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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2006年9月号

ゆめ風基金の被災障害者支援活動

八幡隆司

設立経過とこれまでの支援活動

ゆめ風基金は、1995年に起きた、阪神・淡路大震災での障害者支援活動をきっかけとして設立された団体です。

ゆめ風基金は、最初の10年間の活動として「阪神・淡路大震災で被災した障害者支援を長期に行うこと」「あらたな自然災害が発生した場合に、すぐに障害者支援を行うこと」を主な活動の柱としてきました。そしてこれまで国内外で起きた20の災害に対して、障害者市民の支援活動を行ってきたのです。

ゆめ風基金が設立されて10年目にあたる2004年に新潟県中越地震が発生し、被災障害者支援に駆けつけましたが、災害時に障害者市民が置かれている状況が、この10年間ほとんど変わっていないことを強く感じました。またそれは震災に限らず、この数年多発している水害も同じことで、避難所の改善がされていないために、避難所に行けない障害者市民が多くいたのです。

災害が起きてから支援を行うだけでなく、災害が起きる前に備えておかなければならない、環境整備、支援体制があることを強く感じました。

ゆめ風基金では活動の節目となる11年目に際し、「障害者市民の防災活動」を活動に加えました。

どこに、どうやって避難するのか?

2004年9月から「障害者市民防災まちづくりアイデアコンテスト」として、障害者市民の防災に役立つアイデアを募集しました。全国から315点の応募をいただき、2005年6月の十周年記念事業で最終審査と表彰を行いました。この中でも避難方法や避難所に関する応募が99件ありました。

災害が起きたときに、どうやって逃げるのか? どこに逃げるのか? は障害者市民にとって重要な課題です。十周年記念事業終了後の8月から「障害者市民防災提言集」作成の取り組みをはじめ、障害者市民の声を反映させたいと、9月から11月にかけてアンケート(以下、ゆめ風アンケートと記す)を行いました。障害者団体や個人、支援者などから255件の回答をいただきました。

ゆめ風アンケートに寄せられた避難所に対する主な意見では、

●避難所まで遠すぎて、自力での移動は困難。各自治会あるいは民生委員等でサポート体制を構築しておいてほしい。

●地域とのつながりが薄く孤立しやすい。当事者のみでの避難には限界があると思う。つながりをサポートできるセンターが必要。

●おおかたは介護者がいるので対応できるが、夜間は介護者なしになるので困る。

避難方法の問題では、

●避難所が2階で障害者トイレがなかったため避難しなかった。2階までのスロープ、トイレは必要です。ハード面の改造をしてほしい。

●重度障害者が避難できるような避難所はそもそもなかった。また、中越地震の際は親と一緒だったし、避難するまで行かなかったのでそれほど困らなかったのですが、もし1人だったらと考えると今でも本当にぞっとします。

など、避難所に関する問題が浮き彫りになっています。

既存サービスを利用した災害時支援を

災害が発生したり、洪水被害の恐れがあったりする時に、避難所へ避難する方法として、地域のネットワーク活用が重要であるという声は多くあげられています。国でも昨年に「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」が作られ、自治体による要援護者の把握と自主防災組織を活用した災害時の要援護者支援の計画づくりを進めようとしています。

災害時に地域や障害者団体などさまざまなつながりが被災障害者支援に役立ったことは、阪神・淡路大震災でも数多く見られたことですが、当時に比べると今は、介護保険制度や支援費・障害者自立支援法による福祉サービス提供の仕組みができあがり、民間での福祉サービス提供事業者が非常に数多く生まれています。

新潟県中越地震を見ても、介護保険事業者による避難所でのヘルパー支援が数多くありました。

隣近所の関係ももちろん大事ですが、ゆめ風基金としては、障害者市民が日頃利用している介護などのサービス提供事業者や施設、作業所などが、災害時に有効に機能する仕組みづくりをさらに進めるべきだと考えています。

福祉避難所の指定など避難所の改善

避難所についても阪神・淡路大震災以降「福祉避難所」が位置付けられたり、避難所の環境を改善するよう通達を出したり、国による災害時の支援指針が変わってきています。

しかし「福祉避難所」がどのようなものなのか、避難所の環境をどう改善するように国が示しているのかについて、障害当事者にほとんど知らされていないのが現状です。

平時に避難所をチェックし、指定避難所が障害者市民にとって使いにくいのであれば、避難所としてどこか適当なのか、あらかじめ決めておくことが重要です。

現状では、災害時に福祉避難所の開設を想定しているところでも、量的な整備が進んでいなかったり、支援人員を含めた運営面での課題が解決していなかったりする自治体がほとんどです。

仮設住宅も、障害者が暮らすのに適していない構造になっているうえ、設置から撤去費用を含めると450万円程度の費用がかかっています。仮設住宅は2年間を限度とした制度なので、1か月あたりのコストは18万円程度になっています。さらに仮設住宅は撤去後に保管をすることになっていますが、阪神・淡路大震災では保管スペースがないために、多くの仮設住宅が廃棄されました。

これらの費用発生や、環境面への配慮を考えると、仮設住宅を作る場合には、既存のプレハブ住宅建設だけでなく、既設の空き家住宅の利用も含めて障害者市民の生活に耐えうる建物を準備すべきだと考えます。

防災についての当事者の意見を

国の動きに合わせ、最近「災害時要援護者の支援マニュアル」を作成する自治体が増えています。しかし行政のスケジュールを優先させ、当事者参加もないままマニュアル作成をする自治体も多く存在しています。

また当事者参加があった場合にも、行政からの説明や、防災についての情報が少ない中では、どれだけの意見を反映できるか難しいと思います。また行政姿勢による差も出てきます。

たとえばある作業所を福祉避難所として指定したいと考え、耐震改修や資材の備蓄が必要な場合は、行政として予算を確保する必要があります。障害者参加で避難所体験を行う場合も経費がかかります。

単に話し合いを行うだけでなく、具体的な防災活動に予算を確保する姿勢がないと、形ばかりのマニュアル作りになってしまいます。

日頃のまちづくりを変える

ゆめ風基金では災害に向けて、日頃どのような取り組みを進めることが大事かを15の提言としてまとめた「障害者市民防災提言集」を8月に完成させました。

また、地域の障害者市民防災活動に対して助成をする制度を6月に発足させました。

災害が起きたときには、日頃のまちづくりや学校での取り組み、福祉サービスのあり方など、さまざまな取り組みの結果が如実に現れるといえます。地域の障害者拠点やネットワークがしっかりしていることで、防災に役立つことも多くあります。障害者拠点を支える仕組みとして、まだ近畿に限定された取り組みではあるものの「ゆめのたね」という融資制度を近畿労働金庫と共同で発足させました。

兵庫県が策定した復興計画には、

「今回の地震による被害を、これまでの「利便」「効率」「成長」を重視する都市文明への大きな警告と受け止め、被災地の責任として、「安全」「安心」「ゆとり」をキーワードとする都市を復興しなければならない。」

「復興にあたって重要なことは、単に1月17日以前の状態を回復するだけではなく、新たな視点から都市を再生する「創造的復興」を成し遂げることである。」

とあります。

防災をテーマとして話し合いが行われたり、具体的な活動が展開されることはまだまだ少ないのですが、ゆめ風基金としては、「防災」を通じて「効率」優先の社会から、「安心」を優先する社会への変革を実現していきたいと考えます。

障害者市民防災活動を助成

ゆめ風基金では、自然災害が起きたときに、少しでも障害者市民が受ける被害を小さくするため、障害者市民防災・減災活動を助成します。助成限度額は1事業につき、1回50万円です。

障害者市民防災活動とは、

  1. 防災シンポジウム、講演などの啓発・学習事業
  2. 避難所点検、防災マップ作成、家具の固定などの防災活動
  3. 災害時の障害者市民支援ネットワークづくり事業
  4. 指定避難所や福祉避難所での避難体験
  5. その他、障害者市民防災に役立つ事業

助成金の申請について

助成金の申請には所定の申請書が必要です。申請書はゆめ風基金事務局にお申し込みください(ゆめ風基金のHPからダウンロードすることもできます)。申請はいつでも受け付けますが、単年度(1月~12月)の助成総額を100万円とし、単年度で100万円に達した時点で、その年度の助成金申請を締め切ります。詳しくはゆめ風基金へお問い合わせいただくか、HPをご覧ください。

TEL 06―6324―7702
FAX 06―6321―5662
http://homepage3.nifty.com/yumekaze/

(やはたたかし NPO法人ゆめ風基金事務局員)