉サービスとは行政だけがやるものだ、という意識も変える必要があります。地域のすべての皆さんに福祉意識を持っていただくということが大事ではないでしょうか。お互いの役割分担を明確にしながら皆で支え合う、そのような支え合いの社会を作ることがやはり必要だと思いますし、それが栃木市の目指す福祉の方向性です。

▼栃木市では市が発行する「人」に関する文書のすべてにおいて「障がい」という表記を用いることにしたそうです。それによって職員や市民の「障がい問題」に対する関心を持ってもらい意識も変えてもらおう、という意図もあるそうですね。新しい庁舎で生き生きと業務に取り組む職員の皆さんの様子も印象的でした。本日はお忙しいところをありがとうございました。