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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年5月号

障害者自立支援法案をめぐって

施設体系にみる就労・日中活動

鈴木清覚

「障害者自立支援法」の特徴と前進面は、これまでバラバラに障害種別ごとの縦割りの法制度で行われてきた障害福祉サービスを統合化し一元化したことです。また、これまでの、障害者施設とその事業は、福祉サイドでみると、40数種類・種別にも及び、労働サイドの施設や事業を含めれば60数種類と大変複雑で、同じ施設でも障害種別間においては激しい制度間格差が存在するという矛盾に満ちた制度として運営されてきました。

セルプ協やきょうされんなど関係団体は、これらの制度を改善するために長い間、さまざまな政策や制度改革の提言を行ってきましたが、今回の法律において、ようやくにして改革の一歩が踏み出されることになりました。

「障害者自立支援法」における施設・事業体系のもう一つの大きな特徴は、就労を中心とする昼間の施設・事業体系と暮らしの場が明確に区分・分離されることになったことです。

今回は、新たな制度で提案されている、就労を中心とする昼間の施設・事業体系について紹介し、評価・検討します。

就労・日中活動の体系

昨年10月に「グランドデザイン」として示された当初案から、さまざまな検討と議論を経て、まだ一部未確定の内容がありますが、ほぼ確定された、就労・日中活動の6体系の名称、対象、給付体系、移行予想施設の全容は表1に示すとおりです。

表1 就労・日中活動の事業体系

日中の事業体系 対象障害 給付体系と財源 移行予想施設
療養介護 身体 介護給付 義務的経費個別給付 重症心身障害児施設
生活介護(有期限) 身体・知的     身体障害者療護施設
自立訓練(有期限)        
機能訓練 身体 訓練等給付   身体障害者更生施設
生活訓練 知的・精神     知的障害者更生施設
就労移行支援 身体・知的・精神     授産施設 更生施設
就労継続支援        
雇用型 身体・知的・精神     授産施設・福祉工場
非雇用型       授産施設・更生施設
地域活動支援センター 身体・知的・精神 地域生活支援 裁量的補助 デイサービス
授産施設・更生施設

当初案との関係では、より障害の重度な人々を対象とする体系としては「生活療養事業」「生活福祉事業」となっていましたが、障害者自立支援法では介護保険制度の活用が強く意識され「療養介護」「生活介護」となりました。就労の体系としては、「就労移行支援」とともに、ILO(国際労働機構)の勧告や条約などに示され、広く先進国で制度化されている「保護雇用制度」が意識された「要支援障害者雇用事業」と表現されていましたが、あまりにもなじみ難い名称であることから関係団体から変更が強く要望されて「就労継続支援」となりました。

また、セルプ協などの調査や検討から、新しい施設・事業体系では、現行の授産施設から行き場のない人々が生まれる可能性が高いとの指摘や要望から、この事業体系の中に、労働法規を適応する雇用型と適応しない非雇用型の体系をつくることになりました。また、当初案では地域支援の体系として「デイサービス」が示されていましたが、現行デイサービス制度では、毎日安心して通うことのできる制度ではないことなどが指摘され、「地域活動支援センター」として整理されました。

理念の具体化における課題

今回の改革の理念として掲げられた、障害種別を越えた福祉サービスを統合化し一元化することからすると、療養介護・生活介護などにおいて、知的障害者や精神障害者が対象とならないなど不十分さが指摘されます。このことは、まだ結論は出ていませんが、ケアホームやグループホームの暮らしの場の体系においても共通の課題となっています。

体系をめぐる課題

今回の「グランドデザイン」とその具体化としての「障害者自立支援法」における日中の事業体系の原案は、昨年2月に厚生労働省内に設置された「障害者の就労に関する省内検討会」(以下「省内検討会」)において、7月にまとめられた3体系の整理です。つまり、「就労移行」「継続的就労」「ディアクティビティー」の三つの施設体系です。

この体系については、厚生労働科学研究の施設体系のあり方についての就労施設体系の研究に参加していた関係団体の代表を含め合意と指示のあった体系です。この体系との関係で見ていくと、今回提案されている6体系は、これまで悪しき伝統である複雑さにおいて後退の感があります。とりわけ、障害のより重度な人々を対象とする「ディアクティビティー」がいくつかの事業体系に分割されたことなどが指摘されます。

現在、障害者施設関係者から強い要望として議論が続けられているのは「生活介護」の対象者をめぐる議論です。厚労省の担当からは、障害の程度区分として「介護度4~5の人を対象とする」との表明がされてきましたが、関係者からはなぜ高齢者の尺度である「介護度」なのか、これでは、厚労省が意識している療護施設の対象者さえすべてが移行できなくなる、もっと障害者独自の尺度による検討と、多くの重度障害者が利用できる制度に拡大すべきとの議論と交渉が続けられています。

就労体系をめぐって

就労を中心とした日中の事業体系については、省内検討会以来、いわば企業等の一般就労重視施策が強調されてきましたが、期待されていた労働施策制度との本格的な統合は見送られ、福祉施策の改革にとどまり、相変わらず労働と福祉の制度間矛盾を残すものとなりました。これで、障害者の雇用状況が相変わらず厳しい現実を改善できるのかどうか大きな課題と言えます。

関係団体から強く要望された、日本版の障害者の労働権を保障する「保護雇用」は、今後の具体化の大きな課題となっています。

財源と給付体系の課題

今回の「改革」の大きな目標であった、制度の安定的で持続可能性の確保という面からみると、居宅支援も含め全体として義務的経費化が図られたことは、積極面・前進面として評価できるものです。

しかし、表1に示すように、最も柔軟で地域型の運営が可能な「地域活動支援センター」については、唯一財源的には不安定な裁量的経費として残り、市町村事業として位置づけられました。関係者からはこの改善が強く求められています。

まとめ

新たな法律「障害者自立支援法」における現時点における到達点や課題を明らかにしてきました。しかし、現実の制度・システムとしては、いまだ多くの未確定な内容があります。とりわけ、障害者と家族にとって大きな関心事である各事業と利用料問題、事業者における給付水準問題などです。

また、どれだけ理論的な機能と体系を整理しても、長く指摘されつづけている基盤整備と十分な財源確保なしには、今回の「改革」が絵に描いた餅にならざるを得ず、障害者施策の基本と土台の確立を切に願うものです。

(すずきせいかく ゆたか福祉会、前きょうされん理事長)