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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

ワールド・ナウ

ヨーロッパ障害フォーラム(EDF)訪問記

寺島彰

昨年、わが国にもJDF(日本障害フォーラム)ができたが、ヨーロッパには、すでにEDF(ヨーロッパ障害フォーラム:European Disability Forum)があり、EU地域の障害者団体を代表して活発に活動している。

このたび、このEDFを訪問する機会を得たのでその報告をする。

EDFの歴史

EDFは、障害者のための欧州共同体の行動計画であるヘリオス2プログラム(1993~1996)により誕生した。この組織は、ヨーロッパの国々全体をカバーする初めての組織であり、欧州委員会によって正式に認められた相談機関であった。1996年にヘリオス2プログラムの終了に伴って存立根拠を失うこととなったが、EDFを構成していた障害関係団体は、独立した組織としてEDFを作ることを決めた。これが現在のEDFにつながっている。

EDFの使命

EDFの使命は、障害のある人々の機会均等と差別禁止を推進すること、EUレベルの障害政策に関与しキャンペーンを活発に展開することで障害者の基本的人権を保障することである。「障害者のいないところで障害者に関することは何も決めさせない」ということを行動原理としている。

EDFの価値観

EDFが標榜している価値観は次のとおりである。

  1. セルフ・アドボカシー(Selfadvocacy)
    障害者とその親を代弁する。
  2. 障害者政策への関与(Involvement)
    障害者の権利を実現するために障害者政策に積極的に関与する。
  3. 独立性(Independence)
    EDFの活動や政治的立場を決めるのは会員のみである。
  4. 可視性(Visibility)
    生活のすべての領域で障害者の権利が眼に見える形で実現されることを要求する。
  5. 権利に基づくインクルージョン(Rightsbased inclusion)
    権利として障害者が社会にインクルージョンされることを要求し、古臭い慈善を拒否する。
  6. 連帯(Solidarity)
    さまざまな障害に基づくさまざまな差別に注目し、より強力な連帯に基づく運動を展開する。
  7. 協力(Partnership)
    障害者の権利を実現するために同じ目的をもつすべての組織と連帯する。

EDFの会員

正会員:代表的なヨーロッパの非政府の障害組織、EUIEEA加盟国の障害者の全国的組織

オブザーバー会員:EUIEEA以外の障害者の全国組織

賛助会員:EDFの目的と目標を尊重し支援するヨーロッパ内の障害者関係団体とEDFの活動に興味をもつ個人

2004~2007年の目標

  1. 各国およびヨーロッパの強力な組織からなる協力かつ結集力のある障害者運動
  2. 障害者組織を中心とした障害関係者による障害者の権利に対する理解を進めること
  3. 差別禁止法と積極的な活動により障害者の権利の保護を進めること
  4. すべての関連政策において障害者の主流化を進めること
  5. より広範かつ効果的なモニタリングと報告を通して、障害者の権利を高度に強化すること
  6. 産業組合、雇用主、マスコミ、地方自治体などに障害者の権利と利益に関する理解と責任をより強く求める
  7. すべての生活領域と社会活動において、障害者や障害団体が目立つように積極的に参加する機会を増やすこと
  8. 前記のすべての目標を達成する際、障害者団体がこれらの成果から排除されないこと

2004~2007年の緊急課題

  1. 障害組織の能力向上
  2. 障害者の権利のためのキャンペーン活動
  3. 次のような領域における障害者の主流化
    ○EU行動計画
    ○雇用、社会政策、社会保障
    ○建設基金
    ○空、陸、海の輸送
    ○建築
    ○情報社会、通信、支援工学
    ○一般サービス
    ○教育、文化、メディア、スポーツ
    ○研究開発
    ○消費政策と標準化
    ○発展協力
  4. すべての障害者が排除されないように特定の障害者団体(女性障害者、いろいろな介護を必要とする障害者、若年障害者、少数民族の障害者、精神・知的障害者)を包含すること
  5. 雇用主、労働組合、メディア、地方自治体、産業などの重要機関との協力関係の構築

最近の動向

EDFで情報と会員の担当をしているバレリーさんに最近の状況について尋ねたところ、現在、次のようなことに力を注いでいるということであった。

2004~2007年の目標にもあるように、障害者差別禁止法などの多くの法律を根拠にして障害者の権利の保護を進めようとしていることから、最近、特に取り組んでいることは、国連障害者権利条約を成立させるために、EU政府や各国の政府に対するロビー活動である。

また、2007年は「すべての人のための機会均等(equal opportunity for all)の年」とされているので、EU加盟各国の障害者団体がいろいろなマイノリティーグループと協力しながら、障害者に対する差別禁止の運動を展開しようとしている。

また、昨年、移動障害のある航空旅客者に関するEU規則案を出させることに成功し、障害者が航空機を利用するときには無料で介助を受けられるようになったことから、最近は、鉄道、船舶におけるインフラの整備に力を入れている。現状では、EU域内の交通におけるアクセシビリティーはあまりよくない。たとえば、駅のプラットホームの高さは国によって違い、駅員に移動介助を依頼するには、48時間前に申し込んでおかなければならない。

さらに、新しい建物や道路を建設する時は、アクセシブルにするよう各国政府に対して働きかけを行っていたり、一部の加盟国では障害者施設が多くある国があるので、そのような国々においては施設解体の取り組みを行っている。

おわりに

EU加盟国は障害者の権利に対する理解の程度にかなりの温度差があり、そのギャップを克服するためにEDFは苦労しているようである。そして、EDFは、法律を根拠にした障害者の権利保障に取り組むことにした。近年、世界は、アメリカ合衆国のリードのもと新保守主義への傾向を強めているが、その特徴のひとつは市場主義であり、多くのことを市場の決定に委ねようとしている。障害者の権利保障を実現できるのは、市場なのか法律なのか。このような問題について、改めて考えさせられた訪問であった。

最後に、突然の訪問にもかかわらず温かく受け入れていただいたEDFの皆様に感謝申し上げます。

(てらしまあきら 浦和大学総合福祉学部)

表 障害者の差別禁止に関するEUの動向

1997年 EU条約第13条差別禁止条項採択
同条は、性別、人種、出生地、宗教または信念、障害、年齢、性的嗜好による差別撤廃のためにEU議会が適切な行動をとることができることを規定しており、これ以後の一連の差別禁止の取り組みの根拠となった。
2000年 雇用と職業における公平な取り扱いに関するヨーロッパ指令
障害などを理由とした雇用差別を禁止しており、差別撤廃のための強力な手段を提供するとともに労働市場における障害者の地位向上につながった。
2000年 EU基本的権利憲章に障害者に関する2条が追加された。
II-21条は、性別、人種、肌の色、出身、障害等による差別を禁止している。
II-26条は、自立、社会的・職業的統合、地域生活の参加のための施策による利益を障害者は享受できる権利があることを、EUは認識し尊重しなければならないとしている。
2001年 バス・コーチEU指令
新しいバスはすべて、移動障害者、視覚障害者、聴覚障害者にアクセシブルでなければならないというもので、2003年8月までに加盟国で立法化しなければならないとされた。EDFは、そのモニタリングを行っている。
2003年 ヨーロッパ障害者年
2004年 公的調達に関するEU指令
公的機関が購入する製品やサービスのアクセシビリティーを確保することが含まれており、2006年2月までに各国の法律とすることとされている。
2005年 移動障害のある航空旅客者に関するEU規則
飛行機や空港をアクセシブルにすることを規定。