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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年5月号

わがまちの障害福祉計画 千葉県浦安市

浦安市長 松崎秀樹氏に聞く
市民共働・地域協働のまちづくり

聞き手:河村ちひろ
(新潟青陵大学、本誌編集同人)


千葉県浦安市基礎データ

◆面積:17.29平方キロメートル
◆人口:155,117人(平成18年2月末日現在)
◆障害者の状況(平成17年3月31日現在)
身体障害者手帳所持者 2,098人
(知的障害)療育手帳所持者 384人
精神障害者保健福祉手帳所持者 171人
◆浦安市の概況:
浦安市は、かつて東京に隣接し、三方を海と川に囲まれた「陸の孤島」と呼ばれていた。しかし、昭和46年に漁業権全面放棄を契機に海面埋め立て事業が進められ、面積が4倍にまで拡大。昭和58年には、市のシンボルとも言える「東京ディズニーランド」が誕生。その後周辺地区に大型リゾートホテルやイクスピアリ、ディズニーシーなど東京ディズニーリゾートを構成している。平成16年には人口も15万人を超え、ベイエリアの中核都市として発展を続けている。
◆問い合わせ:
浦安市保健福祉部障害福祉課
〒279―8501 千葉県浦安市猫実1―1―1
TEL 047―351―1111(代) FAX 047―355―1294

▼最初に、浦安市の特色、魅力などをお聞きします。本日初めて伺いましたが、東京都内からとても近いですね。

都心から地下鉄東西線で15、6分、東京駅から京葉線で17、8分でしょうか。交通が便利で住宅地として人気があります。全国的にもディズニーリゾートなどで有名です。

勤勉で有能な市民の皆さんが市政を支えてくれていると思います。住民税の平均額も全国の自治体の中でとても高いのです。そして市民の行政への意識も高くて、障害のある皆さんも元気ですよ。要望をどんどん発言してこられますし、行政もその要望を受けてお互いに意見を出し合っています。そういう意味では、本当にまち自体が今でも本当に若いんです。

▼かつて漁業が盛んだった浦安は昭和46年の漁業権全面放棄を契機に埋め立てが進み、面積は4倍になったと伺いました。浦安市になったのは、昭和56年ですね。

そうですね。市制誕生から今年がちょうど25周年です。私も今から30年ほど前に、ここに来た新住民の一人です。

住民の平均年齢が36.8歳。高齢化率は、この4月1日現在で9.37で、まだ一桁台なんですよ。下町情緒豊かな人情味溢れる地区と、それから核家族で暮らしている人の多い新しいまちと、地区によっても特徴があります。

人口は昭和53年から毎年1万人ずつ増えて、都市成長率は7年間全国1位です。小学校がこの春、新たに2校開校します。

▼市長になられて2期目と伺いました。浦安市の福祉施策に熱心に取り組んでこられた背景などを少しお聞かせください。

私が市長選に出たのが平成10年です。「浦安から福祉流民を出さない」というのが、私の選挙公約です。

市長選よりも前のことですが、愕然としたのは、私の友達や仲間が何人も隣の東京都の区に引っ越したのです。

引っ越した理由は、一つは高齢者福祉問題です。実は友達のお母さんが亡くなって一人で住んでいたお父さんの調子が悪くなって寝込みかけている。そこで福祉サービスを調べたところ、浦安市より隣の区、10分ぐらいで行けるのですが、そちらのほうが絶対いいからという理由でした。私の本当に仲の良い友達だったので非常にショックでした。

また、別の友達が離婚することになりました。それで子育て支援をめぐって、やはり隣の区へ移ることになりました。こういった例が何人か続いたのです。その時、浦安の福祉が遅れていると言われてとてもショックでした。私は当時、県議会議員でしたが、一住民として、実際に隣の区に見学に行きました。それで、ああ、こんなにも違うのかと実感したわけです。福祉を求めて住民が市町村を選ぶ時代なのかと本当に感じました。

▼市長はまた、少人数教育に取り組んでこられたと伺いました。

「福祉流民を出さない」と「少人数教育」が私の二大公約と言ってもいいかと思います。

今年度、小学校が2校、中学校が1校増えて、小学校17校、中学校8校になりますが、市採用の1年契約の非常勤教員を小・中学校に1校当たり3人配置しており、どうしたら少人数教育を実現できるかという検討会を開いて実現させてきました。

▼小学校、中学校の普通学級において、障害のある児童・生徒に配慮し、担任を補助する補助教員を市独自で雇用しているそうですね。その施策の背景をお聞かせください。

浦安市は市長選のときに、これは全国でも早かったほうだと思うのですが、候補者全員が参加して行う公開討論会がありました。福祉が遅れていたということも事実なのですが、そこで、障害のある子どもの親御さんの教育に関する悩みというのを聞きました。

その時の一番の悩みは何かというと、実は普通学級に入れてくださいと。その時に議論していてわかったのは、親御さんや子ども自身が決めることができない状況にあるということでした。

公開討論会の時には、自分がもし市長になったらまず現場を調べます、と、またもう1回議論しましょうということで終わりました。

当時その親御さんたちはボルテージが高いというか、行政への不信感もあったと思います。私も本当に話を聴きますから、と言って議論が始まりました。今から8年前です。そのうちに客観的に見て、どうやらあなたたちの言うとおりだ、となったわけです。

最終的には、就学時の学校選択を親御さんと子どもさんの意志に任せる、当事者に決定権がある、ということを市の方針として明文化しました。そしてそれだけでは現場が混乱するので、普通学級に入る障害児には1人につき1人の補助教員をつけることにしたのです。

▼障害のある子どもに配慮した補助教員は、今何人ぐらいですか。

平成13年には、13人でしたが、平成17年度は102人を採用しています。これは、障害のあるお子さんがどんどん増えていることによります。浦安市の施策を聞いて、よそから引っ越して来る方もいます。

ただ私は、障害のあるお子さんの親御さんは、それぞれの地域でがんばらなくてはいけないのではないかと思うんです。浦安がいいから、どこどこがいいから、とそこへ移ってしまうことで、今まで住んでいた自治体の施策を駄目にしてしまうということもあるのではないか。その自治体の施策を実現するために、そこで血と汗を流している当事者の人たちと共に活動することも大切ではないかと思うのです。このことはなかなか伝わらないのですが。

普通学級を選びたい人には普通学級を、という施策は、私も正直これでよかったのか、と悩みました。でもこんなことがありました。

重度の脳性まひのお子さん、普通の車いすではなくて寝たままで乗る車いすを使っているお子さんが、普通学級に入学しました。教師や他の子の保護者からは「それが教育か」と言われたりしました。そこでしばらく経ってから様子を見に行ったのです。私が行くということが事前にわかると構えられるかと思いましたので、突然、歩いて学校に行きました。

用務員さんに「何をしに来たのですか」と聞かれたので「○○ちゃんに会いに来ました」と言ったら、彼は「○○ちゃん、変わりましたよ」と言うのです。「変わったって、わかるんですか?言葉しゃべれないでしょ?」「何を言っているんですか。ものすごく表情豊かになったんですよ。『おはよう』って言うと『あーっ』って答えてくれるし、『今日は調子悪い?』って聞けば『そうなの』っていう顔してくれるんですよ」ってね。もう私はその一言で今までの迷いが吹っ切れました。後日校長先生も、クラスの他の子どもたちを見て、これはいい教育かもしれないと思ったと言います。

▼今度の「障害者自立支援法」では、就労移行・就労継続支援が施策の柱の一つとされていますが、市長は障害者就労についてどのようにお考えでしょうか。

障害のある方々を地域の中でどのように自立させていくかということは、はっきり言って当事者の方たちが税金を払うというところまで収入を上げていかなければいけないと思います。

浦安は地価がとても高いんです。だから土地は市が手当てするので、それを有効活用して、いかに付加価値の高いものを生産するかを考えましょう、という提案をしています。それこそディズニーリゾートがあり、また結婚式場がこれだけたくさんあるのだから、とね。浦安のホテルは今部屋数がいくつあると思いますか。6500室です。そしてあと1500室増えるんです。たとえば、ホテルのリネンやそこで必要な花や野菜など、ビジネスチャンスはたくさんあるのだから、と働きかけています。

千鳥地区にあるクリーンセンターの余熱利用の土地を市が買い上げて就労施設を作ろうという話がありますが、クオリティの高いものを生産し、採算を考えてやらなければと思います。今年度は、土地を取得する予定で進めています。

また、ご質問にもありましたとおり、この4月からスタートする障害者自立支援法では、就労支援の強化がポイントの一つとなっていますが、4月にオープンした新浦安駅前プラザ「マーレ」の「スワンカフェ&ベーカリー」においても、障害のある方の就労支援を行っていく予定です。

▼浦安ではNPOなどの市民活動が盛んだと伺いました。障害者の就労も、当事者や親御さんだけががんばるのではなくて、市民や事業主の協力が不可欠だと思いますが。

もっともなことです。浦安には、やはりボランティアの中に先駆者がいたのです。この方たちが本当に地道に、活動を続けてきました。それは戦後すぐからです。そこから連綿と続いてきた市民活動は今本当に花開きつつある、という感はありますね。

▼最後に、浦安市における障害保健福祉施策のセールスポイントを一つあげていただけますか。

「障害者一時ケアセンター」というのがあります。これは、介護をしている方の就労、疾病、その他の理由により、一時的に障害のある方の介護が難しくなったときに預け、必要な介護を行うセンターで、基本的に24時間365日の対応をしています。


(インタビューを終えて)

松崎市長は、終始ご自身の言葉で熱心に語ってくださいました。こうして原稿にしてみると、その様子が十分伝えきれていないように思いますが、そこは聞き手の筆力のなさに起因しています。

当日は、オープン直前の新浦安駅前プラザ「マーレ」や障害者福祉センターなどを見学させていただきました。マーレで開所する保育と子育て支援の施設、および就労施設(スワンカフェ&ベーカリー)は最後の準備段階にお邪魔しました。年度末のお忙しいところを対応していただいた障害福祉課の皆さん、施設職員の方々に改めて御礼申し上げます。