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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年5月号

障害者権利条約への道

第15条「地域社会における自立した生活およびインクルージョン」

東俊裕

日本では、施設は地域の宝と称して、戦後一貫して施設を増やし続けた結果、現在では障害者人口の約1割である60万人くらいの人が施設で生活している。アメリカでは、1970年代初頭より脱施設化・施設解体の運動が始まるが、日本では、そのアメリカがやめようとしていた大規模施設構想を見習ったコロニー施設を作っていったというような経緯もある。1900年代初頭にアメリカ各州で制定されたジムクロー法と呼ばれた強制収容法と異なり、日本では従来の措置若しくは措置委託、現在における支援費制度というやり方ではあるものの、施設入所を事実上強要してきたことに違いはない(もちろん、精神障害の場合は法的にも強制を伴うものであるし、廃止された「らい予防法」はまさしく強制収容法であった)。

長期にわたって、人の生きる時間と空間と人間関係を一般社会から隔離することは、最大の制度的・体系的な差別であり、虐待であることを確認しなければならない。

前述の脱施設化・施設解体の運動とほぼ時期を同じくして始まったアメリカの自立生活運動は、脱施設化・施設解体の運動と共に、理念的な面では「メディカルモデル」に抗して「ソーシャルモデル」を、制度的な面では「施設収容化政策」に抗して「地域生活支援システム」を、法的な面では「パターナリズム」に抗して「自己決定権」や「保護法」に抗してADAをはじめとする「権利法」を産み出してきたが、さらに、これらを基礎として「地域に根ざした支援を受けながら地域で自立した生活をおくる権利」という新しい権利概念を産み出した(なお、ノーマライゼーションも同様の内容を持つものであるが、必ずしも、特に日本では「権利概念」として語られているわけではない)。

このような自立生活の概念は、これまでの人権条約にはない新しいコンセプトであったがゆえに、自立生活という言葉を用いることに難色を示す見解もある。しかし、地域で自立した生活を送ること自体は、一般社会人にとっては当たり前のことであり、障害ゆえにそれが実現できていないことを考えると、一般社会人が有する以上の権利を創設するものではなく、むしろ障害ゆえに社会から排除されない権利を確認する上で必要不可欠な概念である。

この概念は、内容的に分析すると、第一に、どこで、だれと、どんな生活をおくるのかという側面での自由権、すなわち、国家、個人からその面で強制を受けず、自由な選択を行使する権利と第二に、地域で生活する上で必要な支援を受ける社会権、すなわち所得保障や介護保障を受ける権利を包含する複合的な権利となっている。

特に、後者の社会権の充実がなければ、形式上合意で入所する形式をとる現在の支援費制度においては、事実上の入所強制をやめさせることはできないのである。

条約草案第15条は「この条約の締約国は、障害のある人が自立した生活を営み、かつ、地域社会で完全に暮らすことができるための適当かつ効果的な措置をとる。この措置は次のことを含む。」として、「(a)障害のある人が、その居所及び生活形式を選択する平等な機会を有することを確保すること。(b)障害のある人が、施設への収容及び特定の生活形式を義務づけられないことを確保すること。(c)地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な居宅サービス、在宅サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援を含む。)を利用する機会を障害のある人が有することを確保すること。(d)公衆向けの地域社会サービスが、平等を基礎として障害のある人に利用可能であり、かつ、そのニーズに適合することを確保すること。(e)障害のある人が、利用可能な支援サービスに関する情報を得る機会を有することを確保すること」となっている。

しかし、以上の趣旨からすれば、このような国家の義務規定の前に、第一に、どこで、だれと、どのような生活を送るかを選択する自由権(上記(a)を権利規定に変える)、第二に、地域で生活をするに足りる適切な支援を受ける権利を有する旨の権利確認規定を置いた上で、国家の義務規定をおくべきである。

また、(b)は趣旨的には(a)と重複するところもあり、また第12条bisパラ2の強制施設収容化の禁止に包含されるとして削除を要求する見解もあるが、自立生活が脱施設化・施設解体と不可分の関係にあることに鑑みるとこれを削除すべきではない。

(c)(d)は、地域生活支援サービスに関するものであるが、地域生活サービスの基本は、介助保障と所得保障であるところ、上記には、所得保障が明文としては欠けている。この点、発達途上国の障害者のみならず、アメリカの障害者にとっても重要な問題である。

(e)は、知る権利の性質を有するという意味で、(a)(b)と同様自由権的側面を有する。

しかし、申請主義を前提とする福祉サービスは、その情報が行政によって積極的に提供されなければ、不平等を生む結果を生じる。その意味では、積極的な行政による情報提供を要求する権利として、社会権的側面を有していることを忘れてはならない。

(ひがしとしひろ 弁護士)