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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2005年5月号

列島縦断ネットワーキング

東京 障害者と災害時の情報保障セミナー
~新潟県中越地震の経験と今後の防災活動~

藤澤敏孝

はじめに

昨年の日本国内各地に多くの被害をもたらした台風による水害や、新潟県は旧山古子村が壊滅的な被害を受けた新潟県中越地震。このような災害を契機に多くの障害者団体から、情報保障や避難対策などについて、その都度要望が関係機関に提出されていますが、これらの要望が災害対策の教訓としてどれ程生かされていたのかというと、多くの事例が示すとおり成果があったとはいえないものがあります。

そこで、災害時情報保障委員会では新潟県中越地震を契機に、これらの課題の検証と、広く国民に啓発を諮るために「障害者と災害時の情報保障」をテーマに「新潟県中越地震の経験と今後の防災活動」をサブテーマとしたセミナーを去る2月28日(月)、戸山サンライズ(東京都新宿区)で開催しました。また、全国の地域における防災活動や計画・マニュアルの作成等で先進的な事例についての情報提供や意見交換に重点を置くことにしました。

概要

今回のセミナーには、全国から240名からの参加がありました。参加者の内訳は当事者である障害者や障害者団体関係者が5割、県や市町村の防災関係者が2割、残り3割がボランティア活動等を行っている方や障害者の災害時支援に関心のある一般の方々でした。県や市町村の防災関係者の参加が少なかったのが気にはなりましたが、多様な関係者が参加され、関心の広がりをうかがい知ることができました。当日の主要なプログラムは次のとおりです。

講演「災害時要援護者の避難支援対策について」丸山直紀氏(内閣府防災担当・災害応急対策担当)

「新潟中越地震における実情と取り組み」松永秀夫氏(新潟県視覚障害者福祉協会)、勝本卓氏(新潟県聴覚障害者地震復興支援本部)、片桐宣嗣氏(新潟県手をつなぐ育成会)、酒井昭平氏(新潟県精神障害者社会復帰施設協議会)、山本衛氏(日本自閉症協会)の5氏からの報告。

シンポジウム「利用者が参画した防災活動とマニュアルづくり」コーディネーターは災害時情報保障委員会委員長の藤澤敏孝、パネリストに内田達男氏(新潟県災害救援ボランティア本部)、藤田芳雄氏(新潟県視覚障害者福祉協会)、前嶋康寿氏(静岡県健康福祉部)、城野仁志氏(山梨県保健福祉部)、また、指定発言者に佐藤五郎氏(日本オストミー協会)、坂東敏子氏(全国要約筆記問題研究会)等の協力を得て進められました。

なお、各演者の講演内容の主旨は次のとおりです。

◆丸山直紀氏(内閣府防災担当)の講演から

昨年10月に「集中豪雨時における情報伝達及び高齢者の避難支援に関する検討会」を立ち上げ、災害時要援護者の避難支援対策について検討を行い、その結果、昨年の12月に中間報告の検討骨子が出されましたが、それらを中心に講演されました。避難支援に関する三つの課題として、1.情報伝達体制の整備、2.災害時要援護者情報の共有、3.災害時要援護者の避難支援計画の具体化等があります。これらを踏まえ今年の3月までに避難勧告等の判断・伝達マニュアルや災害時要援護者の避難支援ガイドラインを取りまとめることになりましたが、それらの関係資料が3月に示されています。その中で1.の情報伝達体制の整備では、災害時に市町村に対して災害時要援護者支援班の設置を求めています。これについては市町村の防災関係部局と福祉関係部局、自主防災組織、福祉関係者との連携強化が求められています。このようにガイドラインやマニュアルなどが、実際に市町村でどのように扱われるのかは市町村の主体性にゆだねられているようで、今後の動きに対して、実施状況の把握のためにも障害者団体などの役割は一層重要になってくるのではないかと実感しました。

◆「新潟県中越地震における実情と取り組み」から

それぞれの障害者団体を代表して1.避難所の利用について、2.被災直後の様子、3.情報伝達や収集について、4.日常生活における近所との付き合いや訓練について、5.支援活動について、6.支援活動の総括、7.心のケアの必要性、8.福祉施設の対応や役割について、9.行政に対して等の実情の報告を受けました。やはり、当事者の方々の訴えは、それぞれの障害種別からくる課題や問題点等が切実で、当事者でなければ分からない不安や恐怖心が伝わってくるものでした。

具体的には情報はどのように提供するのか、安否確認や避難誘導はだれがどのように行うのか、避難所での生活はだれがサポートするのか、避難所のルールが理解できない人たちや障害特性によるところからくる生活習慣の違いに馴染めず、不安定になる人たちへのサポートはどのように行うのか等です。地方と都市の違いはありますが、阪神淡路大震災の時と同種の課題が提起されました。

◆シンポジウム「利用者が参画した防災活動とマニュアルづくり」から

16年3月に災害時情報保障委員会では、北海道・宮城県・兵庫県の全市町村(369市町村の内回答数206市町村)を対象にしたアンケート調査を行い、報告書としてまとめました。その中で「災害対策マニュアルはありますか」との問いに76%の158市町村が「ある」と答え、「ある」と答えた158市町村に「災害対策マニュアルの中に障害を持つ人を対象にした項目がありますか」とたずねたところ67%の106市町村が「ある」と答えました。しかし、障害種別ごとに質問項目がある市町村についてはわずか8市町村に過ぎない結果となっていました。この結果でも分かるとおり、障害種別に応じた対策は皆無であるといえます。そこで、利用者が参画した防災活動とマニュアルづくりを推進するために、多様な意見や課題が出され、利用者参画にこだわった議論として進められました。

おわりに

朝の9時50分から始まり、シンポジウム終了の16時30分まで、昼食時間以外ほとんど休憩も取らず進められましたが、終了時間までほとんどの参加者が退席することなく、熱心に議論が進められました。会場からは「地方でも開催してほしい」「新潟県でも開催してほしい」「新潟県で開催すべきでは」等の意見があり、有意義なセミナーであったと確信することができました。「効果的な避難、避難支援を実施することによって、災害に遭う確立、被災の程度を最小限に食い止めることができます。防災とは大きな可能性を秘めた、大変意義深い分野だと考えています。(中略)防災はチャレンジであると考えていますので、前向きに取り組んで行きたいと考えています」これは丸山氏の講演内容の一部です。今、まさにすべての防災関係者の前向きな取り組みが求められているのではないでしょうか。

(ふじさわとしたか 障害者放送協議会災害時情報保障委員会委員長)