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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年3月号

1000字提言

生活をイメージすることから始めよう

北野義明

私は福祉用具の適合を検討する際、よく「生活をイメージして」と言っています。毎日の生活場面で福祉用具をどのように使うのか十分にイメージしていなかったために、訓練室で使えても実際の生活で「使えない道具」になってしまうことがあります。

先日、いつものように車いす採型に立ち会いました。自宅内への車いす(自走)導入を検討している脳性マヒのケースです。座位姿勢や駆動、移乗動作について検討を重ねて車いすのプランが立てられていましたが、食事、排泄、入浴、外出等の生活場面での活用がほとんど検討されていませんでした。しかも、居室からの出口が狭く直角に曲がっていて車いすが出られそうになかったのです。それでは全く意味を成しません。急きょ、訪問スタッフに測定、検証してもらい、設計変更することで何とか活用できる車いすになったのですが…。

こんな例はともかく、福祉用具の適合は単に身体寸法や身体機能を合わせればよいというものではなく、生活の中で使えるようにしなくてはなりません。そのためにはまず、当事者の立場になって生活をイメージしてみることから始めるべきです。そして、必要となる条件を整理して、これを実現する福祉用具のプランを提案していくのです。

この際、自分が知っている福祉用具ありきや、福祉制度ありきにならないように注意しなければなりません。あくまで、(当事者が)自律的で豊かな生活を送るにはどうしたらよいかを最初に考えたうえで、さまざまな福祉用具を検討し、それを満たす既製品が無いのであればオーダーメイドや改造、新たに開発することも検討すべきです。それから、利用可能な福祉制度の情報を踏まえて、当事者とともにプランを決定していくべきだと思います。

そして、生活をイメージする際の視点を、食事、排泄、入浴といったADL(日常生活活動)だけではなく、外出、就労、社会参加、さらに趣味、スポーツ、旅行といった人生を楽しむ活動へと広げていってほしいのです。当事者とともに目標を見出し、意欲を持って取り組んでいくことができれば、社会との関わりを通してQOL(生活の質)が向上し、人生がより一層豊かなものになるはずです。

私はリハエンジニアとして、生活をイメージすることから始めようと心がけています。そうすることで、当事者と共通の意識、対等の立場で話すことができるのです。処方するという立場ではなく、当事者とともに考え検討していくことで、さまざまな可能性を一緒に追究し、日常生活で使えるのはもちろん、「人生を楽しめるような道具(福祉用具)」を作り上げていきたいと思います。

(きたのよしあき 石川県リハビリテーションセンターバリアフリー推進工房)