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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

NPO法人京都メンタルケア・アクションの活動
―重い精神障害のある人びとの地域での生活を支える―

三品桂子

私たちの夢

どのような重い精神疾患や障害があろうとも、人はだれでも住み慣れた地域で暮らす権利を持っており、それを保障するのが社会の責務であると考え、特定非営利活動法人(NPO法人)京都メンタルケア・アクション(以下「MAC」)は、2004年3月に活動を始めました。活動の主体になっているのは、大学で精神保健福祉士や作業療法士の養成教育に携わっている者、精神科医、弁護士などです。

日本は、世界一人口に対する精神科病床数の多い国であるとともに、重い精神障害のある人の地域生活支援の努力が十分になされていない国です。

私たちの夢は、今、国が示している約7万人の退院だけでなく、閉鎖病棟や急性期病棟に入院している人も対象とし、だれもが入院せずに生活の場で治療を受けながら豊かな生活が送れる社会を創造することです。また、地域で生活していても家族に生活の大半を委ねていたり、精神障害故に路上生活を送っていたりする人もおられます。このような重い精神障害のある人も対象とし、一人ひとりが家族や友人に囲まれ、快適な住居と住み慣れた地域で暮らし続けられるシステムを開発することをめざして活動を始めました。

安心できる地域生活を保障するACT

米国や英国、ニュージーランドなどの多くの先進諸国では、重い精神障害のある人への地域生活支援には、包括型地域生活支援(Assertive Community Treatment:ACT)が必要条件となっています。

ACTとは、ケアマネジメントの1類型で、生活支援サービス、治療、リハビリテーションを統合して、すべてのサービスを地域に出向いて集中的に提供する科学的根拠に基づいた援助方法です。そして、看護師、精神科医、精神保健福祉士、当事者スタッフ、就労担当スタッフなどの多職種がチームを編成し、24時間365日年中無休の出前サービスを提供します。さらに一定の地域を定め、利用者からSOSが出されたら1時間以内に訪問できる体制を整えているのです。このような援助方法を採ることで、利用者も家族も安心して暮らすことができます。

ACT―Kプロジェクト

しかし、この援助方法は、現行の制度では認められておらず、経費を独自に捻出しなければ運営することはできません。それで、2004年6月に往診専門の診療所「たかぎクリニック」を、同年11月に訪問看護ステーション「ねこのて」を開設し、この2機関と当法人の3機関が独自の仕事も持ちつつ、協働してACTを運営することにし、それを「ACT―K」と名付けました(図1)。

図1 ACT-Kプロジェクト
図1 ACT-Kプロジェクト拡大図・テキスト

現在、クリニックには精神科医1人と精神保健福祉士3人、訪問看護ステーションには看護師4人、MCAには、非常勤臨床心理技術者1人、ソーシャルワーカー2人、ピアスタッフ2人が勤務しています。さらにMCAには、大学1回生から大学院修士課程2回生までの学生ボランティア18人が登録し、学習を重ねながら生活支援サービスを提供しています。

ACT―Kとは、図1で示しているように3つの機関が重なっている領域であり、各機関はACT以外の活動も行っています。理由は、ACT以外の対象者であっても既存のシステムでは支援を受けられない人がおられるからです。たとえば、保健所が抱えている未治療の人、家族だけが薬を医療機関に取りに行っている人、医療は受けているがすべての生活を家族に依存している人など、現行のシステムでは対応不可能であり、必要な生活支援を享受できない人の支援も求められているからです。

クリニックの業務は、主として治療と精神保健福祉士による生活支援や家族調整であり、訪問看護ステーションの業務は、在宅での療養上の支援と生活支援です。MCAは、研究チームと実践チームから成り立っており、表1のような業務を行っています。

表1 MCAの業務

  事業の名称 事業内容
実践チーム 電話相談・訪問サービス ACT-K対象者に対する電話相談と福祉サービスを提供するための訪問活動
ピアサポート講座 当事者の学習とピアスタップの養成
学生教育 学生ボランティアの養成並びに卒業と同時に実践できる学生教育の試み。講義と訪問活動のスーパービジョン。
研修会・講演会の開催 国内外の講師を招き、専門家のスキルアップの研修会及び一般の人びとを対象とした講演会の開催
広報・啓発活動 ACT-Kのニューズレターや報告書の作成
研究チーム 調査・研究 ACTの対象者の選定、実践を評価する効果・評価評究、援助プログラム開発、学生教育プログラム開発、ピア・サポーター養成講座プログラム開発

ACT―Kの対象者と効果

2006年3月末日現在のACT対象者は、男性15人、女性20人の計35人です。ACT―Kの活動を開始して、以下のようなことが分かってきました。1.利用者のリカバリを目標とし、生活支援を優先し、治療や訓練は必要に応じて提供することで利用者の地域生活は継続する。2.利用者や地域のストレングスを活用し支援することで、利用者の満足感が高まる。3.入院治療よりも利用者の回復が早い。4.入院治療よりも費用は低額に抑えられる可能性が高い。

今後の課題

ACTの実践を全国で可能にするためにはいくつかの条件整備が必要です。1.MACが行っているような生活支援サービスの経費の確保、2.入院治療は、地域治療の代替であるという発想の転換、3.専門職の発想の転換と援助者の価値観、知識、技術の向上、4.当事者職員の参加、5.ACTの運営基準とその評価機関の整備などです。

今後は、ACTの基準に沿う職員を確保し対象者を拡大するとともに、研究体制を充実し、日本におけるACTの効果を明らかにしていくことが課題です。そして、全国でACTが実践され、どのような疾患や障害があろうとも重い精神障害のある人が地域で暮らせる日本にしたいと思っています。

表2 年齢別利用者数(2005年10月末)

年代 10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代 90代
人数 10 11

おわりに

病院や施設を中心にした援助から、生活の場を中心にした支援に移行するためには、利用者は、患者ではなく、家族の一員であり、市民であり、普通の人である、という視点が重要です。この視点をまず専門職が持つことにより、ACTの活動は始まるのです。

(みしなけいこ 特定非営利活動法人京都メンタルケア・アクション理事長)