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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年5月号

列島縦断ネットワーキング【横浜】

「ファンのメディア」
NPOパラフォトの取材活動

佐々木延江

2006年3月のトリノパラリンピックで、日本代表は9個のメダルを獲得し長野以来の活躍でした。パラフォトのサイト(http://www.paraphoto.org)で伝えていますが、トリノは、ソルトレークからの成長が確認できた素晴らしい大会でした。選手がスポーツの中で成長していくように、私たちも競技に取り組む選手の姿に学んでいます。

私は、はじめ大手出版社で、つぎに地元横浜で地方行政や近郊の企業・教育機関の広報物を扱う小さなデザイン事務所で、情報作りに関わってきました。フリーランスを経て、現在は都内の企業で新規事業のフォトライブラリーを立ち上げ、その運営に携わっています。

私がパラリンピック取材に関わったきっかけは、デザイン事務所の仕事で1998年の長野パラリンピックに参加することになっていた江川善一選手(LW2)に会ったことによります。江川選手は、交通事故で右の膝から下を切断し、1994年(リレハンメル)からアルペンスキーでパラリンピックに参加していました。

私は選手に会うまで、選手のことを「障害者」としか考えていませんでした。選手が持っていた何枚かの写真を見せてもらい、取材をしていくうちに、目の前に座っている人間が、一本足で滑る競技スキーを追求してきた「選手」であることが分かってきました。とても説得力のある写真でした。写真は大事だなと改めて感じました。そして何よりも、世界をめざす選手の話、初めて聞く練習の世界、その表情、全体の雰囲気の熱さの中に、障害者スポーツの世界への尽きない興味が湧き、強さと可能性を感じました。

いい情報を作ろう、情報で人の役に立とう、などと考えていた私ですが、障害をもった人に間近で会ったのは実はこれが初めてでした。我を知り、反省と同時に、パラリンピックの世界の豊かさや選手の存在が、無意識で冷たい社会に何かを伝え、気づかせてくれる大きな存在になるだろうと思いました。

2000年、フリーカメラマンと一緒にシドニーパラリンピックの写真配信をしたことをきっかけに取材を始めました。プロカメラマンの活動を支援する形で始まりましたが、180度転換、非営利活動として2001年にNPO法人化、再スタートしました。さまざまな角度から取材してみたいと考えたからです。

前置きが長くなりましたが、パラフォトとは、パラリンピック、障害者スポーツを「知り、知らせる」NPO活動です。4年に2回のパラリンピック(夏・冬)、及び国内外の大会の現地からの情報をインターネットで配信しています。また、パラリンピックの開催時に国内各地で写真展を開催し、多くの人に障害者の競技を伝えてきました。インターネットの普及により、受信者であると同時に発信者でもあることが当たり前となりました。受信も発信も含めて情報とどのように関わるかというメディアリテラシーの問題は、従来のマスメディアだけの責任ではないと思います。市民メディアとして、パラフォトは「人間そのものがメディア」となって伝える実践をしています。

パラリンピックの取材では、何度か一緒に取材しているなじみのメンバーもいますが、取材どころか障害者スポーツの観戦も初めてという人もいます。カメラマンも、パラリンピックやスポーツを撮影した経験のある人もいますが、必ずしもスポーツ専門のカメラマンではありません。他の編集者やライター、エンジニア、デザイナー、取材サポートのメンバーも同じです。専門知識があればあるほど、現場でそれに左右され、自分の知らないものを観ることができません。知識や技術はあってもこだわらない人はいいですが、やはりそういう人は少ないと思いますから、それであれば、プロでないほうがいいと考えています。

そうは言ってもやはり、メンバーとして集まるのは職業的関心が高い人、カメラマンや情報技術にかかわっている人が多いです。実際は、そういう人が何かの制約をうけずに、自然にこうやりたいと思うことを整理して、取材に参加することが理想です。その取材者が、自分のパラリンピック好きの視点や経験を生かして多くの人に知らせ、ファンを増やすことが、パラリンピック取材のための大事な要素と思います。

トリノパラリンピック取材では、日本代表が参加したアルペンスキー、ノルディックスキー、アイススレッジホッケーを中心に競技写真担当のメインカメラマン3人とサポートカメラマン2人の計5人の写真担当と、ライター、編集サポートのメンバーの8人で取材しました。プロで写真に携わる人、編集者やエンジニアなど情報に携わる人でかつパラリンピックや障害者スポーツを取材し続けてきたメンバーが中心となり、初めてパラリンピックを取材するメンバーには、イタリアに住むカメラマンや発展途上国で障害児教育のボランティア活動に携わっていた人もいました。全員の持っている経験が、トリノの競技取材に注ぎ込まれ取材が行われました。

また国内では、現地からインターネットで送られてくる写真を9つの写真展会場でダウンロードし、写真プリンターで出力しながらパネルを作り、リアルタイムに写真を増やしていく報道写真展(「トリノ2006冬季パラリンピック大会・増える写真展」JPC共催)を企画し、写真提供を行いました。パラフォトの活動は、現地メンバーだけでなく、写真展の準備をしたり、ホームページの更新、送られてくる写真や記事のチェックをするスタッフ、機材提供や技術提供してくれる企業、団体の方々の協力により支えられています。現地取材の調査費、旅費、宿泊費他の経費は現地スタッフが自己負担しています。写真は媒体や使用目的に応じて有償で貸出し、ウェブサーバーなどの維持費を捻出しています。

今回、ホームページと、協力企業が提供してくれた2つのフォトサーバに約600点の写真を掲載、ホームページのページビューは12万件になりました。トリノの選手の活躍が、パラフォトのメンバー、協力者の喜びとなり応援への原動力となったことと思います。

現地取材ではスポーツの楽しさ、選手の成長が確認できましたが、今後の競技環境の課題もたくさんあることがわかりました。詳細は一言では語れません。その一部をホームページに掲載していますのでぜひお読みください。読者の皆さまからのご意見をいただきながら、今後の取材に取り組んでいければと思います。

多くの人の関心を高めたり、気づいてもらうためには、選手が見せてくれる素晴らしいパフォーマンスにいち早く触れたいという人々をネットワーキングすることが重要と考えます。障害やスポーツの問題を定義することはパラフォトの専門ではありませんし、永遠のテーマでいいと思います。感じたこと、そのイメージを表現し伝えることがメンバーの役目です。知り、知らせるパラフォトの取材は、明らかにしつつも、さらに疑問を投げかけるようなことかもしれません。取材をきっかけに、さまざまな角度から関わっていければと思います。

2008年の北京パラリンピックに向けて、これまでの取材の中で比較的関心の高い分野、視覚障害とだれもが楽しめる写真展にテーマの中心を絞り、企画と取材者を募り、本番まで一緒に考えていきたいと思います。ご一緒しませんか。

(ささきのぶえ NPO法人国際障害者スポーツ写真連絡協議会(パラフォト)代表)