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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年6月号

ワールド・ナウ

バングラデシュにおけるNGOの障害への取り組み

上野悦子

はじめに

バングラデシュは、インドと同様にNGO大国と呼ばれ、その数は30,000に上ると言われている。その多くは保健、教育、収入創出など住民の生活向上にかかわる地域開発を行っている。しかし障害のある人の開発のプロセスへの参加は、周囲の否定的態度や障害者のニーズへの対応に関する知識や技術不足などの理由から非常に限られていた。そのような状況の中で、開発に障害を含んだ活動を実施しているCDD(Center for Disability in Development:開発における障害センター)というNGOがある。たまたまバングラデシュ訪問の機会を得た今年2月に、CDDとそのパートナーであるいくつかの開発NGOを訪問してきたので報告する。

CDDの活動

CDDは、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)の実践の戦略といわれる、CAHD(Community Approach to Handicap in Development:開発におけるハンディキャップへのコミュニティアプローチ)を実施している。CAHDはコミュニティの開発に障害を統合するという考えで、1994年に開始された。開始前から行われていた経験が体系的に取り組まれるよう国際支援団体(HI、CBMなど)の協力により開発されたものである。

CDDの事務所はダッカから車で40分程の郊外にあり、スタッフは60人余りで障害のある人もいる。事務所から少し離れた場所に2つの研修センターを持っている。

パートナーとなるNGOの選定は入念に行われている。パートナー団体の活動力によって、障害を含める活動が継続されるかどうかがかかっているためである。当初はパートナー団体を探すためにCDDからアプローチをしていたが、最近では団体からの申し込みが増え、200団体が待っている状態だそうだ。書類審査が通ると、まずその団体のマネジャークラスに障害に対する考え方、さまざまな障害への対応の仕方に関する研修を実施したうえでCDDと契約を結ぶ。選定では組織の財政力、人材、開発の十分な経験があること、などが考慮される。そしてマネジャーにはCBRワーカー(コミュニティの障害の問題に取り組むリソースパーソン)として研修を受けるスタッフを推薦してもらう。簡単なセラピーを含むリハビリテーション研修で、合計で9か月とCDDの研修の中では最も長い。

もうひとつの柱となるのは、障害に関するソーシャル・コミュニケーター(SC)の研修である。SCは地域社会の人々や家族の障害者への意識の変化を呼び起こすためのファシリテーションを行う人のことである。SCは、コミュニティの小さな集まりで、フラッシュカードと呼ばれる紙芝居のような絵を用いて障害者とその家族へ障害に対する肯定的な考えをもってもらうためのメッセージを伝える。

パートナー団体の具体的な活動

CDDのパートナー団体のひとつ、GUBを訪問した。ダッカから北へ車で3時間のボグラにあり、保健、教育などのコミュニティ開発プログラムを行っているNGOである。1997年にCDDのパートナーになった。今ではCBRセンターを持つまでに障害への取り組みを発展させてきている。障害者の自助グループの促進も行い、私が訪問したときには、あるメンバーの農家の庭にござを敷いて弱視や肢体不自由が中心の障害のある人が15人ほど集まり識字クラスが行われていた。ミーティング終了後、そのグループの一人であるポリオの青年は、トライシクルという3輪の車いすに乗ってみせてくれたが、それはコミュニティの人がお金を出し合って買ってくれたものだという。GUBの代表者になぜCDDのパートナーになったのかを尋ねると、障害問題を社会問題の一つと捉えているから、という返事が返ってきた。

次にボグラから車でさらに1時間ほどかかる北部のガイバンダにあるGUKというNGOを訪問した。ガイバンダは毎年、ブラマプトラ河の洪水に見舞われる地域である。GUKはスタッフ360人、ボランティア300人を抱える大きな地元のNGOで、1985年に現在の代表により設立され、洪水災害時の緊急救助を行ってきた。GUKは9隻のボート、車1台、オートバイ40台、自転車300台を保有し、80人が泊まれる研修センターも持っている。2004年に国土の3分の2が水に浸かる大洪水に見舞われたとき、HIのイニシアチブで、障害者支援も含めるようになった。そして2005年にCDDのパートナー団体になり、すでにCBRワーカーとして2人のスタッフが研修を受けている。

GUKは緊急救助から出発して、今では災害準備をコミュニティ開発の一つと捉え活動の幅を広げている。ブラマプトラ河にある中州の島々には貧しい人たちが多く住んでいるが、その中には障害のある人もいる。中州なので、洪水が発生すれば真っ先に被害を受ける地域である。島の1つを訪問させてもらったが、そこにはコミュニティの人たちが力を合わせて土を盛り、平らにならして500人が緊急避難できる場所が作られていた。同じ場所に中学の2クラス分の校舎や物を売る小さなマーケットも作られていた。現在は、住民の祝事など多目的に使用されている。

GUKはCDDのパートナーになってから、災害救援では障害者を優先し、さらに避難所をアクセシブルにすることや、災害時の情報や警告が障害のある人を含むすべての住民に届くようにする方法を検討している。CDDのパートナーになることで、それまでの障害者に対する慈善的な接し方を改めるようになった。訪問した時には、研修センターでちょうど「災害と障害」に関するセミナーが開かれており、CDDの2人のスタッフがダッカからやってきてファシリテーターを引き受けていた。

CDDは、ほかにも視覚障害者向け音声読み取りソフトのベンガル語化をIT企業の協力を得て進めたり、聴覚障害団体とともにベンガル語対応の手話の収集も行っている。

おわりに

CDDは、人材養成やアドバイスなどが中心でパートナー団体に対しては資金も物資も提供していない。人が発展することが活動のリソース拡大につながっている。CDDとパートナー団体とのかかわりには終わりはなく、研修プログラムも開発の一部と考えているように思える。

CDDの今後の課題は、今は研修の場所はダッカだけなので、地方でも分散して研修を受けられるようにすることやサービスの向上、長期的財源を確保することである。

バングラデシュに詳しい斉藤千宏氏は、日本人は途上国の人々に何かをしてあげる対象と見る人が多いことを「してあげるシンドローム」と表現した(アーユス、ニュースレター、1999年10月15日、vol.39)。斉藤氏によれば、バングラデシュで開発に携わる現地の人は問題分析や解決のための教育や訓練を受け、実践経験も積んでいるという(斉藤千宏、『国際ボランティアレポート―バングラデシュでの実践』1997年)。CDDも例外ではなく、実践と研究を行うプロフェッショナルの集団と言える。日本が援助国として途上国を見るという視点から少し離れ、対等な立場に立って、現地NGOの豊かな開発の経験に触れてみてはどうだろうか。

(うえのえつこ 日本障害者リハビリテーション協会国際課)