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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年7月号

わがまちの障害福祉計画 山梨県南アルプス市

南アルプス市長 石川豊氏に聞く
アルプスの山々に誓う未来にひらく豊かなまちづくり

聞き手:北野誠一
(東洋大学ライフデザイン学部教授、本誌編集同人)


山梨県南アルプス市基礎データ

◆面積:264.06平方キロメートル
◆人口:72,756人(平成18年6月1日現在)
◆障害者の状況:(平成18年6月1日現在)
身体障害者手帳保持者 2,750人
知的障害(療育手帳保持者) 368人
精神障害保健福祉手帳保持者 354人
◆南アルプス市の概況:
3000m級の山々が連なる南アルプスの登山口として、年間を通して観光客が訪れている。県西部に位置し、6か町村の合併により県内第3位の人口で、人口増加率も高い。桃源郷のイメージさながらの豊富な果物、温泉、雄大な自然を生かしたアウトドアスポーツなど、イベントも数多い。合併後も毎年開催されている桃源郷マラソンには、今年も約4500人が参加。市のシンボルマークは人と山の調和をめざしたデザインで、市民憲章は「アルプスの山々に誓います」と結んでいる。
◆問い合わせ:
南アルプス市保健福祉部福祉課
〒400―0395 南アルプス市小笠原376
TEL 055―282―6197 FAX 055―282―6095

▼石川市長は旧櫛形町長時代を含めると21年のベテラン首長ですが、どのようなご経験が、現在の市政の基本となっておられますか?

一つは、山梨県行政で、障害福祉課長から最後は出納長まで経験したことで、行政に必要な施策から予算編成まで、全体的に見通せる立場にいたこと、もう一つは、昭和50年に山梨県下に構想された社会福祉村の件で、県知事とともにヨーロッパ各国とアメリカ・カナダを視察した際に、障害者を受け入れる市民の側の理解や体制が大切なことを学んだことです。そのことが、現在の地域での障害者の受け入れやボランティア活動の推進、さらには、市民活動センターに生きています。

市民活動センターは、元ボランティアセンターと呼ばれていましたが、地域でのボランティア活動を越えて、地域住民がさまざまな形で市政に参画することを支援するために発展的に名称変更しました。現在、山梨県立大学とのジョイントのプロジェクトを立ち上げて、3月には「地域づくりと市民のエンパワメント」に関する公開シンポジウムを行い、私もパネリストとして発言してきました。

▼6か町村が、平成の大合併としては早期の平成15年に南アルプス市となったわけですが、その間の経緯や、合併のメリットなどをお聞かせください。

実際には、合併前から、警察や消防だけでなく、農協も青年会議所もライオンズクラブもロータリークラブも広域行政圏として一つだったんです。これが素地としてありましたね。しかも各種補助金も地方交付金も厳しい時代に、小さな町村では、運営は苦しい。もちろん、相対的に豊かな村の抵抗や、議員定数の問題もありました。合併当時は、既存の町村から選出された議員は96人にも上りましたが、最終的に28人となり、それも合併のメリットだと思います。

合併時の最大の問題は、新しい市の名称をどうするかでした。そのための委員会では、最後に広く市民から公募して3つ残った中で委員投票を行いました。若手の委員からも支持があり、40歳以下の市民は圧倒的に南アルプス市を支持しました。結局議会は、そのことを踏まえて、現在の名称になりました。そのことは結果的によかったと思っています。南アルプス市になってからテレビなどのマスメディアの取材が増え、全国的に名前が知られ、注目されるようになりました。

▼では、この南アルプス市の魅力はどこにありますか?

南アルプスと言えば富士山に次ぐ、わが国第2の高峰「北岳」、そしてさくらんぼ、桃、ぶどうなどの果物と花いっぱいの「桃源郷」と呼ばれる風光明媚な自然や農作物、そして9か所もある温泉などでしょうか。シーズンを通して登山客や観光客が多く訪れています。市のホームページでも観光情報には力を入れて、広報に努めています。

▼南アルプス市の障害者施策の特徴について教えてください。

長い間の社会福祉村と地域住民の交流の結果、身体障害者だけでなく、知的障害者や精神障害者への理解も進み、それが、作業所、グループホーム等の地域施設を市民が反対することもなく受け入れることに繋がっていると思います。民間の施設が多いのも特徴です。精神障害関係の施設も人口割合からみても多いと思いますよ(編集部注・グループホームや作業所等8か所)。精神病院の退院促進事業の利用者の地域での受け入れも始まっています。先日も、退院促進事業の発祥の地である大阪精神医療人権センター事務局長の山本深雪さんにお来しいただいて、お話をしていただきました。

また、南アルプス市は公共交通機関等が十分整備されていない状況がありますので、移動手段への公的支援が必要です。そのため、通院やリハビリ、買い物などに利用するタクシー券等の外出支援にも力を入れています。

▼昨年策定された「地域福祉計画」や自立支援法に基づく「障害福祉計画」についてお聞かせください。

合併直後の15年度から2年かけて、「一人ひとりの個人の尊厳」と「多様な生活課題に地域全体で取り組む、自立した日常生活のための支援」をその理念・目的とする、「南アルプス市地域福祉計画―ともに生き支えあう地域づくり―」を作成しました。策定委員会には、学識経験者や保健・医療・福祉の関係者のみならず、障害当事者や公募市民が参加して、15回に及ぶ策定委員会を開催しました。策定にあたっては、市民に対するアンケートやヒアリングなど社会福祉協議会の協力をいただきました。この地域福祉計画は17年度から21年度までの5年間の計画です。

また、障害者施策推進協議会の委員は20人でそのうち障害者本人が8人、家族も含めると過半数が障害当事者です。このメンバーで、4月から施行された自立支援法に基づく「障害福祉計画」を策定する予定です。

▼南アルプス市では統合保育はもとより、学童保育にまで障害児の受け入れを進めていますが、障害児や子どもたちに対する施策はどのようになっていますか?

地域福祉計画にもあるように基本は障害がある子どもも障害のない子どもも共に生き、学び、支えあうことです。そのため、できる限り地域の保育所で共に育つことができるよう、統合保育を進めています。現在、21か所の保育所に、20人の加配の保育士の支援を受けながら、24人の障害児が通っています。

放課後の子どもを対象にしたいわゆる学童保育も合併前はない小学校もありましたが、合併を機にすべての小学校単位に設置して、3年生までの子どもたちが、障害のあるなしに関わらず通っています。昨今の子どもの痛ましい事件を聞くたびに安心できる子どもの居場所を作ることは大切だと思います。親も安心して働くことができます。障害児に関しては、今年度から、モデル的に4年生の子どもも受け入れることにしました。もちろん、障害児1人につき1人の指導員を配置しています。

また、この4月から、乳幼児から高校生まで、土日も自由に使える「南アルプス市立青少年児童センター」(南風 Nanpuー)がオープンしました。高校生までを対象とした施設であるため、平日は夜9時まで使用できます。保育室、調理室、多目的交流スペースや音楽スタジオや体育館などもあり、もちろんバリアフリーで、障害児も利用できます。市民の要望を取り入れ、地域社会一体となって子育て支援に取り組んでいこうとしています。

▼県下で初めて「災害時要援護者支援マニュアル」を作られたきっかけは何でしょうか?

東海地震の強化対策地域に入っていることもありますが、今回の新潟県中越地震等の教訓を活かし、いかにして、要援護者を身近な地域住民が支援できるのかを中心に考え、いち早く取り組みました。南アルプス市には133の自主防災会があるので、本人の了解を得て、地域の防災会の支援員だけが要援護者を把握することで、個人のプライバシーと安全性のバランスを図りました。個人情報保護も大切ですが、命を守ることはもっと大切です。

▼市内の公園でホースセラピー(乗馬療法)をやられているようですが、どのようなものですか?

白根乗馬福祉公園の乗馬施設で実施されている全国的にもユニークな事業です。馬とのふれあいによって、心身に障害のある人の健康の増進や姿勢をよくするなど最小で最大の効果があり、あるいは公園でさまざまな人と関わることで人間関係の形成や社会参加の推進等が期待できます。現在では、指定管理者制度によって、民間委託となり、新しい展開が期待されています。


最後に、インタビューに答えていただいた石川市長さんに対する印象を述べて、このインタビューの締めくくりとしたい。現在78歳の市長さんは、その年齢を感じさせないというか、その年齢に相応しい経験知をしっかり踏まえながら、それでいて、市民生活に対する感性や感度は極めて若々しく鋭いという印象を持った。長期にわたる行政マンとしての卒のなさと、その年輪ゆえの懐の広さを感じさせる。

インタビューの間は職員抜きで、よどみなく話をされ、インタビュアーが「青少年児童センター」に関心を示すと、インタビュー終了後、自らそこまで案内して、紹介してくださるという、フットワークの良さ・軽さも印象的であった。

6か町村が合併してできたこの南アルプス市は、現在旧櫛形町役場が市役所となっており、行政機能の集中化とネットワーク化という大きな課題を抱えている。目立ちたがり屋で後先を考えない市長なら、真っ先に市役所を新設しようとするに違いない。ところが、石川市長は、県政で出納長まで経験した、行財政に極めて明るい人である。そのことはすぐには無理といい、障害者を含めた市民生活に直結した施策を中心に据えて市政を進める市長には、共感が持てる。今後の障害福祉計画の展開に期待したい。