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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年3月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

「NPO法人やまぼうし」
―生ごみをキーワードとする地域での協働、就労支援の取り組み

松山禎之

ごみの減量化と生ごみの資源化

東京都の西部域である三多摩地区は、その東部域と西部域に濃淡はあるものの消費(者)と(農業)生産(者)が混在している地域です。西部域には村もあり、森林地帯さえあります。その中で、NPO法人やまぼうしは、日野市を中心に障害者の総合生活支援、グループホーム、通所授産事業をすすめ、また環境保全の試行事業の取り組みとして「水とみどりの循環プロジェクト」を立ち上げ、その課題に当たってきました。

日野市は、消費(者)が圧倒的で、(農業)生産(者)は、首都東京のベッドタウン化により、まちの区画整理が行われ、減小の一途をたどって来ました。そうした消費(者)増大の結果、大量の廃棄物、ごみの排出が行われるようになりました。

こうした事態に悩む日野市では、近年ごみゼロ達成を目標とし、「ごみゼロ推進課」を立ち上げ、ごみを有料化するなどして減量に取り組んできました。また市民サイドでも「日野 まちの生ごみを考える会」等による生ごみ減量化の積極的推進を課題とする活動が行われてきました。

「農あるまちづくり」への障害者の参加

その中で、とりわけ可燃ごみの半分を占める一般家庭の生ごみの資源化、堆肥化が課題となってきました。

「農あるまちづくり」への障害者の参加を課題とし、遊休農地の活用、地産地消による循環社会の構築をテーマとするやまぼうしにとっても、この生ごみの堆肥化、農地での有効活用は共通の課題にほかならないものでした。

都市農業の現実、その営農実態と労働実態は高齢化に加え厳しい実態にあり、そのため化学肥料や農薬に依存せざるをえない状況にあります。そのような中においては、市民やNPOなどによる援農活動が問われていると言えます。

鈴木牧場との援農を通して

一方、日野市に隣接して乳牛牧畜を営む八王子市の「鈴木牧場」は、そこから排出される牛糞の堆肥化事業も営む専業農家であり、また牧場の近隣消費者の生ごみも受け入れてきた経過がありました。

都市近郊の日野市をはじめ、ほとんどが消費(者)が圧倒的で、生産(者)の数とのゆがんだ関係がありますが、消費者市民と生産者の連携なくして、こうした事態を越える循環社会の実現は望むべくもありません。こうした現状を踏まえて、私たちは「鈴木牧場」に対し、堆肥切り返し作業への協力など、牛糞堆肥化の一連の作業に対するできうる限りの援農を考えたのでした。そして、この実践に対しては、障害種別を越えて、障害者に可能なことは何かを考えました。

幸いにして、「鈴木牧場」では省力化のため堆肥レーンが作られており、堆肥切り返しのためのローダーも稼働していました。この作業には、体力に欠けているのが一般的な内部障害者でも、作業に従事することができることに着目しました。そこで、援農を実現することにしました。

また、それと同時に日野市内の一般家庭の生ごみを戸別回収し、それを「鈴木牧場」の牛糞堆肥化過程に投入し、並行的に生ごみの堆肥化ができると考え、戸別回収した生ごみの受け入れを「鈴木牧場」側に提案したのです。

この回収作業には、知的あるいは精神障害のある人でも、サポート次第で作業に参加できると思われました。また一方で、日野市ごみゼロ推進課との協働で活動している「日野 まちの生ごみを考える会」にも提案しました。そして「日野市生ごみリサイクル(堆肥化等)推進協議会」での検討を経た結果、日野市の実験事業として助成がなされる運びとなり、市との協働事業「一般家庭の生ごみの堆肥化モデル事業プロジェクト」が立ち上がりました。

地域共生、地域協働の実験事業

この実験事業は、障害者、高齢者、地域住民、市民ボランティアが参加する地域共生、地域協働事業として実現しました。

一昨年9月より、日野市立第八小学校区域(日野市落川・新井地域)の20世帯に呼びかけ、実験事業を開始しました。開始するに当たっては、水きりを十分する、人や動物が食べられないもの、堆肥化しないビニール、大きな骨、貝殻などを除くことなどを「説明会」や「意見交換会」を開いてみんなでそろって実行することにしました。また、各家庭には密閉式ポリバケツを1個ずつ貸与し、市の助成により無償配布する完熟牛糞堆肥(醗酵臭は多少あるが、ほとんど臭いなし)を種堆肥として使い、生ごみとこの堆肥をサンドイッチ状に重ねていきます。この繰り返し作業により、生ごみの腐敗を防ぎ、家庭内における第1次醗酵(堆肥化)が行われることになりました。

こうした活動を通じて、各家庭では、家族一人ひとりがこの事業や生ごみの堆肥化、ひいては福祉や健康、循環社会を考えていくキッカケになったのではないかと思います。

この処理物を、週に2回やまぼうし「里山耕房くらさわ」の軽トラックが回収して回ります。同時に完熟牛糞堆肥を使い切り、足りなくなった家庭には、補充して回ります。昨年3月、この第1次実験事業は成功裡に終了しました。また、昨年5月からは、この成果を元にこれを50世帯に拡大し、年度末を期限とし、第2次実験事業を実施しているところです。

やまぼうしでは、一般農家からお借りした畑、日野市と里山保全のパートナーシップ協定を結んでいる畑など約1500坪の畑を管理しています。この生ごみと牛糞でできあがった堆肥をこれらの畑で使い、無農薬の野菜作りをしています。そしてこうした野菜作りや漬物など野菜加工の行程には、障害者、高齢者、子どもたち、市民ボランティアが参加し、それぞれの個性を生かした協働作業ができつつあります。

来年度は、第1次、第2次実験事業を経た第3次事業として、現在の52世帯を100世帯に拡大していく予定です。また、新たに「畑だより」を発行し、広く有機農業の理解を求めるとともに、希望する個人や家庭には無農薬で作った野菜を配り、循環の味、循環の輪を拡げていきたいと思っています。そして、そういう中での障害者の就労、市民や行政との協働、共生を築いていきたい、と思っているところです。

(まつやまさだゆき NPO法人やまぼうし、水とみどりの循環プロジェクト代表)