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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年3月号

わがまちの障害者計画 大阪府箕面市

箕面市長 藤沢純一氏に聞く
ライフステージに応じた安心を保障

聞き手:酒井京子
(大阪市職業リハビリテーションセンター)


大阪府箕面市基礎データ

◆面積:47.84平方キロメートル
◆人口:125,354人(平成18年1月現在)
◆障害者の状況(平成17年4月1日現在)
身体障害者手帳所持者  2,905人
(知的障害)療育手帳所持者 447人
精神障害者保健福祉手帳所持者 283人
◆箕面市の概況:
大阪府の北部に位置し、1970年のエキスポ博覧会を機に市内東部が開発され、新興住宅地が広がる。衛星都市、大阪市のベッドタウンとして発展する。北部は明治の森箕面国定公園として保全され、「箕面山ニホンザル」は国指定の天然記念物。瀧安寺、箕面の滝など名所旧跡が多い。1954年から競艇事業を開始し、競艇事業施行者として2004年に競艇施行50周年、今年は市制50周年を迎える。市の木「イロハモミジ」は、広報紙のタイトルにも使われている。
◆問い合わせ:
箕面市健康福祉部健康福祉政策課
〒562-0014 大阪府箕面市萱野5-8-1
TEL 072-727-9539 FAX 072-727-3539

▼箕面市は大阪の北部に位置する市でおしゃれな街というイメージがありますが、特色や魅力についてお聞かせください。

箕面市は何より、市民活動が非常に盛んな街であると言えます。1996年から97年にかけて当時の市長がさまざまな条例を制定しました。全国に先駆けて市民参加条例を制定した街であり、まちづくり条例、NPO条例(みのお版NPO)等々条例が先行してきた街であることが特徴といえると思います。また、さまざまな面において市民の意識が高く、みのお版NPO登録団体は90を超えています。市民活動の中には手話や要約筆記の活動も多く見受けられます。

▼箕面市の障害者施策の基本的な考えや、障害のある人の暮らしをどのように支えるのかという点についてお聞かせください。

障害者施策というのはさまざまな分野にわたりますが、本市の場合は、出発は「人権」であると考えます。「人権」、「就労」、「共生」、この3つのキーワードこそ箕面の施策の中心であり、特徴です。平成5年に「箕面市人権宣言」をしたのがスタートになっており、障害の有無にかかわらず地域で一緒に過ごすということが基本にあります。

また、ユニバーサルデザインという考え方もベースにしています。いちばん困っている人に適合した街の姿はすべての人の問題を包み込む街だと思います。今は障害がない人でも歳をとるに従って、たとえばそれまでは楽に上がれた階段でも上がれなくなってきます。そのときに快適に過ごすための街づくりが、結果としてすべての人が暮らしやすい街になると考えます。

▼「人権」「就労」「共生」この3つの基本理念は、具体的な施策としてどのように展開されていますか。

子どもが障害をもって生まれてきたとき、まず相談窓口を設けています。総合保健福祉センターの総合相談窓口では、障害のある子どもから高齢者までのあらゆる保健福祉の相談を受け付けています。障害児に対する療育施策にも早くから取り組んできました。市立病院にリハビリテーションセンターを設け、リハビリ機能を有効活用するために医療サービスと福祉サービスを同時に1か所で受けることができる環境を整備し、早期療育事業(障害児デイサービス事業)がスタートしました。早期療育を受けた後の支援としては、地域の保育所で共に育つ保育を行ってきました。ここでは保育士の加配をしながら環境整備に努めています。また、幼稚園での受け入れも行っています。

次に学齢期における支援としては、地域の小中学校に介助員を加配し、身体介助のみならず、学習介助やコミュニケーション介助も含めて就学保障をしています。ハード面での環境整備としては、市内の13の小学校、7つの中学校の半数にはエレベーターが付いていますし、エレベーターがないところも必ずスロープ設置の対応をしています。通学に対する支援も行っており、障害児の送迎用のタクシーも配置して、原学級保障をしています。

その他、小児科の救急体制として、隣接の5市町村と共同で「豊能広域こども急病センター」を設置し、休日と夜間に限定した子どもの急患にいつでも対応できる体制も整えています。

▼療育、就学期を経て、学校卒業後の支援についてはどのような事業を展開されているのでしょうか。

行政としては「在宅になる人を出さない」という方針で施策を実施しています。グループホームの整備など地域生活の支援にも力を入れていますが、箕面市の特徴はやはり就労の充実にあるといえます。労働という観点に立ってみると、平成2年に箕面市障害者事業団が立ち上がり、ここから就労に向けた取り組みが前進します。障害者事業団を通じて、リサイクルセンターで障害のある人を雇用し、かん・びんの手選別によるリサイクル事業、市内の公園花壇管理や観葉植物のリース、喫茶店、フラワーショップの運営等、職域の拡大を行っています。また、障害者雇用支援センターを設置し、職業訓練を行う等、具体的に就労に向けた取り組みを進めてきました。

一方、福祉という観点に立てば法律に基づく通所授産施設が2か所、無認可を含む小規模作業所が8か所ありますが、箕面市独自の制度として、「障害者事業所」というものがあります。障害のある人もない人も同じ立場でひとつの事業所で労働に関わっていくということを保障するため、新たな就労の場として位置づけ、そこで雇われている人の最低賃金保障、支援者の人件費や設備改善費など、一般の企業ベースでは運営が困難な点を市が助成する形をとっています。事業所では、社会保険や労働保険も適用されますが、雇用人数が4人以上で、雇用割合が30%以上という条件が設けられています。

障害者自立支援法に「就労」という概念が出てきていますが、これまで箕面市で就労を見据えた施策を展開してきたことは、方向として間違ってはいなかったと改めて確信をしています。

また、障害のある人の市の雇用率は現在、2.82%で、「障害者市民の長期計画」に掲げた3%の実現に向けて努力しています。

▼障害のある人たちの声は障害者計画にどのように反映されていますか。

平成16年「第2次障害者市民の長期計画~みのお‘N’プラン~」の策定にあたっては、市の附属機関である「保健医療福祉総合審議会」に「障害者長期計画部会」を設け、関係団体からの推薦者、公募による市民、障害当事者等で構成された会議で審議をいただきました。

また、法律に基づく機関ではありませんが、「障害者市民施策推進協議会」を設置し、障害当事者や関係団体からざっくばらんに意見を聞く会議を2か月に1回設けています。今は障害者自立支援法施行を目前に控え、1か月に1回くらいのペースで開いています。同協議会を活用し、建物を建てる時にも、当事者の実際の声を聞いて、たとえば、トイレットペーパーの位置をどこにつけるかなどの意見を反映させています。また福祉の分野に限りませんが、市民と市長の地域対話集会というのを毎月1回開き、毎回テーマを決めて各小学校区に伺い、直接対話をするということも行っています。

▼障害者自立支援法がこの4月から施行されますが、それに関してどのように進めていこうと考えておられますか。

作業所の法人化の問題に加えて、箕面市独自の事業で行ってきた障害者事業所制度をどうやっていくかということは大きな課題です。国がめざしてきたことと私どもがこれまでめざし実践してきたことは同じなのですが、国の制度との調整が難しい部分が出てきます。移行できるものは移行していくし、移行できないものについてはできるだけ単独でできるよう知恵を出し合ってやっていこうと考えています。税源移譲の中で歳入が減るなか、今の福祉の水準を維持したまま、どうソフトランディングをするかということが最大の課題です。

▼最後に、藤沢市長が考えるまちづくりとはどのようなものでしょうか。

これまで箕面市は市民の担税力と競艇の収益という両輪により豊富な財源でもって、さまざまな施策を展開してきました。今後、制度変更の中でも持続可能にするための仕組みをどのようにすべきかという思いがありまして、私は「市民自治区」という構想を持っています。小学校区単位でひとつのコミュニティが完結し、その中で障害のある人もない人も共に生きる仕組みをつくるということがゴールではないかと思っております。ドイツを例にとると、平均して8千人で一つの自治体を構成しています。これくらいの規模であると、どこそこの家でこういう困ったことがあるということがすぐに把握できます。本来の民主主義はそうあるべきだと思います。

歩いていける範囲内にすべての生活施設ができる仕組み作りが必要だと考えています。ただ、行政がそれに向けて着手できるほど財力があるわけではありません。そのために必要なのが、市民協働、NPO、コミュニティビジネスではないかと考えています。その仕組み作りを任期中にやることが私の役割だと思っています。個人主義をベースにした新しいコミュニティ作りをめざしていきたいと考えています。「市民参加から市民協働へ」を進めていくことが、21世紀型の街づくりであると考えています。

※インタビューを終えて幼児期、学齢期、就労などの各ライフステージに応じた独自のセーフティーネットが入念に準備され、それにより質の高い安心できる暮らしが実現できている市であると感じました。特に療育と就労について各自治体の参考となる素晴らしい施策をされています。社会システム論として単純に「セーフティーネットの構築」という言葉を使うのは簡単ですが、その根幹には一人ひとりを大切にするという人権の尊重の精神があり、さすが人権宣言都市「にんげんの街みのお」であると思いました。インタビュー中、ホワイトボードを使って福祉について熱く語っていただき、本当にありがとうございました。