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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年7月号

1000字提言

自己満足からの脱却

武田元

蔵王すずしろの今年度利用者月額賃金は約6万円です。7万5千円が1人、7万円が15人、6万5千円が1人、6万円が10人、その他16人です。目標としてきた7万円まで全員が到達するのももうすぐです。なぜ7万円か。現在私たちの法人が運営しているグループホームの1か月の生活費が7万円だからです。家賃、食費、日用品、その他生活に必要な経費すべて含めて7万円あれば暮らすことができます。この7万円を授産施設が保障できれば年金が丸々残りますから、親亡き後も地域で当たり前の暮らしが実現できるに違いない。私たちはそう考えました。

蔵王すずしろの利用者賃金体系は年功序列です。通所1年目は4万円、2年目は4万5千円、3年目は5万円、経験1年ごとに5,000円ずつアップします。6年経てば全員自動的に7万円に到達します。障害の程度も生産性も関係ありません。もちろん、休んだり仕事をしなければ賃金は少なくなります。一定時間仕事をしたという前提での賃金体系です。

ところが、私たちの目論見はものの見事に打ち破られました。障害者自立支援法での応益負担の実施です。給食費を含めれば、軽減措置の対象にならない人で約3万円の自己負担が生じました。送迎サービスを利用するとさらに1万5千円かかります。7万円はあっという間に半減してしまいました。自立支援法という名称が空々しく聞こえます。

この事実にどう対処すればいいのか。7万円も払っているのだから、施設利用料を負担してもまだ残るのだから、他の施設に比べれば…、これは自立支援法のせいで自分たちはやるべきことを十分やってきた等々、自分自身を満足させようと思えばできないことはありません。しかし大事なのは客観的な事実として、障害の重い人の暮らしが守られているかどうかです。暮らしは現実的な営みです。今、の問題です。

方針を見直すしかありません。そうでなければ彼らの暮らしを守ることはできません。蔵王すずしろは利用者月額賃金7万円を標榜してきましたが、今後は、利用者月額手取り賃金を7万円にしようと考えています。このことはできるかどうかの可能性の問題ではありません。何としても達成しなければならない現実的課題です。端的にいえば、たとえ障害があったとしても、たとえ働く場が授産施設であったとしても、1か月働いて手にするお金が、1万円とか2万円だったら、それはおかしいことなのだということに気づく必要があります。そこからのみ新たな展開が生まれる。私はそう思います。

(たけだはじめ 知的障害者通所授産施設蔵王すずしろ施設長)