「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年5月号
車椅子アルティメット
岩澤秀明
「フライングディスク」と、耳にしてもイメージがわかないと思いますが、「フリスビー」と言えば、プラスチック製の円盤だと多くの方が分かると思います。
フリスビーは一商標名なので、一般的には「フライングディスク」という名称が使われています。
1940年代、米国のエール大学の学生たちがフリスビー・ベーカリー(パイの店)の鉄製のパイ皿を投げ合って遊んでいたことがフリスビー、フライングディスクの起源とされています。1970年代に、それまで一社でしか生産されていなかったディスクが、複数社から発売されるようになり、フリスビーからフライングディスクへと公式名称が使用されるようになりました。
フライングディスクというと、障害者のフライングディスク競技も有名で、全国大会も開催されています(注)。
(注)障害者フライングディスク 1960年代、アメリカのケネディ財団の支援で知的障害者のスポーツプログラムとして「スペシャルオリンピックス」が行われるようになりました。第1回スペシャルオリンピックス国際大会(1968年、シカゴ)で、フライングディスクが正式競技として行われました。 日本でも1981年に神奈川県藤沢市で開催された第1回スペシャルオリンピックス全国大会が始まりです。その後1992年から「ゆうあいピック(全国知的障害者スポーツ大会)」へと受け継がれ、2000年の第9回岐阜大会まで行われてきました。 長年、知的障害者のスポーツとして発展してきたフライングディスクは、2001年からスタートした全国障害者スポーツ大会の正式競技となり、知的障害者と身体障害者が一緒に行う唯一の競技として注目されています。毎年1回、日本障害者フライングディスク連盟が開催している、全日本障害者フライングディスク競技大会は、すべての障害の方が参加できる大会として全国から多くの方が参加されています。 (引用)若山浩彦『気軽に楽しめるフライングディスク』「ノーマライゼーション」2003年8月号59~61頁 |
今回は、フライングディスクの公認種目の一つで団体競技の「アルティメット」を、車いすを使用している方も参加できるように改良した「車椅子アルティメット」についてご紹介したいと思います。
『アルティメット』とは
フライングディスクは現在、公認種目は10種目あります。紹介しますとアキュラシー、ディスタンス、マキシマム・タイム・アロフト(M・T・A)、スロー・ラン・アンド・キャッチ(T・R・C)、ディスカソン、ダブル・ディスク・コート(D・D・C)、フリースタイル、ディスク・ゴルフ、ガッツ、アルティメットです。このうち団体競技は2種目ですが、その一つがアルティメットです。
アルティメット(ultimate)を訳すと“究極”です。スピードと持久力、個人技術、ディスク独特の飛行感覚と一体となり、スリリングな競技となっています。
1チーム7人の2チームが100m×37mのコート内で対戦する競技で、ディスクを空中にパスをして進ませ、相手エンドゾーンでキャッチすれば1得点となります。どちらかのチームが11点先取した時点でハーフタイム、21点先取したチームが勝者となります(大会によっては時間制もあります)。
ディスクを持ったら、パスをするだけで持って歩くことや走ることはできません。投げたディスクがフィールドの外に出たりキャッチできずに地面に落ちたり、相手に空中で奪われると、相手のディスクになります。ディスクの手渡しも認められません。身体接触も禁じられています。
フェアプレー精神に基づき、審判を置かず選手のセルフ・ジャッジで試合が運営されることも特徴です。
通常は屋外で行われる競技で、今までは大学・社会人のクラブチーム等で盛んに行われています。
『車椅子アルティメット』の誕生
私たちが車椅子アルティメットを考えついたのは、車椅子バスケットボールを見たことがヒントになりました。ディフェンスやオフェンスの動きがアルティメットにとてもよく似ていたのです。衝撃的で、これは車椅子アルティメットもできるのではないかと考えました。
車椅子アルティメットは、通常のアルティメットと違って、室内でのゲームとなります。ちょうど横浜ラポールに大体育館がありましたので、そこを利用したいと考えました。職員の方に相談をして体育館や車椅子も貸してもらえることになりました。4年ほど試行錯誤をくり返し、2004年1月に、ようやくスタートすることができました。メンバーは、以前から知り合いの方を中心に集まりました。
チーム名は「ディスク・クレージー」です。人数は18人でうち障害者が13人、健常者5人で構成されています。アドバイザーとして、アルティメットプレーヤー(社会人・大学生)に手伝ってもらっています。
練習は基本的に毎月1回を目標とし、横浜ラポールで行っています。1回の練習時間は、会場の都合にもよりますが、長い時で4時間、短い時で2時間ほどです。
練習内容ですが、パスキャッチの仕方と車いすの操作方法を練習します。アドバイザーとして協力してもらっているアルティメットプレーヤーは、障害のある人たちにディスクの投げ方を教えます。逆に障害のある人たちは、アルティメットプレーヤーに車いすの操作方法を教えます。
パスキャッチは、初めはお互いに静止した状態でディスクを投げ合います。慣れてきたら、一方の人が動きながらキャッチの練習をします。次にオフェンス、ディフェンスの練習です。そして最後にゲームを行います。
ルールは、アルティメットを基本に、私たちが独自に作りました。まだまだ、改良しなければならない部分があると思いますが、以下に車椅子アルティメットのルールをご紹介します。
- コートは室内でバスケットボールコート(28m×15m)を使用し、プレーゾーン(18m×15m)、両端にエンドゾーン(5m×15m)2か所。
- 5人対5人の対戦。
- 試合時間は前半20分、後半20分、ハーフタイム5分、タイムアウトは前後半、各1回1分。
- コートチェンジは、前半終了時に行う。
- メンバー交代は、得点時と怪我をした場合のみとし、得点時の交代は何人してもよいものとする。
- 車椅子は、バスケットボール競技用車椅子を使用する。
- 審判を置かないセルフ・ジャッジ制とする。
- プレー中に、車椅子が転倒した際の補助を行ったり、床に落ちたディスクを拾うために、オブザーバを置く。
- 使用するディスクは実験的に「ファースト・バック」等を使用する。
- スローオフは、攻撃側の選手がゴールラインに着き、味方にパスする。また、パスをする際、手渡しはしない。
- 味方からパスを受けて車椅子が惰性でエンドゾーンに入ったり、サイドラインを越えた場合は、そのラインに戻りゲームを再開する。
- ディスクをキャッチした後、車椅子で故意に距離を稼ごうとする動きは反則で、攻守交代になる。
- ディスクを味方にパスする際、ディスクがサイドラインの外に出た場合は攻守交代になり、出たラインからゲームを再開する。またエンドラインを越えた場合も攻守交代で、ゴールラインからゲームを再開する。キャッチ・ミスで、ディスクが床に落ちた場合は、攻守交代で落ちたところからゲームを再開する。
- 故意に身体接触、車椅子の衝突は、反則になる。
図1 コート
(拡大図・テキスト)
メンバー募集中
現在、私たちが力を入れていることは、障害当事者のメンバーを増やすことです。会場の都合で定期練習日を確保しにくいのですが、練習場所としている横浜ラポールの掲示板にメンバー募集の案内を掲示してもらっています。目に留まりましたら、ぜひ練習をのぞいてみてください。
車椅子アルティメットはまだ生まれたばかりですが、今後、一緒に楽しめる仲間を増やしていきたいと思っています。
興味のある方は、ぜひ見学にお越しください。
(いわさわひであき 神奈川県フライングディスク協会)
●問い合わせ先
- 神奈川県フライングディスク協会
Eメール:knfda@rec-system.co.jp - 「シルバーオックス」(名古屋市、代表・野田俊一、畠山直美)のチーム情報は愛知県フライングディスク協会へ
Eメール:aifda@aichi.email.ne.jp