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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年7月号

ブックガイド

障害と開発に関するお薦めの本

中西由起子

障害を従来からの福祉の枠組みでとらえている日本では、開発の観点からの障害に関する論議は始まったばかりである。そのため「障害と開発」に関する本も少なく、著者や出版社が限られる傾向にある。

入門書として広く普及しているのが、本誌2004年12月号「ほんの森」でも紹介された「リハビリテーション国際協力入門」(三輪書店、3,150円〈税込〉)である。障害分野の概要を、青年海外協力隊をはじめとする開発や国際保健分野で直接障害分野に関わる人たちが把握できるように書かれている。そのため青年海外協力隊員体験から始まり、途上国における障害問題の現状、開発における障害を読み解く視点・考え方、国際協力として障害と取り組むための視点と方法など、具体的に説明している。

「アジア・アフリカの障害者とエンパワメント」(明石書店、5,040円〈税込〉)は草の根レベルから障害と開発を論じた入門書である。インド、ヨルダン、レバノン、そしてアフリカのタンザニアやジンバブエで社会開発に従事している障害者へのインタビューを通して、はなはだしく異なった文化や政治の中で従来の慈善的方法を脱してどのような障害に関する社会的活動が行われているかの現状報告や、障害の経験の是非、障害者の政治活動の重要性など障害の社会的、政治的、開発的側面の概要を述べている。彼らは障害を否定せず、障害故に見えてきた価値観や達成できたことを淡々と語る。その背景には日本ではとうに忘れ去られた厳しい経済情勢や人権無視の状況があるが、彼らは自分たちが成し遂げたことを時には嬉々と語る。

中級編の推薦書としては、開発と障害への理解を進める一助として、地域や国、団体など特定状況を扱った3冊を紹介しておく。

「国際的障害者運動の誕生:障害者インターナショナル」(エンパワメント研究所、2,100円〈税込〉)は慈善とパターナリズムからの脱却から始まる第二次世界大戦後の障害当事者主体の施策の変化を背景として、障害種別を越えた当事者の国際ネットワークとして形成されたDPI(障害者インターナショナル)の成り立ちと国際レベルでの活動が紹介されている。

「アジアの障害者と国際NGO―障害者インターナショナルと国連アジア大平洋障害者の10年」(明石書店、2,625円〈税込〉)は、20世紀における障害者関係の自助団体である国際NGOがアジアにおいて障害者の人権・平和・福祉等に大きな貢献をしている現状を検証している。一例としてDPIが取り上げられ、アジア太平洋障害者の10年行動計画(アジェンダ・フォア・アクション)に沿ってその理念、目的、活動戦略が会員各国でどのように発展してきたかが語られている。

上級編としては最近出版されたばかりの「人間の安全保障を踏まえた障害分野の取り組み―国際協力の現状と課題」(国際開発高等教育機構、非売品)を推薦する。平成17年度、外務省個別委託事業として開催された障害分野における「NGO研究会」の報告書である。「人間の安全保障」の概念に基づいた障害分野の国際協力を研究テーマとしている。最近の潮流、焦点、アプローチなどについて、関連NGO間および援助機関と情報を共有しながら、障害分野で活動する日本のNGOの専門性と組織的な能力を高め、障害分野におけるNGOの裾野を拡大し、開発援助における障害のメインストリーム化を促進することを目的として、障害当事者を含む研究者の約1年にわたる討議がまとめられている。販売はされていないが、http://www.fasid.or.jp/chosa/kenkyu/ngo/pdf/handbook.pdfから閲覧が可能である。

「国際連合と障害者問題 重要関連決議・文書集議・文書集」(エンパワメント研究所、4,725円〈税込〉)は国連でのさまざまな障害者に関する宣言、国連総会決議、国連諸団体の宣言や声明などが掲載されている。これらを受けて、途上国の障害の分野では開発が進められているわけであり、この分野の研究者なら何度となく手にしなければならない本と言える。

現在、途上国での開発戦略の一つとされているのがCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)である。CBRの基本を説いたものとしては「障害者の社会開発―CBRの概念とアジアを中心とした実践」(明石書店、2,310円〈税込〉)と「偏見と尊厳 地域社会に根ざしたリハビリテーション入門」(田研出版、5,250円〈税込〉)がある。前者はCBRを障害者の権利を擁護する開発戦略と見て、CBRの構築や実施の方法を詳説し、アジア各国での実践での具体例を示しながら現状分析を行っているCBR入門書と呼ぶにふさわしい本である。後者はCBRの定義と基本概念や途上国の問題の概説、配慮が十分な社会づくりの必要性など、広く世界で使われているWHOのCBRマニュアルの背景説明となる。

これら2冊は上級編ではあるが、CBRへの導入書であるので内容は比較的平易であり、途上国でよく用いられる参加型アプローチを理解するためにも重要である。

(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表、本誌編集委員)