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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

フォーラム2006

災害時要援護者の避難対策について
「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」の改訂を踏まえて

丸山直紀

1 はじめに

平成16年に発生した一連の風水害等への対応に関し、高齢者等の避難支援についての課題が明らかとなったことから、内閣府では有識者からなる検討会を立ち上げ、要援護者情報の収集・共有や避難支援プランの策定等について検討を進め、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を昨年3月に取りまとめました1)

そして、昨年9月に有識者からなる検討会を新たに立ち上げ、避難所における要援護者の支援や関係機関等の間での連携についての検討を進め、本年3月、検討成果を取りまとめるとともに、それを踏まえて前記ガイドラインを改訂しております。

2 情報伝達体制の整備

新ガイドラインでは、要援護者を支援するための専用の通信手段の構築やインターネット(電子メール、携帯メール等)災害用伝言ダイヤル「171」等のさまざまな手段を活用し、通信の確保に努めるべきであることが示されています。

〈参考〉

災害用伝言ダイヤル「171」については、新潟県中越地震における伝言の録音・再生で約35万5千件の利用があったが、小千谷市及び川口町の住民調査の結果、被災地で「171」を利用した人の割合は2~3%であったことが判明している。

「171」は、被災者の安否情報を聞き合うことができるものであり、要援護者の避難対策に関しても、発災直後の安否、所在地、必要な支援の内容等を確認する通信手段として活用することが考えられる。「171」を活用して要援護者からの安否情報等を避難支援者、関係機関等が受け取ろうとする場合には、平常時からそのことをお互いに確認しておくとともに、災害時には、要援護者の情報を避難支援者、関係機関等が速やかに確認することが重要である。

「171」や災害用伝言板サービスは、防災週間や防災とボランティア週間、毎月1日(1月1日を除く)に体験利用できるため、それらの機会を活用して操作方法や連絡方法を確認しておくことが重要である。また、点字パンフレットの作成、要援護者を対象とした研修会等の開催を通じ、要援護者本人の理解を促進していくことが重要である。

〈検討報告より抜粋〉

3 要援護者情報の共有

ガイドラインでは、要援護者情報の収集・共有に関し、次の三つの方式を示しています。

  • 関係機関共有方式(=旧「共有情報方式」):地方公共団体の個人情報保護条例において保有個人情報の目的外利用・第三者提供が可能とされている規定を活用し、要援護者本人から同意を得ずに平常時から関係機関等の間で共有する方式
  • 手上げ方式:要援護者登録制度の創設について広報・周知した後、自ら要援護者名簿等への登録を希望した者の情報を収集する方式
  • 同意方式:防災関係部局、福祉関係部局、自主防災組織等が、要援護者本人に直接的に働きかけ、必要な情報を収集する方式

市町村においては、関係機関共有方式を活用することについて消極的なところも多くみられます。しかし、国の行政機関に適用される「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」では、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるときに、保有個人情報の目的外利用・提供ができる場合があることを参考にしつつ(第八条第二項第四号)、市町村は、積極的に取り組むべきであることを新ガイドラインは示しています。その際、避難支援に直接携わる民生委員、自主防災組織等の第三者への要援護者情報の提供については、条例や契約、誓約書の提出等を活用して、情報を受ける側の守秘義務を確保することが重要であります。

4 避難支援プランの策定

地域における避難支援体制を整備するためには、収集・共有した要援護者情報を基に、具体的な避難支援計画を策定し、要援護者と避難支援者とのコーディネートを実施するとともに、日頃から訓練等を実施しておくことが重要であります。そのため、ガイドラインでは、避難支援プランの記載例や策定手順例等が示されています。また、要援護者の避難支援体制の整備に当たっては、地域防災力の強化が重要であり、人と人とのつながりを深めるとともに、要援護者自らが地域にとけ込んでいくことができる環境づくりに努めることが重要であることなどが示されています。

避難支援プランの策定手順例
(関係機関共有方式・同意方式の場合)
  • 避難支援制度の立案(避難支援プランの様式、自助・共助・公助の役割分担、関係機関共有方式により共有する情報と同意方式により新たに収集・共有する情報・項目の整理)
 
  • 関係機関共有方式による情報共有
  • 関係機関共有方式で共有した情報を地図化や住所順にするなどし、避難支援用に整理
  • 消防団、自主防災組織、福祉関係者等への説明会
制度の趣旨について十分な理解が得られるように適宜、様々な関係者に対して開催
 
  • 防災関係部局、福祉関係部局、自主防災組織、民生委員等による、要援護者本人からの情報収集(同意方式)
市町村の広報誌、パンフレットの配布、地元紙等のマスメディアの活用、回覧板等による制度の周知
 
  • 一人ひとりの避難支援プランの策定・整理
  • 消防団、自主防災組織、福祉関係者等への説明会
情報の管理方策についても研修
 
  • 避難支援プランの消防団、自主防災組織、福祉関係者等への配布、訓練
避難支援プラン(要援護者情報)の提供を受ける者の守秘義務の確保
…以後、関係機関共有方式や同意方式を活用しつつ、日常的に登録情報の更新を実施する。  

5 避難所における支援

これまで、避難所における要援護者用の窓口が必ずしも明らかになっていなかったため、要援護者は相談等がしにくく、避難所における要援護者のニーズの把握や支援の実施が不十分となる傾向にありました。そのため、新ガイドラインでは、「避難所における要援護者用窓口の設置」を打ち出しています。併せて、避難所からの迅速・具体的な支援要請や、避難所における要援護者支援への理解促進についての取り組みの方向性を示しています。

また、福祉避難所については、介護保険関係施設における要援護者の受入には限界があることから、緊急入所できない者のために福祉避難所が必要となるものの、市町村の福祉担当者や防災担当者、福祉関係者等の、福祉避難所についての理解が全般的に不十分であるため、平常時及び災害時に十分な取り組みがなされていない状況にあります。そのため、市町村、都道府県、国は、研修や実践的な訓練を実施・促進するなど、福祉避難所についての理解を深めていくことが重要であるとしています。

福祉避難所とは、要援護者のために特別の配慮がなされた避難所のことである。災害救助法が適用された場合において、都道府県又はその委任を受けた市町村が福祉避難所を設置した場合、おおむね10人の要援護者に1人の生活相談職員(要援護者に対して生活支援・心のケア・相談等を行う上で専門的な知識を有する者)等の配置、要援護者に配慮したポータブルトイレ、手すり、仮設スロープ、情報伝達機器等の器物、日常生活上の支援を行うために必要な紙おむつ、ストーマ用装具等の消耗機材の費用について国庫負担を受けることができることとされている。

〈ガイドラインより抜粋〉

6 関係機関等の間の連携

近年の災害においては、ケアマネジャー等の福祉サービス提供者が中心となって献身的に担当利用者の安否、居住環境等を確認し、ケアプランの変更、緊急入所等の対応を行うなど重要な役割を担っています。そのため、新ガイドラインでは、「災害時における福祉サービスの継続(BCP)」を図るべく、被災市町村の福祉関係部局や防災関係部局は、福祉サービス提供者のニーズを積極的に把握し、支援していくことが重要であるとしています。

○障害者団体による積極的な支援活動

近年の災害において、障害者団体は、全国レベルの団体が中心となり、積極的に被災地に支援者を派遣し、視聴覚障害者に対する情報提供、透析患者への透析受入機関に関する情報の提供、オストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)へのストーマ用装具の提供等、障害者の特性に応じたきめ細かい支援活動を実施しているところである。

そのため、市町村の災害時要援護者支援班や、避難所の要援護者班、都道府県等は、平常時から障害者団体と連携関係を構築しておくとともに、発災時は、障害者の避難状況等に関する情報を障害者団体と共有したり、活動拠点を提供したりしつつ、障害者団体による支援活動の促進を図っていくことが望まれている。

一方、障害者団体は、平常時から、支援を必要とする障害者の把握や、関係機関等の間での連携関係の構築、初動対応マニュアルの整備等に積極的に取り組み、災害時には効率的かつ効果的な支援活動を実施することが求められている。

〈検討報告より抜粋〉

また、避難所等での要援護者に対する医療の確保、健康状態の把握、トイレ・階段等への手すり設置等のさまざまな支援活動に関し、医師、保健師、看護師、薬剤師、社会福祉士、介護福祉士、福祉関係者等の果たす役割が大きいことから、これらの者の広域的な応援とともに、「要援護者避難支援連絡会議(仮称)」等を設置し、関係機関等の間で緊密な連携を図ることが重要であるとしています。

7 今後の進め方

本ガイドラインに沿った取り組みは、災害の態様に応じて支援内容は異なり得るものの、基本的な枠組みは原子力事業所等における原子力災害、火山災害等、あらゆる災害に対して活用できるものであります。そのため、想定される災害等、各地域の実情に合わせて進めていくことが効果的であると考えられています。

また、ガイドライン策定後直ちに内閣府、消防庁、厚生労働省連名で地方公共団体に通知しておりますが、引き続き、各種説明会等を活用して理解促進に努めていくこととしています。

(まるやまなおき 内閣府災害応急対策担当参事官補佐)

1)詳細については、「災害時の情報伝達・避難支援のポイント」(災害応急対策制度研究会、 ぎょうせい出版)参照。なお、ガイドライン等は内閣府HPでも公表しております(http://www.bousai.go.jp/index.html)。


災害時要援護者の避難対策に関する検討会
検討報告(概要)

1 避難所における支援

○避難所における要援護者用窓口の設置

  • 災害時に要援護者班は要援護者用窓口を設置し、要援護者からの相談対応等を実施
  • 介助者の有無や障害の種類・程度等に応じて優先順位をつけて対応

○福祉避難所の設置・活用の促進

  • 市町村の防災担当者、福祉担当者、福祉関係者等への周知
  • 福祉避難所となり得る施設の情報を取りまとめて周知をはかり、要援護者が避難所を選択できる状況となるように努めること

2 関係機関等の間の連携

○災害時における福祉サービスの継続(BCP)

  • ケアマネジャー等の福祉サービス提供者との連携
  • 介護保険関係業務等の福祉サービスの継続

○保健師、看護師等の広域的な応援

  • 保健師、看護師、薬剤師、社会福祉士、介護福祉士等の広域的な応援

○要援護者避難支援連絡会議(仮称)等を通じた緊密な連携の構築

  • 避難支援関係者連絡会議を通じた関係機関等の間の情報共有等

3 避難支援ガイドラインに沿った取組の更なる発展

○関係機関等の間の情報伝達

  • 関係機関等における要援護者の支援担当の明確化
  • インターネット、災害用伝言ダイヤル等、多様な手段による通信の確保

○要援護者情報の積極的な収集・共有

  • 関係機関共有方式(個人情報の避難支援体制の整備のための目的外利用・第三者提供)の積極的活用

○市町村を中心とした取組の更なる促進

  • 障害者団体による積極的な支援活動
  • 雪害時の支援等への活用

災害時要援護者の避難支援ガイドライン(概要)

<平成17年3月策定版>

課題1 情報伝達体制の整備
対策:避難準備情報の発令、災害時要援護者支援班の設置 等
課題2 災害時要援護者情報の共有
対策:同意・手上げ・共有情報方式による要援護者情報の収集・共有 等
課題3 災害時要援護者の避難支援計画の具体化
対策:要援護者一人ひとりの避難支援プランの策定 等

「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」での検討

<平成18年改訂版>

課題1 情報伝達体制の整備
対策:インターネット、災害用伝言ダイヤル等、多様な手段の活用による通信の確保 等
充実
課題2 災害時要援護者情報の共有
対策:関係機関共有方式(個人情報の避難支援体制の整備のための目的外利用・第三者提供)の積極的活用 等
充実
課題3 災害時要援護者の避難支援計画の具体化
対策:防災に強いまちづくりの重要性の明確化 等
充実
課題4 避難所における支援
対策:避難所における要援護者用窓口の設置、福祉避難所の設置・活用の促進 等
新規
課題5 関係機関等の間の連携
対策:福祉サービスの継続(BCP)、保健師・看護師等の広域的な応援、要援護者避難支援連絡会議(仮称)の設置 等
新規