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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年5月号

フォーラム2006

車いすJIS改正によりISOとの整合性進展

佐藤正之

福祉用具のJIS

JIS(日本工業規格)は、昨年施行された新制度により、以下の点が変更になりました。

1.JISマーク貼付商品の枠がはずれ、すべての鉱工業品に貼付できるようになった。

2.マークを貼付するためには、国に登録した第三者機関による各製造事業者の工場審査や製品試験を行う。

これにより、福祉用具にも、第三者の認証によって製品の信頼性を示すJISマーク貼付が可能となりました。ただし、対象となる製品は、JIS規格がある製品に限られます。福祉用具のうちで最も早くJIS規格が制定された製品が手動車いすです。

1960年代にはまだ福祉用具に関するJISは制定されておらず、工業製品としての安全基準は規定されていませんでした。1971年になり、手動車いすの品質・性能を規定するJISが制定されました。さらに1977年には電動車いすに関する規格が制定されました。その後も中立者、メーカー、使用者等により構成される原案作成委員会によって規格改正作業が実施され、2006年3月末には手動および電動車いすJISの最新版が発行されました。

車いすISO(国際標準化機構発行の国際規格)との整合性を考慮

国際標準化機構では、1979年にISO/TC173(リハビリテーション機器システム専門委員会)を開設し、1981年にISO/TC136/SC8(家具専門委員会/病院用家具専門分科会)と統合した形でISO/TC173/SC1(車いす分科会)を設置し、車いすの国際標準規格の制定作業を開始しました。これまでに手動・電動車いすに関する国際規格を24種類制定し、現在は制定された規格の見直し、固定装置、シーティングなどの関連規格の制定作業および新たな規格の検討作業等を行っています。

日本からも投票権のあるメンバーとして国際会議に専門家を派遣し、規格制定に参画しています。車いすJISも制定当初は日本独自の規格内容となっていましたが、グローバル化が進むにつれ、国際規格に準じた安全性評価が求められ、ISOとの整合性が進められています。

車いすのJIS改正

JISは、品質の向上、ニーズの多様化、使用者などの要望等に応じ、規格を5年ごとに見直すのが基本となっています。今回の規格改正は、手動車いすについては1998年の第3回改正以来8年ぶり4回目、電動車いすについては1999年の第2回改正以来7年ぶり3回目の実施となっています。これは5年ごとに行われたJIS改正原案作成後に、車いすの手動・電動車いすの改正案が新JIS制度においても十分に効力を果たすように修正が試みられた結果で、変則的な時期における規格制定となっています。

手動車いすJIS改正の要点

製品に対するニーズの多様化から、個別ニーズを満たす機能や用途が車いすにも求められるようになり、型式分類も室内形、パワーアシスト形にまで広げられました。車いすの製作・処方等の基本となる用語については、ISOでの改正作業が進行される中、国内では車いすSIG(日本リハビリテーション工学協会)が中心になり並行して検討作業を進め、ISOに準じた形での改正が実施されました。

用語の見直しの中で、アームレストといった表記については、乗員が休息する意の「レスト」が、介助者が支えるといった意味合いを持つ「サポート」という表現に変更されました。

一方、ISO/TC173/SC1(車いす)国内対策委員会・分科会において、前回見合わせたフットサポート上方耐荷重試験、キャスタ耐衝撃性試験、フットサポート耐衝撃性試験、ハンドリム耐衝撃性試験、車いす落下試験、駐車用ブレーキの耐久性の各項目についても採用し、ISOとの整合性が図られました。従来あった耐衝撃性試験については、構造各部における衝撃試験が採用されことで不要となり削除されました。

電動車いすJIS改正の要点

自操用ハンドル形電動車いすの普及により高齢者の利用者が増えるなか、性能面以外の安全性についても求められるようになってきています。そこで、性能評価以外の、強度関連の試験項目が手動車いすと同様に採用されました。形式分類は、ニーズの多様化に合わせ室内形にまで分類が広げられました。座位変換形では、チルト機構を有しているものまで用途が広げられました。

また、規格の対象も手動車いすに電動駆動装置等を装着した「自操用簡易形」にまで広げられました。この簡易形の性能評価については実情に即した性能値を採用し、試験条件が標準形に適合しない試験項目については適用除外されました。用語は手動車いす同様に見直されています。

強度試験については、手動車いすと同様にアームサポート上・下耐荷重試験、フットサポート上方耐荷重試験、ティッピング耐荷重試験、手押しハンドル耐荷重試験、グリップ耐離脱性試験、並びにその他耐衝撃性試験、耐久性試験、動的安定性試験が電動車いすにおいても採用され、ISOとの整合性が図られました。さらに、動力および制御システムに関する規格についても重要な部分であり、ISOとの整合性が進められています。

一方、連続走行距離測定試験では、測定データのばらつきに影響する環境温度の影響を低減させるため、温度条件の範囲が狭められました。また、走行距離を導く公式についても現状に即した、バッテリー100%放電における計算式に改善されています。

JIS改正で安全面における評価向上

車いすJISにある性能評価試験は、日常生活における車いすユーザー、介助者の操作場面を模擬した条件下での評価を実施しており、この規格に適合することで、必要最小限の安全性を備えた車いすを提供することが可能となります。さらに、性能および強度に関する試験だけでなく、衝突、落下試験等が導入されたことで、耐久面での性能も把握できるようになります。

電動車いすについては、坂道走行における動的安定性試験のデータを情報開示するといった項目が採用されたことで、ユーザーは自分の生活環境において安全に利用できる車いすを選択することができます。たとえば、坂の多い環境に生活するユーザーが坂道での旋回をするような場合には、斜面上での動的安定性試験における性能値を見れば安全に走行できるかどうかの判断が可能です。

また、電動車いすの簡易形がJISの適用範囲に追加規定されたことで、簡易形を利用するユーザーにとっては安全性の向上が図られます。一方、JISの中で基準寸法の定義が詳細に記述されたことで、ユーザーは自分の体格、用途に合った車いすの情報をメーカーカタログから入手することができるようになります。また、処方者にとっては寸法定義が統一されたことで、ユーザーに最適な車いすを提供することができるようになります。

ただ、手動車いすについては、今回の改正で広がった型式分類の「室内型」が、性能評価試験の適用外となっているなど、課題も残されました。今後は適用外の型式の車いすのJISへの適用を検討し、安全な車いすがユーザーに提供できるように、データ収集を進めながら規格化を図っていく必要があるでしょう。

(さとうまさゆき 日本福祉用具評価センター試験事業部長)